ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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東雲芸能科GP(3)

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 特徴だけ聞くと、まるで恋のよう。
 でも、そんなわけはないだろう、と二人とも思っている。
 ので、二人で首を傾げた。
 
「でも、確かにヤキモチなんだ?」
「それはヤキモチだと思う。日守にも負けたくない、淳ちゃんにアイドルとして認めてもらいたいとか思うっていうか……?」
「魁星はアイドルだと思っているよ?」
「うーーー……そうじゃなくて……」
「んー?」
 
 むしろ一緒にアイドルをやっているのに、アイドルとして認めてもらいたい、なんて。
 十分アイドルだろう。
 むしろ、顔面の整いっぷりから淳以上のアイドル適性がある、と思っている。
 最近は特に、ステージの上でパフォーマンスする魁星はとても輝いているのだから。
 でも、本人はそうではないのか。
 
「なんか、淳ちゃんが最近、マジで忙しそうでさ」
「そうだね」
 
 でもそれは仕方ない。
 仕事やレッスンで忙しいなんて、むしろとてもありがたいことだ。
 淳は自分のことを、限界のあるアイドルだと思っているから、余計に魁星のアイドル性は天性だと思っている。
 それなのに、今は淳の方がどうにも多忙なのが、もしかして気に入らないのだろうか?
 だとしたら――
 
「会う時間が減って、なんか、焦る」
「魁星も仕事をしたいってこと? それなら――」
「ううん。俺はやっぱ母さんに見つからないような仕事をしたいって思っている。アイドルの仕事は楽しいけど、目立つ分母さんにたかられる。今は学院のシステムのおかげで、一ヶ月一万円だけ取られてるって感じ」
「取られてるんだ」
「寮に押しかけられるんだよね」
「え、聞いてない」
「心配かけると思ったし、お金を一万だけ渡せば納得はしてなさそうだけどちゃんと帰るんだよ。……でも卒業したら、きっと……」
 
 魁星の母親はとことん、クズらしい。
 そんな母から逃げる術を、淳たちのような子どもはまだ見つけることができない。
 でも、学生でいられる間に見つけなければ。
 
「俺、卒業後はセキュリティのいいマンションに住むって目標はそのままで目立たない仕事したいな。でも、そうしたら淳ちゃんと離れちゃうよね。俺、どうしたら淳ちゃんと一緒にいられるんだろう?」
「卒業したあとも?」
「うん」
「うーん……」
 
 首を傾げる。
 淳は卒業後も、春日芸能事務所でミュージカル俳優を目指す。
 かなりアレな方法で淳のミュージカル俳優になる夢を叶えようとしてくれているので、春日社長についていくつもりだ。
 卒業後も淳と一緒にいたい、というのなら。
 
「魁星にもいくつかの芸能事務所からスカウトがきているんだよね?」
「うん。でもどこも仮所属前提」
「そっか」
 
 かなり安く買い叩こうとしているようだ。
 それに仮所属とはいうが、魁星に来ているスカウト――仮所属条件を見ると『月額いくら支払って研修やレッスンを受けてもらう』、いわゆる研修所ビジネスのもの。
 確かにお金に困っている魁星にこれはない。
 うーん、と考えてから、淳は「今度春日社長に魁星のことかけあってみようか」というもの。
 
「えっと、どういう意味?」
「魁星も俺と同じ事務所に入れてもらえないかな、ってこと。一年生の時ならいざ知らずだけど、今の魁星は絶対に目に止まると思うんだよね」
 
 コラボユニットで日守と対峙した時に、魁星の魅力は開花したように思う。
 少なくともあれから魁星は定期ライブでは二、三年生合同のステージでもセンターを務める。
 魁星が一番華やかで目立つからだ。
 もちろん顔のよさなら後藤も王道のイケメンっぷりなのだが魁星に進んで譲ってくれる。
 そのあたりは来年のことも見据えての判断。
 そう、来年。
 三年生になったら、魁星はきっともっと人気が出る。
 もしかしたら、綾城くらい人気が出るかもしれない。
 ただ、魁星はまだ、その覚悟のようなものがない。
 人目を引くアイドルらしい魅力には開花したが、それが発揮されることは日守のような「負けたくない相手」がいる時だけのように思う。
 
(魁星の“負けたくない相手”が俺だったら、魁星は学生の身で綾城先輩くらい活躍できるかもしれない。魁星にはアイドルの才能がある。俺はアイドルが好き。花房魁星というアイドルに、もっと輝いてほしい。魁星がなにに悩まされているのかわからない。それが解消されたら、きっと)
 
 花房魁星というアイドルは、綾城珀に準ずるほどのアイドルとして生まれ変わる気がする。
 目の前の、しょんぼりと俯く魁星を通して見えるのは、ステージの上で輝く――日守と『決闘』した時の魁星。
 あの時のアイドルの魁星は、淳が初めて見た憩星矢いこいせいやというアイドルの姿と重なる。
 淳が見たアイドルには、それはもう、色々な人がいたけれど。
 
(やっぱり憩先輩が一番“アイドルらしいアイドル”だったもんな。俺のアイドルのイメージもやっぱり憩先輩だな)
 
 神野栄治も鶴城一晴も“アイドル”ではあるが純粋なアイドルというよりはやはり『モデルでアイドル』、『俳優でアイドル』だったが『アイドルでアイドル』だったのは――音無淳のアイドルのイメージは憩星矢だ。
 彼と、綾城珀。
 彼らのようなアイドルを――模す。
 
(俺は模倣。でも、魁星は天然物の、天性の)
 
 淳が大好きな、ほしくても手に入らない“天才”。
 神野栄治は“そういうもの”に対して「凡人は天才に食らいつくために努力するしかない」と言っていた。
 実感する。
 目の前に天才の、天性のアイドルを見た時に。
 
(俺の答え次第で、魁星は潰れてしまうよね)
 
 神野栄治は「やる気ないなら潰してやるのも相手のため」という考え方。
 でも魁星は別にやる気がないわけではない。
 むしろ、アイドルを続けていくことで母親にまとわりつかれることに困っている。
 
(神野栄治なら――)
 
 こう言うだろという、ことはすぐ思いつくけれど、淳の言葉でないと相談を受けている意味がない。
 春日社長なら魁星のよさもわかってくれるし、あの人なら母親から魁星を守ってくれると思う。
 
「話すだけでも話してみていい?」
「卒業後も、それなら淳ちゃんと一緒にいられるってこと」
「うん、そうだね」
 
 少し顔を上げた魁星がはにかむ。
 根本的な解決はしていなさそうだけれど、本人が笑顔になったならそれでいいかな、と淳も笑った。

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