ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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ダンジョンボス部屋前

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「マギさんには優しくしますもん! こんな性悪女の方が嫌ですよね!?」
「いえ、あの……自分は恋人を作るつもりはないので、急にそういう話はやめていただいていいですか? まず間違いなく自分が社外不適合者の自覚はあるので、恋人など作ったら確実に迷惑をかけるしその人の貴重な人生の時間を余計なことに使わせてしまうのも申し訳がないので、どうかLARAさんの大事な時間はご自分のためになるお相手に使ってください。でもゲームが上手くなりたいということのために使いたいのであれば、全力でお手伝いしますので」
「マ……マギさん……」
 
 うわあ………………。
 見事なクソゲーオタの断り文句にも、丁寧なイケメンの断り文句にも聞こえる。
 さすがのLARAも明確なお断りに涙目で俯く。
 
「今日はただ純粋にSBOを楽しみましょう? オレも今日からだから、一緒に教わりながら強くなりましょうね」
「は……はい!」
 
 見事なイケメンムーブでLARAを丸め込み、無事にダンジョンを進めることになったものの、空気は微妙と言わざるを得ない。
 その後もシーナとミオ、ルカが中心になってバフをかけ、セイとマギ、LARAとビッキーが前衛で敵を倒していく。
 セイはレベルでの力押しだが、マギがプレイヤースキルで初心者向けの魔物では相手に不足、といった様子。
 普通に強すぎる。
 あっという間に底辺のダンジョンボスの巣に辿り着いたのだが――
 
「武器スキルツリー、全部開放しちゃったので一旦交換してきてもいいですか?」
「ボス部屋前も転移石があるから言ってくるのはいいけれど……そこまで育てたあとだと交換後の武器の方が武器ステータス低くなるよ?」
「大丈夫です」
 
 マップから一度ファーストソングに戻るマギ。
 シーナはビッキーとLARAに「二人も武器スキルツリー全開放したなら今のうちに交換してきてもいいですよ」と気を使うが、二人ともメニューを開いてポチポチ確認した結果首を横に振られた。
 同じ初心者の二人が、初期武器のスキルツリーをまだ全開放できていない。
 対してマギは、二回目の交換。
 なんでこんなに差があるのかといわれると、純粋にやつの魔物の討伐数が多すぎる。
 バフに歌の上手さが加味されて、追加効果が付与されるが武器も同様。
 難易度の高いダンジョンになると武器破壊効果持ちの魔物も現れるので、初級ダンジョンの武器素材を今からストックして武器の育成をしておくのは重要になる。
 
「マギさん、あたしとログイン時間変らないはずなのに……すごーい」
「アタシたちもメニューから装備とか確認しておこう。一応ダンジョンボス部屋前だし?」
「そうですね」
 
 ミオに言われてシーナたちも装備を確認する。
 初級ダンジョンのボスはシーナの場合レベルで殴れるのだが、今日はあくまでも新人二人のレベリングが目的。
 なのだが――
 
「マギ、ゲーム上手すぎ。アイツとビッキー、チーム分けした方がよかったかも」
「自分もそう思いました。マギはシーナとサードソングあたりのダンジョンでレベリングしてもよかったかもしれませんね」
「情けないです。ゲーム自体初めてですけれど、こんなに差があるなんて……」
 
 しょんぼりしてしまうビッキー。
 いやいや、ゲームプレイヤーとしての経歴が違いすぎるので落ち込む必要はない、と慰めるシーナとルカ。
 あれは比べてはいけない。
 あれは“プロ”だ。
 ガチのプロゲーマーが今日初めてログインしたVRMMO初心者が追いつけるはずもない。
 それにしても一年このゲームをやっているシーナでもプレイヤースキルの差を感じてしまう。
 
「あれ? ……えええええええ!?」
「なに~?」
「運営から新情報が出てます! 一周年記念イベントですって! プロモーションを担当している神野栄治様と鶴城一晴のツルカミコンビと二人が所属するBlossomブロッサム、去年SBO内でライブをしていた東雲学院芸能科からも複数のグループが参戦!? なにそれ聞いてない! 東北緋雀あかすずめ学院芸能コースの『御輿ミコシDE・JUMPジャンプ』も新加入生徒を引き連れ登場予定!? マジかキターーーーーーー!?」
「東雲学院芸能科以外の芸能科もSBOでライブすんのぉ!? しかも緋雀あかすずめの『御輿ミコシDE・JUMPジャンプ』! 御輿も上手いもんねぇ~」
「一周年ライブは五月三日……って明後日じゃないですかー! ヤバい、スケジュール今から調整できるかな……あ! ゲストに蔵梨柚子らしいですよ!」
「はあああああ!? 蔵梨様が!? 僕もスケージュール調整する! 何時から!?」
「明後日十八時かららしいです!」
「明後日十八時からね!」
 
 オタクたち大歓喜。
 スン……と困惑するセイとルカ。
 そんな状況の時に戻ってくるマギ。
 なにが起こっているのかわからず、ビッキーとLARAに「どうしたんですか」と首を傾げる。
 
「あ、マギ戻ってきているんならそろそろボス部屋行こうか」
「はい。いつでも行けます」
「ボスってどんな魔物なんですか?」
「『壺』のボスは仮面陶器っていう仮面を被った陶器の壺……の、ふりをしたゴーレム。体力が半分になると人型に変形して戦うんだよ。硬いから攻撃直上昇のバフと、武器スキルの攻撃力低下や速度低下の歌デバフを使ったりするといいかも」
「デバフも歌なんですね」
「デバフも歌です」

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