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撮影スタジオ
しおりを挟む「はい、書類の方は不備もありませんね。ではこれで正式にうちの所属タレントとして、ホームページに指名と宣材写真を掲載させていただきますね。宣材写真は以前提出していただいたものを使わせてもらうつもりですが、去年のものだから撮り直ししますか? 髪型も色も変えましたよね」
「あ、そう……ですね。そうですね、撮り直そうかな……」
「わかりました。うちで提携している撮影スタジオでの撮影をしていただけるのなら、撮影費用はうちで持ちますけどどうしますか?」
土曜日、春日芸能事務所に正式契約をしに父とともにやってきた。
父のサインも入って、無事に契約完了。
安堵して、父と顔を見合わせていたら社長がそんなことを言い出した。
確かに最近髪型も髪色も変えたので、去年の宣材写真とはかけ離れてしまったので頷くと地図の書かれたプリントを差し出される。
事務所の入っているビルから近いところに、撮影スタジオがあるらしい。
ジャケット撮影や、宣材写真などはここに頼んでいるとのこと。
「わかりました。行ってみます」
「今から行けるのなら、僕の方から連絡を入れてみますけど」
「あ、それじゃあ……はい。よろしくお願いします」
「では、行ってらっしゃい」
社長に見送られて表に出る。
父は「相変わらずなんかこう……圧がある人だな」とネクタイを緩めた。
地図に従って近場にあったスタジオに到着。
玄関を潜ると受付カウンターがあった。
「すみませーん」
「はーい。待っててー。今行きまーす」
父がカウンターの奥へ声をかけると、すぐに若草色の髪の美青年が現れる。
高身長で、声も容姿も非常に爽やか。
春日芸能事務所のアイドルがモデルか? と勘繰るほどに。
「え、ええと……春日芸能事務所の――」
「うん、じゃないや、はい、今彗さんから電話をもらっていました。新しいタレントさんが宣材写真を撮影してほしいって」
「はい。音無淳と申します。初めまして」
「初めまして! 俺は由井妃! カメラマンとヘアメイクアップアーティストやってます! はいこれ名刺」
「「ありがとうございます……?」」
親子に差し出される名刺。
大人しく受け取って、名刺の名前を見る。
男らしからぬ名前だなぁ、と思っていたが、このスタジオは春日彗に頼まれてやっている等、と聞いてなくてもベラベラ話してくれた。
なんでも『綺麗なもの』に目がなく、男だろうが女だろうが自然な美しさは撮影したくなる体質。
なんだそれ、と思ったが突如カウンター下からアルバムを取り出してきて「これ、サンプル!」と称して色々見せてくれた。
普通に春日彗や綾城珀の自然体が写真に撮影されていてほう、と魅入ってしまう。
やはり春日社長、普通に美少年。
それにこの由井という人、性格が底抜けに明るい人なんだなぁ、と呆気に取られる。
これは完全な陽キャ。
「君もちょっとお化粧で整えたら綺麗になりそう!」
「あ……ありがとうございます」
「お化粧するよね? まさかノーメイクで宣材写真撮らないよね? さすがに。お金は事務所の方からもらえるから、なにも気にしなくていいからねー。こっちこっち」
「は、はい」
お父さんも化粧します? と笑いながら聞いてくる由井に、笑ってお断りを入れる父。
案内された部屋で化粧水を塗られ、保湿液を塗られもちもち肌にされたあとベースを塗られて軽くファンデーションを塗られた。
そういえば宇月と後藤もお化粧ができる系男子。
「俺もお化粧とか教わった方がいいのでしょうか」
「お化粧結構楽しいから覚えてるといいよ~。現場だと自分でお化粧しなきゃいけない時とかも多いでしょう?」
「う……そうなんですよね……。でもよくわからなくて……。結局なんにもやってないというか」
実は宇月にも「美容に気をつけなさい。アイドルなんだから。推しに突然出会って、肌クソボロボロだったら恥ずかしいでしょ」言われたことがある。
悲しいかな、宇月に「僕は可愛い系だから美容に抵抗ないけど、まだ男子が美容用品買うの大変なのはわかるけどさー。ナッシーはブサーに比べてやっぱり見劣りする顔面なんだからさー、肌くらい綺麗にしておきなー?」と言われてしまった。
真実は時に人を傷つける。
「あー、ね。でもそれなら化粧水と乳液一本ずつ持っておいて、毎晩使うだけでも違うかも。今はまだ若さで平気だけど、二十歳越えると変わってくるからねー。少なくとも液体の乳液は一本持ってるといいよ。乳液って化粧落としにも使えるんだ~。持ち歩いてると便利だよ」
「へえ……そうなんですね」
「あとはオールインワンのクリームとかも売ってるから、男子で面倒くさがりさんならそういうのもおススメ。珀さんとか、美容品の質問とか気軽にメールしてきてくれるから色々教えてるんだけど……淳さんもメアド交換する? あ、現代っ子はSNS?」
「へぁ」
ガッチリリメイクはしないよぅ、と言われ、目を開けると確かにかなり整えられていた。
スマホを見せられ、なんとなく拒否権がなさそうなのでSNSアカウントを教える。
まあ、最悪SNSアカウントなら自衛もできるので。
「うん、おっけー。じゃあスタジオの方へどうぞー」
「あ、ありがとうございます」
「あ、仕事の依頼も受け付けてるから! 気軽に連絡してね!」
「ありがとうございます……?」
もしかして、社長は由井の営業も見越した上で淳をここへ誘導した?
その可能性大だが、宣材写真は大変素晴らしい出来のものをいただいたので腕は間違いなかった。
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