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二年生になりました(3)

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「っていうか、音無、柳くんの先生なんだ!? 紹介して紹介して!」
「それはお断りするかなー」
「なんで! いいじゃん! お願い!」
「『Egg Ballエッグボール』を希望してきたら、その時は受け入れてあげてほしいけれど……」
 
 柳の希望は星光騎士団。
 今のところ他のメンバーたちも柳の加入は賛成してくれている。
 北王子のグループに鞍替えするというのなら、まあそれはそれで。
 淳としては柳がアイドルになる、ということ自体がワクワク。
 すでに子役として十分知名度のある柳が、アイドルになる。
 事務所的には「せっかくネットドラマで子役から俳優としての成長を促していたのに、どうしてアイドル?」と思われたかもしれない。
 だが柳自身の希望した進路と、東雲学院芸能科という最近綾城珀の出身校として知名度が上がっている学校に行くのなら、と許しが出たのだと思われる。
 一年生を全員チェックし終えた淳に、北王子が「なあなあ、柳くん以外だとこの子とこの子とこの子よくない?」と話しかけてきた。
 淳の場合あくまでもただのドルオタなので、ショタコン目線では見ていない。
 なので指差された子たちに対してなんとも言えない気持ちを抱きつつ、覗き込む。
 
「あ、愛咲由依まなさきゆいくんとゆずりはルシルと鏡音円かがねまどかくん!」
「有名な子?」
「愛咲由依くんは子役上がり俳優だね。柳くんと同じ事務所の。でも、北海道支部出身で映画とかによく出てる子。楪ルシルくんはアイドル系モデルとしてSNSで有名になっている子。まあ、その……いわゆる親がゴリ押ししている系の……」
「あ、ああ……」
 
 親が自分の承認欲求を満たすために、さまざまなSNSや動画投稿サイトなどて自分の子を撮影しアップしている系のアレだ。
 子どものプライベートなんて微塵も配慮なく、ただただ子どもを通して自分の承認欲求を満たせればそれでいい。
 北王子も似た経験を持っているので、それを聞いてがっくり項垂れてしまった。
 
「鏡音円くんは有名なゲーム配信者」
「「「ゲーム配信者?」」」
「そう、今流行りのワイチューブでゲーム配信してる子で、SPF? FPS……? の世界的トップランカー。小学生の頃からすごいプレイヤーだったから、たまにニュースで放送されてたよ。……なんで東雲学院の芸能科に来たんだろうね?」
 
 心底不思議で首を傾げる淳。
 鏡音円はゲーム配信者としてやっていける気がするのだが。
 
「有名なんだ?」
「有名だね」
「有名だからあえて芸能科に来たのかもね? 普通の高校だと大変、とか?」
「ああ、そうかも?」
 
 確かに普通の学校では色々絡まれそうだ。
 しかし、だから芸能科というのは――それは正解なのか?
 そのあたりはもしかしたら、鏡音本人にもわからないのかもしれない。
 
「でもこういう珍しい経緯の子がアイドルとしてどんな表現でアイドルになっていくのかを見守るのが学生セミプロを推していく醍醐味なんだよねぇー! 早く今年の一年生のグッズも販売されないかなぁー!」
「そうだった。淳ちゃんって毎年東雲学院芸能科の生徒のグッズ全員分買ってる人だった」
「うん! みんなの二年生追加グッズも買うよ!」
「「か、神……?」」
 
 思わず手を合わせる天皚と北王子。
 二年生になると、宣材写真が一新されてグッズ化される。
 一年生の時と違ってサインも書き慣れ始める頃合いのため、サインもかなり形が崩れてきてサインのあるグッズも別物のようになるのが二年生のグッズの特徴。
 だから古参ファンは、一、二、三年と学年が上がる度に購入するのだ。
 
「魁星と周は一年生の時のグッズ、不満も多そうだったから今年一年どころか購入したファンの人たちの手元に残ることを意識してサインとか書いてね」
「「はい……」」
 
 特に魁星。
『地獄の洗礼』で授業中書いたサインがまさかそのままグッズに使われると知らず、かなり適当なサインを提出した過去アリ。
 今年はさすがにそんなヘマはしない。はず。
 
「三年生の新規追加グッズも買うけどね。あ、宇月先輩のチェキカードやフォトカードはポーズの参考になるから見てみる?」
 
 淳が鞄の中からフォトファイルを取り出して差し出す。
 忘れがちだが、宇月は一応モデルのお仕事もしているのだ。
 数種類の写真がずらり。
 
「すっっっっげ……!」
「ちなみにこのあたりは雑誌の切り抜き。こっちは花崗先輩の」
「そ、そっか、こういう仕事もこれから増えるかもしれないもんね」
「実際星光騎士団はIGのあと第二部隊も雑誌取材を受けたりしたもんね」
「あったね」
「サブスク配信用ジャケットの撮影とかもあるし」
「あ、あったね」
「定期ライブのポスターのジャケット撮影とか」
「「「「…………勉強します」」」」
 
 出るわ出るわ。
 ともかく、二年生になってからはこういうポーズを取る撮影の機会が増えるので、先輩たちの写真を見て勉強するべきだろう。
 実際先生が教室に入ってきてすぐに「進級おめでとうございます。ではこれから宣材写真を撮りにスタジオへ行きましょう」と言い出したため、クラスメイトが硬直した。
 席についていた2年A組の生徒が淳のところにわらわら集まってくる。
 
「音無さっきのファイル見せてください」
「俺も、俺も……!」
「待って、みんな落ち着いて。今年の三年生の宣材写真ページとかも参考になるから全員で一気に読もうとしないで。というか――それならギリスのファッション誌『birthday』も見て! 神野栄治様を見て!」
「ウワー、出たー! 音無の神野栄治先輩布教」
「で、でもプロだしな、神野先輩……」
「宣材写真は今年一年使うものですから、神野くんや宇月くんや花崗くんを参考にするのはいいと思いますよ。神野くんと花崗くんは中学生時代からモデルをやってきたけれど、宇月くんはうちの学院に通うようになってからモデルの仕事をし始めた子なのでぜひ指導してもらいましょうか」
 
 魁星が顔面蒼白になる。
 担任の渡島ととう先生が眼鏡を押し上げながら、三年B組の担任に連絡を入れたのを見て膝から崩れ落ちた。
 その魁星の様子に動揺が広がる。
 
「宇月くんにしっかり教わってくださいね」

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