ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

文字の大きさ
上 下
225 / 430

二年生になりました(2)

しおりを挟む

 そんな話をしつつ翌日は入学式。
 東雲学院芸能科に、新入生が入ってきた。
 入学後、一週間後にライブオーデションが開催されるので、二年生、三年生はある程度一年生の情報を集めておく。
 その情報源になるのが、公式ホームページのプロフィール。

「ここで自分たちが使うことになるなんて」
「今朝まで存在すら知りませんでしたからね」
「星光騎士団と魔王軍と勇士隊は今年も希望者が殺到だろーなぁー。IGで予選突破どころか、本戦の最終日まで残ってるんだもん。学生であそこまで戦えるなんて、誰でも希望しちゃうよなぁー」

 なんて笑っている天皚に、『地獄の洗礼』を思い出した魁星と周は顔を青くして俯く。
 天皚も『地獄の洗礼』の内容を聞いたことがあるので素直に「ごめん……」と謝った。

「っていうか、やっぱり学院の知名度そのものが上がったせいかちらほら名前を知ってる生徒がいるな? これとか……柳響とか、確か子役でドラマに色々出てた子じゃないか?」
「う、うん……」
「まさか……知り合いなのか? 淳ちゃん」
「えーと……うん、まあ……そのー……同じ劇団出身の伝手で演技指導と家庭教師を少し」
「はあーーーー!? 柳響の!?」
「柳響!?」

 と、ものすごい勢いで天皚の真後ろから北王子密きたおうじひそかが顔を出してきた。
 四人でびっくりした顔をしてしまったのを見て、北王子がハッとしてコホン、と咳き込む。
 北王子密は周と同じく芸名。
 本名は「キラキラネームすぎて読めた人いないんだ」と顔を青くして首を横に振っていた。
 ここ数年、キラキラネームのせいでいじめを受け、芸名でまともな日本人らしい名前を堂々と名乗れるから、と芸能科を志望する子が多いという。
 そういうキラキラネームをつける親は、芸能科と聞くと「やっぱりうちの子は特別!」と勘違いして十中八九賛成される。
 で、そのまま芸能科に入り、その芸名が定着した頃転科する――というパターン。
 北王子も最初はそのつもりだったが、淳と千景のコラボユニットのおかげでアイドル活動楽しい、もう少しやってみたい、となり無事に二年生に進学。
 と、いう経緯があるのを割とペラペラ話してくれた。
 で、その北王子がゆっくり鞄の中からスケジュール帳を取り出す。
 スケジュール帳の中から出てきたのは柳響フォトカード。

「「「「……まさか……」」」」
「そのまさかだよ。僕、ショタコンなんで」
「「「「…………っ!!」」」」

 いや、その告白はしなくてもよかったような。
 淳たちは「柳響のファンだったんだ?」くらいなものだった。
 あまりにも斜め上のカミングアウト。
 違う、そうじゃない。

「柳響は小さな頃から可愛かったじゃん? あと、木村ユウカくんや椋木憧子むくきあこくんを追ってた。そ、そっかー、柳くんももう高校生なんだな……っていうか、一年生!? 東雲学院に入学してきたってこと!?」
「え……シンプルに怖いんだけど、ショタコンって一歳差でも守備範囲内なの……?」
「一個年下ならもう十分範囲内」

 親指立たせる北王子。
 魁星が割と本気で怯えている。
 周があまりの怯え振りに「どうしました?」と聞くと、「クソババアの付き合ってた彼氏の中にショタコンいたことあって……」とそこまで言われると大体お察し。
 世の中本当にいろんな性癖の人がいるなぁ、と感心する。
 とりあえず周がさらに心配して「まさか被害が?」と恐る恐る聞くと、魁星は「目が怖かった」とのことで、実質の被害はなかったが……いや、十分被害を受けているか?
 とにかく怖い目には遭っているらしい。
 それを聞いた北王子は「いやいや、真のショタコンはお触り禁止だし、視姦は気づかれたらそれは雑魚」と真顔で言われた。
 性癖歪むの早いねぇ、と淳が笑いながらフォローするが、北王子は胸を張って「まあね!」と言い放つ。

「むしろそれを表に出していくと個性が出ていいんじゃない……かなぁ?」
「え? ……いいの……?」
「まあ、珍しいことだし? 俺のドルオタも性癖といえば性癖だし」

 と、淳が言うと他の三人が肩を掴んで首を左右に振る。
 しかしドルオタは拳を握って「いや、大丈夫! むしろ厄介ファン避けにもなるし!」と言い放つ。
 その説得力に、三人ともスッと手を離した。
 特に最近淳と同じく厄介ファンに悩まされている魁星と周が、厄介ファン避けの武器・盾があるのは羨ましい。

「俺もなにか変な性癖とかあればいいのか? どんな? ろ、ろりこん……? 全然そんな気ないんだけと……」
「うちは過干渉の親のことを言えば……?」
「二人は落ち着いて」

 魁星と周が混乱し始めてしまった。
 一旦二人を落ち着けながら、改めて北王子の方を見ると哀愁漂う神妙な笑顔でゆっくりスケジュール帳にフォトカードをしまう。

「今年からそれでいくよ」

 決意した顔に、天皚が一番変な顔をした。
 淳としてはアニメオタのアイドルや漫画オタのアイドルも増えているし、特になにも問題ないと思っている。
 淳自信、ドルオタだし。

「っていうことで早速一年生見に行かない?」
「オープンにすると決意してからフルスロットルなのやめた方がよくない!? ねぇ、淳ちゃん、密っちがいきなりフルスロットルでトップスピードでスタートダッシュしてるんだけどこれは止めるべきじゃない!?」
「ライブオーデションのこともあるし、圧をかけにいくのはいいことなんじゃない?」
「魁ちゃん、周っち、淳ちゃんがこんなこと言ってるんだけど!?」
「やめよう! やめよう!? それは止めて!?」
「淳、それは止めるべきです!」
「え? なんで?」

 全力で引き止められた。


しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

VR『異世界』より

キリコ
BL
 急速な高齢化が進む中、それに急かされるように開発が先行されていた、医療用VR技術の一般転用がされ始め早数年。  大手シェアのゲーム機メーカーが、ライバル社の幾つかと手を組み共同開発したVRゲームが、ついにお披露目されることになった。  その名も『異世界』。  世界中の名だたる頭脳によって作られたゲーム世界の神、AIユグドラシルの主張により、購入予約の権利は脳波測定を併用したテストをクリアした者を優先するとされた。後から公開されたその基準は、悪でもなく過ぎた善でもない者。毒にも薬にもならない、選りすぐりの『普通の人』。  ゲームができると思えば合格したのは嬉しい事なのに、条件に当てはまったと言われると嬉しくない。そんな微妙な気持ちながら、ついにログインできる日が来たのだった。

顔だけが取り柄の俺、それさえもひたすら隠し通してみせる!!

彩ノ華
BL
顔だけが取り柄の俺だけど… …平凡に暮らしたいので隠し通してみせる!! 登場人物×恋には無自覚な主人公 ※溺愛 ❀気ままに投稿 ❀ゆるゆる更新 ❀文字数が多い時もあれば少ない時もある、それが人生や。知らんけど。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

BLドラマの主演同士で写真を上げたら匂わせ判定されたけど、断じて俺たちは付き合ってない!

京香
BL
ダンサー×子役上がり俳優 初めてBLドラマに出演することになり張り切っている上渡梨央。ダブル主演の初演技挑戦な三吉修斗とも仲良くなりたいけど、何やら冷たい対応。 そんな中、主演同士で撮った写真や三吉の自宅でのオフショットが匂わせだとファンの間で持ち切りに。 さらに梨央が幼い頃に会った少女だという相馬も現れて──。 しゅうりおがトレンドに上がる平和な世界のハッピー現代BLです。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

処理中です...