ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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特別授業(1)

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「「「「………………」」」」
 
 全員が、目の前に現れた金髪金眼の美青年に沈黙した。
 明日に控えた一月の定期ライブの練習中、凛咲が連れてきたのは『CRYWNクラウン』の岡山おかやまリントこと秋野直あきのなお
 なぜ天下無敵の殿堂入りアイドルがここにいるのか。
 
「え、え、え? な、なんでCRYWNの岡山リント様がここに……?」
「『CRYWNウチ』の新曲の歌詞を凛咲先生に頼みに来たら、割引代わりにガキの指導を手伝えって言ってきたのよ。しょーがねーからやってやろうかなって」
「マ、マジすか!? CRYWNの岡山リントさんから直接指導してもらえるんすか!?」
「ゆ、夢?」
「サ、サインとかもらえたりするんでしょうか……!?」
「し、色紙……色紙とサインペン……一応準備しますか……?」
 
 テンションがぶち上がりすぎてオロオロするドルオタ。
 さすがにCRYWNの岡山リントのことは知っていて大興奮の長緒、緋村、山原。
 相変わらず無表情のまま直立不動の苳茉。
 それぞれの様子を見てから、苳茉に目を止める秋野。 
 
「お前ちゃんと病院行ってる? カウンセリングとか、受けてる?」
「え……?」
「ああ、やっぱりなんにも受けてないんだな。いるんだよ、お前みたいなやつ。ちゃんとカウンセリング受けないとダメだろうが。お前みたいなやつすぐわかるわ。知り合いのカウンセラーに予約入れておいてやるから、近いうち行ってきな」
「え……えっと……」
 
 目線をさ迷わせ、困惑する苳茉。
 秋のが「人と目を合わせられないやつは精神的に弱っている特徴の一つだぞ」と言われて俯いてしまう。
 ドルオタ組、「いやあ、天下の岡山リントに見つめられて目を合わせられる人間少なくない?」と思った。
 
「とりあえずお前らの実力見せてみな。他のグループも見なきゃなんねーし」
「は、はい。じゃあ、みんな、準備しようか」
「は、はい……!」
「うおお、緊張する~!」
「本番のつもりでやれよ。手抜いたら蹴るぞ」
「秋野ってステージとカメラの回ってないところだとマジやからだな」
「凛咲先生は甘やかすから、外部の俺がシメねーとダメっしょ。最近アイドルの数が増えているから全体的に質も下がり気味だしさー。いや、母体数が増えんのは喜ばしいんだけどよ。芽が出ないやつの数が多すぎて救いきれねーんだよなぁ」
 
 腕を組み、首を横に振る秋野。
 確かにプロアイドルの数は、事務所が増えているために爆発的に増えている。
 ドルオタはプロアイドルの方、追いきれないほどになっていた。
 なので有名どころ以外、淳は学生セミプロ専門。
 その中でも東雲学院芸能科箱推し。
 さらにその中でも星光騎士団オタク。
 
「お前だって芸能事務所やってんじゃん」
「まあね。でも、うちは今のところ少数精鋭だし。まあ、一応来年新規グループ売り出す予定だけどさ」
「え、それって朝科先輩たちですか!?」
「うん、まあ、そう。あと後藤? あいつはカウンセリング続けて様子見だけどな。なんか表には出たくないらしいから、それならそれで裏手のスタッフに配置するからいいんだけどな」
 
 それはもったいないのでは、と思うが、後藤がステージに上がったあと、同じ時間やたらと反省して落ち込むのを毎回見ているのでそれも仕方ないように思う。
 あんなにイケメンで歌もダンスも上手いし、衣装作りも曲作りまでできる上、スポーツ万能で色々な部活から助っ人を頼まれる人なのに……。
 
(……あの人なんでこんな完璧超人なのにあんなに自信がないんだろう……)
 
 いや、理由は色々聞いているので知っていると言えば知っているのだが。
 だがあのハイスペックぶりであの自尊心のなさは低スペック量産型アイドルの淳にとって、アイドルとしての才能に溢れている人が“ああ”だと少し悲しい。
 ただ、同じくらい“本人の気持ちが一番”だと思っている。
 アイドルを応援するということは、アイドルの行く道をも応援するということ。
 きっと色々悩んで、アイドル以外の道を望んだのだろうから。
 
「では始めます――」
 
 曲を流すと全員スイッチが切り替わる。
 もうすぐ一年。
 上手く切り替えができるようになっている。
 しかし、やはり淳と千景のパフォーマンスは頭ひとつ分抜けていた。
 特に千景の歌唱力は。
 
「あの黒髪、歌上手すぎん?」
「だよなー? 星光騎士団ウチで採りたかったけど、本人希望で勇士隊に持っていかれたんだよなぁー」
「もう一人の黒茶髪はダンス上手い。歌も悪くねぇな。あ、でもあいつ確かスイんところが採ったはずだし……ま、ウチの事務所でどうするかは様子見だな」
「まあーまだ今年で二年目だもんなー。こいつらー」
 
 曲が終わると秋野から「学生セミプロって感じ!」という感想が放たれた。
 なんという雑な感想。
 しかし、プロと比べて……と言われればそれまで。
 
「なんかまあ、グループのアイドルはしょうがないんだけどさ、個性をある程度殺して“合わせる”んだよな。でもお前ら元々グループ違うんだろう? それなのに変に器用だから、なんか“合ってる”んだよな。それがものすごい“違和感”になってる。どうせコラボユニットなんてその場限りみてぇな関係なんだから、相手の上手いところを食い合うぐらいに変な遠慮せず個性出してけよ。きしょい」
「き……」
「きしょ……」
 
 まさか「きしょい」と言い放たれるとは思わず、全員沈黙。
 凛咲だけが大爆笑。
 おい、教師。


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