上 下
188 / 260

一年生トップ4

しおりを挟む

 十一月、一週目の金曜日。
 
「ランキング出たー!」
 
 叫びながら立ち上がる淳。
 A組の生徒が全員一度淳の方を見て、慌てて皆、自分のスマートフォンを開く。
 昼休みだというのに、教室で弁当を広げていた生徒が談笑を停止して『イースト・ホーム』を覗き込み、沈黙が流れた。
 
「淳、すごいです!」
「おめでとうー!」
「ありがとうー! 魁星と周もおめでとう~!」
 
 後期の売り上げランキングが発表された。
 一位は“音無淳おとなしじゅん”。二位は“花房魁星はなぶさかいせい”。三位は“狗央周くおうあまね”。
 そして、前回四位は“日守風雅ひもりふうが”が――後期の四位は御上千景みかみちかげになっていた。
 
「ううわー!」
「どうしたの、天皚!?」
「お、おれ! 俺! 俺の順位爆上がりしてる! 三十位から十二位になってる!」
「お、俺も! 三十三位から十四位になってる!」
「俺もだよ! 三十二位から十一位に上がってる!」
「お、おいおい、マジかよ……コラボユニットに参加したメンバー軒並み順位上がってるって」
「うっわ、俺落ちてる……!」
 
 頭を抱える者、腕を掲げる者と命運がかなり分かれている。
 コラボユニットユニットに参加したメンバーがわかりやすくランキング順位が上がっており、参加しなかったメンバーは下がってしまったらしい。
 魔王軍メンバーは軒並み下がった。
 スケジュールから参加見送りだったのに、この結果は可哀想だ。
 特に長緒がわかりやすく床に崩れ落ちた。
 
「音無ぃー! コラボユニット、誘ってくれてありがとーーー! 一位おめでとうー! もう心の底からおめでとうって言える! っていうか間違いなくお前がナンバーワン!」
「あ、ありがとう~。駿河くんもおめでとう~」
「音無ー!」
「芽黒くん……!?」
 
 突然A組の後ろのドアが開く。
 入ってきたのは芽黒。
 そのまま淳に抱きついてきた。
 
「ありがとうー! 俺、俺、七位! ランキング、七位! 信じられない! 三十九位だったんだよ前回! グッズ売り上げ三千円だったのに……五桁超えているー!」
「お、おお……。おめでとう、芽黒くん」
「グループの売り上げも上がってる……ありがとう……ありがとう……! 音無のおかげだよぉ~!」
 
 泣いている。
 よしよし、と頭を撫でてやると本格的に「頑張ってよかったぁ。コラボユニット、頑張ってよかったよおおおお」と泣き出しちゃった。
 芽黒、魁星と日守のバチバチやサボり魔日守を練習に誘ったり、その他事務も必死に覚えたり淳と千景の手伝いも積極的にやったり定期ライブ執行委員にも参加したりと九月十月は本当に忙しそうに動き回っていたのを見てきたので、報われて淳も嬉しい。 
 
「コラボユニット、こんなに効果あるんだな」
「人間、限定って言葉に弱いからねぇ。俺もこんなに効果があるのは驚いたよぉ。……あれ、柳くんからもメッセージ……」
 
 誰? というクラスメイトに「演技指導している俳優の子」と答えつつメッセージを確認する。
『イースト・ホーム見ました! ランキング一位おめでとうございます!』というお祝いの言葉。
 まさか『イースト・ホーム』をチェックしてくれていたとは。
 すぐに『ありがとう~』と返事をする。
 
「とりあえず音無が一位なのは同級生の俺らから見てもアレだよな……妥当」
「それな」
「IG夏の陣も準優勝だし、コラボユニットの貢献度はガチ」
「今年一年振り返ってもお前が一番アイドルだったわ」
「気が早くない……?」
 
 うんうん、と頷くクラスメイトに若干困惑。
 そして長緒から「コラボユニットってもうやらない? またやるなら誘って」と迫真の表情で詰め寄られる。
 いやいや、やりたいなら勝手にやってほしい。
 企画の立て方なら教えるよ、と言うと「難しそうだしぃ」と言われてしまう。
 
「今年はもう厳しいから、来年でいいなら?」
「やるやるやる! 絶対スケジュール空けておく! な!」
「空ける空ける!」
「空ける、絶対空けるからぁ!」
「もうはぶらないでぇ」
「ハブいてないよ!? 魔王軍メンバーがスケジュールで参加難しかったの聞いているよ!」
 
 長緒たち、それぞれ二軍――四天王のユニットに昇級しているので、仕事が入っていたのは知っている。
 周が淳に縋る魔王軍メンバーに渋い顔をしながら「あなたたち、企画くらい自分たちでやりなさい。じゅんも暇ではないのですよ」と叱りつけた。
 実際自分たちで企画をして進めた方が、身になると思う、と呟く淳。
 それを聞いた芽黒が「俺、コラボユニットの企画練ってみる!」も目を輝かせる。
 
「はっ! 俺もちょっと千景くんにお祝い言ってくる!」
「「ええ……」」
 
 芽黒を長緒にぽいと投げて、淳が大急ぎでB組に走った。
 顔を見合わせた魁星と周もそのあとを追う。
 B組は芽黒が騒いだせいなのか、こちらもランキングネタで盛り上がって阿鼻叫喚。
 淳が入ってくると「一位から三位が来たぞー!」と謎の迎撃態勢。
 
「千景くん、おめでとうー! 『聖魔勇祭』でコラボユニットまた、一緒にライブできるね!」
「あひっ!? ひ、は、は、はひっ! あっう、あっう……お、お、お、音無く、も……あの、い、一位、おめでとうございます……」
「千景くんもおめでとうー! 嬉しいね! 嬉しいねー! 千景くんとまた一緒にライブできるね! 嬉しいねー! 大好きー!」
 
 と、本気で嬉しくてテンションが上がっている淳。
 淳の笑顔で千景が――倒れた。
 
「千景くん!?」
「ばば、ばばば……あばばばばば……ひ……光……」
「光!? なに、光って!?」
 
 可哀想に、と周が呟き、淳の脇の下に腕を突っ込んだ魁星により回収。
 なんでー! と叫ぶ淳はA組に引きずられて戻ることになった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 説明は初めの方に詰め込んでます。 えろは作者の気分…多分おいおい入ってきます。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫だと……思います(?) ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます! 5/25 お久しぶりです。 書ける環境になりそうなので少しずつ更新していきます。

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

同室の奴が俺好みだったので喰おうと思ったら逆に俺が喰われた…泣

彩ノ華
BL
高校から寮生活をすることになった主人公(チャラ男)が同室の子(めちゃ美人)を喰べようとしたら逆に喰われた話。 主人公は見た目チャラ男で中身陰キャ童貞。 とにかくはやく童貞卒業したい ゲイではないけどこいつなら余裕で抱ける♡…ってなって手を出そうとします。 美人攻め×偽チャラ男受け *←エロいのにはこれをつけます

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

兄弟がイケメンな件について。

どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。 「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。 イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

処理中です...