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十月の定期ライブ(2)

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「~~~♪」 
 
 各所でライブが始まった。
 朝一番のライブは”客寄せ”の意味が大きい。
 淳たちは星光騎士団のライブを終えると、続けて誕生日パーティーに移る。
 十月誕生日月は淳と綾城なので、二つのケーキがステージに運ばれてくる。
 八月は後藤と狗央の誕生日で、二人分のケーキを一つにしていたけれど、今月は二個のケーキ。
 二人の誕生日パーティー開始と同時にそれぞれ百食分のミニケーキが物販で販売開始した。
 綾城の誕生日は、今年が最後。
 ファンも涙を流しながら祝っている。
 淳もステージで綾城の隣で涙ながらに「東雲学院星光騎士団の綾城先輩をお祝いできるのが今年で最後なんですね……う、ううっううう」とマイク越しに感慨に浸っていた。
 それをなんとも言えない顔で見守っていたが、すぐに笑顔に戻って「来年からは『Blossomブロッサム』の綾城珀を祝ってほしいな。確かに学院は卒業するけれど、アイドルを辞めるわけではないから」と淳だけでなくステージ下のファンに向けても語りかける。
 さすがキング・オブ・アイドルの称号を『CRYWNクラウン』から受け継いだアイドル――と言われているだけはあるアイドル。
 
「ほら、それに淳くんをお祝いしてくれているファンもたくさんいるでしょう? 言うことがあるんじゃない?」
「そ、そうでした……! 綾城先輩と同じく十月生まれの音無淳です。俺の誕生日もお祝いしてくださっているお姫様の皆様、ありがとうございます! 今月のケーキは俺と綾城先輩のリクエストでモンブランとショコラケーキです。花崗先輩、宇月先輩、後藤先輩、魁星、周で作ってくれました。ケーキありがとうございます! ――と、いうわけで、物販の方でカットサイズのものが販売開始しておりますので、ぜひアフタヌーンティー用にお買い求めくださいね。生物ですので、本日中にお召し上がりください」
「うんうん、それも大事だけど……」
「もちろんわかってますよ」
 
 それも大事だが、綾城が言っているのは例のアレのこと。
 笑顔で答えてマイクを持ち直し、ステージのお客さんに向き直る。
 
「本日十三時、野外大型ライブステージにて、我々星光騎士団第二部隊を始め、東雲学院芸能科一年生が多数参加したコラボユニットが『決闘』を行います! 俺と周がチームA。魁星がチームBで参加しているので、ぜひぜひ、観に来てくださいねー!」
「おう! 俺だけチーム分かれちゃったんだけどさ! やるからには全力で戦うぜ!」 
「コラボユニットは本日限り! 歌うのも一度きり! しかし、『決闘』に勝利すればもう一度ステージで歌う権利を得られるのです! 皆様、どうぞ今日だけのドリームユニットをご覧ください!」
 
 淳と魁星、周がステージ下のファンへと告知を行う。
 会場に来て初めて知ったファンもいたらしく「本日限り!」という謳い文句に目を丸くして顔を見合わせる。
 人間、限定という言葉に弱い。
 
「もちろんわしらも観に行くで!」
「うんうん、うちの子たちが大活躍するところを撮影しないといけないもんねぇ!」
「みんなも絶対観に来てね!」
 
 花崗たちにもそう言われて、魁星が再び青い顔になる。
 宇月への苦手意識がもう深層心理に刻まれているレベル。
 ともあれ、星光騎士団のステージはいつものように無事に終わる。
 ステージを下りると後藤が鞄から脚立とハンディカムカメラを取り出した。
 なんか見たことないハンディカムカメラなんだが?
 
「あれ、先輩……星光騎士団のカメラってそれ……」
「経費で買い換えました。一年生たちのコラボユニット、楽しみで」
「ん、え!?」
 
 なんて?
 買い換えた?
 カメラを?
 
「いやー、最新版の高画質とズーム、夜間撮影もOKの大容量カメラ、この日のために買うたんよ」
「わざわざ!?」
「うちのワイチューブチャンネルにはライバーカメラ映像として掲載するんだから、マジで一秒でも気ぃ抜かないでね」
「二台目……!?」
「いやいや、ライバーカメラ映像って言ったやろ。三台で各々撮影するわ」
「「「三台!?」」」
 
 花崗、宇月、後藤がすちゃ、とカメラを構える。
 しかもそのうち一台は今日のために最新式を購入したという。
 まあ、一応、経費で。 
 
「ちなみに僕が持ってるのは私物」 
 
 ※宇月美桜、趣味:カメラ。部活:写真部。
 
「僕は魁星を担当するからねぇ~?」
「ひ、はいいい!」
 
 宇月、魁星から苦手意識を持たれているのをしっかり理解した上でからかってくる。
 背筋を正した魁星を、さすがにちょっと可哀想に思う淳と周。
 
(ところでうちの先輩たち、こんなに俺たちに甘かったっけ?)
(そんな感じ今までしませんでしたけどね……なんか……あ、甘いですね)
 
 さらに先輩たちは各自のSNSで後輩たちのコラボユニットのステージを宣伝していく。
 優しい。
 しかし十三時までは暇なので、せっかくだからと空いているステージで一年生だけでライブして宣伝を繰り返すことにした。
 五月や六月の第二部隊は、この空きステージのライブで精魂尽き果てたようになっていたのに二つのライブをしたあともまだ余裕がある。
 むしろ、やっと体があったまってきた感覚すらあった。
 これがIG夏の陣を乗り越えた、今の星光騎士団第二部隊。
 ……いや、ある意味夏の陣が過酷すぎたような気もするけれど。



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