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千景の相談(2)
しおりを挟む(怖いなぁ、石動先輩。自分のグループのことなのに……どうなってもいいのかな)
いくらでも波乱を巻き起こす。
自分のグループでも関係ない。
まさしく問題児。
――アイドルを辞める、と言っていたけれど、今は「卒業までは続ける」と言っていたはず。
けれど、恐らく本質的に排他的な感性の持ち主なのだろう。
いや、刹那的、なのかもしれない。
なんにせよ、石動は『下剋上』の件を了承している。
(多分――だけど……石動先輩は千景を“次期君主”に考えているんじゃないだろうか。もちろん、蓮名先輩の次の――)
朝科もおそらく日守を次期魔王候補として考えて二軍の麻野のグループに入れていた。
残念ながら彼らの期待に、日守は答えらなかったけれど。
改めて、三年生たちはすごいな、と思う。
一年生が入ってきた時から、“次”を考えている。
そういう先を見据える目が、自分にも必要だな、と強く思う。
では、それを踏まえた上で千景の提案を考えてみる。
勇士隊に日守が加わるとどうなるか。
まず、魔王軍はもうすでにA組の生徒が四人、それぞれの“四天王の部隊”に加わっている。
次期魔王はそこから優秀な者が選出されるので、麻野のユニットを追い出された時点で日守は“魔王候補”からもはずされている――ということになるのだ。
朝科の見切り――損切り――は早かった、ということ。
もちろん日守を切ったのは他の四天王と相談してのことだろう。
行き場のない日守は今回のコラボユニットで千景に『下剋上』を食らえばまず、勝つことはできない。
そのまま勇士隊に入る。
千景に拾われた、という形になる日守は千景に頭が上がらなくなるだろう。
なにより意外なことだが、同じ人に救われて憧れを持って東雲学院芸能科の門を叩いたのだ。
性格は水と油のようだけれど、きっと根本的なところで絆は生まれる。
(そうなったら……強敵だなぁ)
今は星光騎士団がもっとも知名度のある、一強と言っても差し支えのない状況。
だが来年、その主柱である綾城珀と花崗ひまりは卒業だ。
他のグループも三年生が卒業して一時的に弱体化していくだろうけれど、星光騎士団はきっと他の比ではない。
宇月も後藤も十分に優秀であり、人気は高いけれど――それでも、二人ともそれぞれ“声優”と“演者”のようであり実質的な“アイドル”とは呼べない。
(俺もどちらかというと俳優寄りだからなぁ……)
でも勇士隊は二年生の芸人? と千景と日守のような“アイドル”がいる。
相当に脅威だ。
阻むのなら、今。
――なのだが――。
「俺は賛成」
「え、ほ、本当……ですか……!?」
「うん。助けたいんだよね、千景くんは、日守くんのこと。同じアイドルに憧れてここにいるから。……わかるよ。俺も憧れの人がいたから、東雲に入学したから」
神野栄治。
もちろん、ツルカミコンビの“鶴”、鶴城一晴も劇団の先輩も憧れの人。
憧れのアイドルがいたところに、自分もいたい。
それなら日守も『勇士隊』にいるべき。
千景はそう考えたのだと思う。
日守はアイドルに対して憧れと、憎しみがある。
勇士隊に入らなかった理由もその些細なプライドがあってこそ。
だが結果がこれだ。
自分で自分を追い詰めて、どうしたらいいのかわからなくなっている日守。
そんな日守に千景も手を差し伸べたい――そう思ったという、ただそれだけの話。
もちろん、淳が二回も手を差し伸べたのを見て、「ぼくも」と思ったのだろう。
自分で自分を追い詰めていった日守の居場所を作りたい。
いや、自分がその居場所になろう。
そこまで考えられる千景の懐の広さ。
「日守くんと千景くんのコンビが勇士隊の代表格になれば、絶対エモい。ドルオタとして全力で応援するし全力で見たい。コンビ名とか考えちゃう? 日景コンビ、とか?」
「き、気が早すぎですぅ……!」
ぶんぶん首を振るラチカはアバターも相まってとても可愛い。
それでなくとも元々千景は淳の“好み”。
神野栄治と同じ美人系。
そのアバター、ラチカも美人系。
美人なのに、中身が千景なのですごく可愛く見えて淳……ではなくシーナもにっこにっこ。
「ラチカちゃん、可愛い」
「はえあぁ……!? な、なにを言って……! や、やめてください~!」
「可愛い。千景くん。可愛い。中身が」
「!? !? !?」
ドルオタとして、千景と日守のコンビは是非見たい。
なので全力で応援する。
そしてそれを考えて、石動と淳に相談した千景も可愛い。
なので、そのあと三十分くらい延々と「可愛ねぇ、千景くん。千景くんのアバターのラチカちゃんも可愛いよ。うーん、合わさってすごく可愛い~」と褒めちぎりまくった。
最初は恥辱で半泣きになっていたラチカだが、最後の五分は頭を突っ伏して「もう許してください~」と本格的に泣き出してしまう。
(これは根深い。もっと褒めちぎろう。この先も……徹底的に!)
ニコリ、と微笑んでから「じゃあそろそろレベリング行こうか」と声をかける。
レベルを上げればライブで歌える曲も増えるし、と言うとやっと顔をあげて「あ、は、はい」と頷く。
「あ~、千景くん、素直で可愛い。可愛いねぇ、優しいし、繊細なところやそういう控えめで謙虚なところも好きだな~。ちょっと謙虚すぎるのがもったいないけれど、でも、それがいいんだよね~。もうこれはもっともっともっと褒めて褒めて褒めちぎらないと~。ね。可愛いよ、千景くん!」
「や、やめてください~っ! もおおお~!」
「うふふふふふふ」
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