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敵意(2)
しおりを挟む「あー、朝科先輩が言ってたやつ。ふーん、俺以外で特に顔がいいってちやほやされてた人だよね? 顔に胡坐かいて練習サボりまくって格下げされたって話、本当だったんだ~? あはははは、残念だったね~」
「か、魁星?」
魁星はこんなことを普段いうキャラではない。
驚いて止めようとしたが、笑顔が急に真顔に変わる。
「顔は武器だけど、それだけで戦えるわけないじゃん。気づくの遅すぎ。それを周りのせいにするなんてそれこそどうかしてるし、ジュンジュンに八つ当たりするのもお門違いすぎる。そんなこともわかんないなら普通科に移動したら? 向こうに移動したら今まで通りちやほやしてもらえるんじゃないの? 完全に負け犬だけどね」
「……ハハ……。言ってくれるやん……!?」
「魁星」
咎めるように名前を呼ぶが、腕を組んだ魁星はプイ、と顔を背ける。
言いたいことを言ってなにが悪い、という態度。
まあ、実際その通りなのだが。
魁星の場合、顔がいいから東雲学院芸能科に入って稼げ、と言われて入学している。
顔がいいことは武器になるが、いいことではない――という認識。
それに、顔がいいからとちやほやされても歌やダンスはしっかり練習しないと淳にも周にも置き去りにされる。
というか、期末テストでは完全に学力に差がありすぎてちょっと泣いた。
自分と同じ量の練習をしているのに、基礎学力がもうまったく追いつけない。
事実結果は三位に20点差をつけて淳が次席、首位は周。
周は後藤が「全国学年別共通学力テストで10位以内にいつも名前があった」と言っているくらいには元々の頭がいいのだ。
二人とも、顔以外にも立派な武器を持っている。
たとえ二人が逆立ちしても顔面で魁星に勝てないとしても、魁星だって逆立ちしたって二人に学力で勝てない。
それと同じく、淳も声変りが終わってからすさまじいスピードで歌が上手くなっている。
元々振付、ダンスは完璧。
むしろ三人の中では体力も持久力も断トツで、魁星と周が倒れて起き上がれなくなる練習も難なくこなす。
笑顔で「ミネラルウォーターとスポーツ飲料買って来たけどどっちがいい?」と顔を上げる気力もなくなっている魁星と周に聞く余力があった。
顔? そんなものなんの役に立つ? 役に立つのはステージの上だけ。
ステージに立つまでに必要なダンスを覚える体力持久力、歌詞を覚える記憶力、そしてなにより緊張していても周りに笑顔を振りまける度胸と余裕と意識と覚悟。
大舞台に立つ度、ガチガチに緊張した魁星と周に笑顔を思い出させてくれる淳は、顔がいいとかそんなことどうでもいい、アイドルに本当に必要なものを教えてくれる。
「気に入らないならコラボユニットととか関係なしに挑んでおいでよ。顔がなんの役にも立たないって、俺が教えてやるからさ」
練習もしてないやつに負ける気がしない。
そういう意味で言い放つ魁星の後ろで、淳は押し黙って睨みつけてくる日守の、その背後にいる生徒の顔も見回す。
以前、声変りで練習に参加できず事務仕事ばかり手伝っていた時に後藤が珍しく声をかけてくれたことがあった。
客観的な第三者視点で、周囲を観察してみるといい。
物事が進むにつれ足りなくなるもの、これから使うモノ、必要なもの、すべきことが自然と見えてくるから、と。
(ここで躓きたくはない。せっかく先輩たちが『面白そう』って言ってくれたコラボユニット。成功させたい。日守くんはともかく、他のB組生徒は……)
勇士隊二番隊の熊田芳野他、山田、渡辺、阿部、浅見。
山田、渡辺、阿部、浅見の四人は、星光騎士団の『地獄の洗礼』で逃げ出したメンバー。
勇士隊に加入したのは特段言及することもないのだが、千景に比べてどうしても見劣りしてしまうのは仕方のない面々。
それこそ”顔のせい”ではない。
千景は顔も込みでそもそも練習量も才能も他の二番隊メンバーよりも多く、優れている。
特に、淳たちのも持ちえない、アイドルとしていくうえで絶対に欠かせないもの――楽曲を創造できるという、武器まである。
(ああ、なるほど。朝科先輩に直談判するほど直球というか、直情型の日守くんがここから挽回するのは顔以外の武器……それも一発逆転できるような強力なものが必要。勇士隊二番隊メンバーは千景くんと折り合いが悪い……というか、扱いに困っているって言ってたし、千景くんが日守くんに絡まれていても自分たちが介入して助けるっていう必要性を感じていない、という感じかな。コラボユニットの件は面倒くさそう。大手三大グループのメンバーがそんな感じだから、他の中小規模グループの生徒は興味があっても声をかけづらい……という感じかな)
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