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敵意(1)
しおりを挟むA組のコラボユニット名簿を持ってB組に移動しようとした際、星光騎士団の仕事を買って出てくれた周とは違い魁星が「俺も一緒に行っていい?」と背後から抱きついて甘えてきた。
淳も「まあいいけど」と頭を撫で撫でしてあげる。
周に「あまり魁星を甘やかしすぎないように」と釘は刺されるが、魁星はそんな周を軽く睨む。
「なあなあ、俺たちも御上に挨拶しておきたいんだけど、一緒に行ってもいいか?」
「うん、いいよ。ああ、でもあんまり大勢だと千景くんは緊張して泣いちゃうかも。廊下で待っててもらっていい?」
「うん、もっちろーん」
桜屋敷太陽が手を振って明るくお見送りしてくれる。
彼はB組に双子の弟、月光くんがいるので一緒に来てくれると心強い。
隣の教室の扉を開けて「すみませ~ん。御上くんいますか~?」と声をかける。
放課後なのでB組の生徒も半分くらいしか残っていない。
窓際の一番前の席にヘッドフォンをつけてノートパソコンを打ち込む千景。
これでは声が聞こえないだろう、と歩み寄ってノートパソコンの前に座り込んで手を振ると千景が顔を上げる。
「あ! ヒッ! ふっ……!? おッ……!! あばばばッ!?」
「こんにちは、千景くん。A組のコラボユニットメンバーがおおまかに決まったよ」
「あ! え、あ、は、は、は、はい!? はい! え、あ、ま、待ってください! うわっ」
「落ち着いて。大丈夫だから」
ヘッドフォンを慌てて外し、ノートパソコンを閉じ、周りの楽譜をバサバサ床に落として左右上下に目を泳がせ全身でもだもだとする千景。
笑顔で千景を落ち着かせて床に落ちた楽譜を拾い集めて閉じられたノートパソコンの上に乗せる。
「あ、あのすみません。音は電子で作っていて……でも、まだ終わっていなくて……」
「え? 楽曲の演奏依頼は俺が依頼するって言ってなかった?」
「あえええ、え、あ、す、すみません、仮歌用の、あまり整ったものではないんですけど、うう……」
「ううん、仮歌用か。うん、それは必要だね。ありがとう~」
そう言うと、千景が半笑いで真っ赤になって汗だくになる。
イケメンが台無し。
(おもしろ可愛い~)
が、淳は東雲学院芸能科アイドル全肯定Botなのでほっこり笑顔で対応。
「あ、あの、でも、あの」
「うん?」
しかし、すぐに顔を真っ青にして椅子の上に正座する千景。
どうしたの、とまたしゃがんで千景を見上げるようにすると、さらに汗を増やして今度は千景が床に正座する。
「す、すみません、B組の人たちにコラボユニットのこと、ま、まだ言えていなくて……」
「あ、そうなの? 声かけるの緊張しちゃった?」
「うう、うう、うっ、す、すみません、すみませんっ!」
頭をガックンガックンさせながら頭を下げ続ける。
そんな気はしていたから大丈夫だよ、と慈しみの眼差しで答えると泣きながら手を組んで「い、一生推す……」と超小声で呟かれた。
が、小声すぎて淳には聞こえなかった。首を傾げて「え?」と聞き返すと目を泳がせて顔をブンブン左右に振る。
いちいち面白い人だなぁ、とほっこり。
「じゃあ、B組の人達にも俺から声をかけていい?」
「そ、そんな……! あの、ええ? よ、よろしいのですか……?」
「まあ、得手不得手があるから? 大丈夫だよ?」
「あ、あ、あぁ、ありがとう、ございます……ど、どうかよろしくお願いいたします……!」
と、いうことなので淳は立ち上がって残っているB組の生徒を見る。
声をかける前に反応して近づいてきたのは、B組の『SAMURAI』、芽黒那実と『双陽月』の桜屋敷太陽。
表情を見るに、グループメンバーからすでに連絡を受けているのだろう。
「音無くん、音無くん! もしかしてコラボユニットの件!?」
「あ、そうだけど……もしかして参加希望? それなら『イースト・ホーム』から――」
「お、祭か~? 俺も参加させてもらおうかな~」
パッと顔を声の方に向けると、ニタニタをいう嫌な笑顔を浮かべた日守風雅。
なんだかげっそりとした気分になった。
(そういえば日守くん、千景くんとなにかトラブルがあったみたいだけれど……)
と、席に座り直した千景が日守の声にビクッと肩を跳ねさせる。
そのままガタガタ身を震わせ、縮こませた姿。
本気で怯えている?
「えっと……日守くんもコラボユニットに参加したいってこと?」
「つーかさ、どうせならA組B組でユニット分けして『決闘』せぇへん?」
「…………。え?」
顔が近づく。
上から淳を見下すように、悪意を滲ませた目。
アイドル大好きドルオタも、これは明確な敵対行動だとわかる。
「はあ? ……なに? お前。誰?」
淳と日守の間に魁星が入ってくる。
日守の態度が、それほどにわかりやすい挑発だった。
顔の綺麗な男の睨み合いは、それだけで迫力がある。
「俺が誰か知らないってこと? はあ~、さすがIG夏の陣準優勝の星光騎士団メンバー様は下々の者の顔も名前も同級生であっても知らんってことね。いや~、さすがだわ~」
「自己紹介もしたことないやつのこと、クラス違ったら普通知らんくない? 俺はあんたのこと知らないけど、ジュンジュンは知ってる?」
「魔王軍の日守風雅くん。二軍から三軍落ちしたって聞いたけど……」
「ッ!」
朝科旭が心底「ガッカリ」していた。
淳もさすがに驚いた件。
一年生の中でも特に顔のいい三人のうちの一人、日守風雅が三軍落ちした。
完全に『蟲毒』システムに吞み込まれている。
ここから這い上がるのは――非常に難しい。
本人がそれを自覚しているから、こうもわかりやすく敵意むき出しで真実をポロリと口にした淳を睨みつけてくるんだろう。
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