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御上千景(3)

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「あ、来月は急すぎるかな? じゃあ再来月は? 十月は学アイもあるけど……別に練習キツくはないよね?」
「あ、う、うん……え? え?」
「あ、俺だけじゃ不安? じゃあ他にも何人か誘ってみようか? とりあえず周と魁星にも声かけて~、天皚と……興味ありそうな子にも声かけてみようか? 一年生で興味ある子が集まって歌った方がお客さんに顔と名前覚えてもらう機会になるよね」
「え……あ……」
「あ! ごめん! 一人で勝手に盛り上がっちゃって……! 御上くんの曲がどんなものなのかも聴いてないのに」
「う、ううん……! いや、あの……でも……あの、あの、ほ、ほほほ、本気で……あの、う、歌……ぼ、ぼくの、曲……歌、って、く、くれ、るの?」
「どんな曲なのかわからないけど、せっかく作ったなら披露した方がいいんじゃない? ダメ?」
 
 と、淳が首を傾げると、御上は涙まで浮かべる。
 あ、これはしくじったか?
 焦って謝りそうになったが、御上は「アイドルに」と呟くので飲み込んで続きの言葉を待つ。
 
「――あ……アイドルに……う、歌って……も、もらいたくて……書いた……か、ら……」
 
 今度は淳が目を見開いた。
 自分もそれなりにドルオタだと思っていたけれど、アイドルのために曲を書いている御上の、なんと一途なことだろう。
 アイドルに歌ってほしいと曲を書くなんて、なんて、なんて……。
 
(なんて純粋にアイドルを愛している人なんだろう……)
 
 震えながら楽譜を握る手を握ってしまう。
 盛大にビクンと跳ねる御上。
 そんな話を聞いてしまったら、淳も後には引けない。
 
「うん! 歌おう!」
 
 アイドルに歌ってもらいたいという、夢。
 それを叶えたいし、そんな曲なら“アイドルとして”歌いたい。
 しかしそれならダンスもほしい。
 いや、その前に楽譜から曲に起こさなければ。
 
「よーし! やろう! よろしくね、御上くん! あ、改めて――俺はA組の音無淳です!」
「……び、B組……の、み、御上、千景……です」
 
 
 
 
 その日のうちにガーデンテラスに千景を誘って、決めらることを決めていく。
 衣装の発注、楽曲の演奏と収録の依頼先、イーストホームに専用チャットルームの設置と登録、振付作成依頼、仮歌収録、レッスンスタジオの予約、学院へのコラボユニット申請。
 
「コラボユニット名はなににしようか? 希望ある?」
「え、え、え、え」
「俺たち二人だけなら名前から一文字取って繋げればいいけど、それだと他の人を誘って『やりたい!』って参加してもらった時におかしくなるしね。うーん……俺そんなにネーミングセンスがあるわけじゃないからどうしよう? 千景くん、希望ある?」
「ひぃ! しししししし下の名前……!」
「あ、嫌だった?」
「いいいぃぃ嫌だなんてそそそんな! おぉ恐れ多いというか、ぼくなんかの下の名前なんて薄暗い感じしかしないのにそんな名前をおおぉぉ、音無くんに呼ばれるなんて現実味がないと言うか……」
 
 すごい、完全にオタクの早口だ。
 というか――
 
「間違ってたらあれだけど、千景くんって東雲学院芸能科アイドル、一年生も全員顔と名前覚えている……?」
「…………」
 
 カァーーーと耳まで真っ赤にして顔を隠す。
 確信した。
 完全に、淳と同志だ。
 
「嬉しい~~! 俺も俺も! 俺も一年生全員の推しうちわ作ったしグッズも買った~~~! 自分のはサンプルでもらってるけど~」
「!! か、買いました……」
「やっぱりぃ!?」
 
 一年生のグッズはサイン入りサイリウムと顔と名前の入った缶バッジ、名前入りタオル。
 デビューと同時に学院で作られたグッズは全部揃えて保管する。
 見切りをつけるのが早い子だと、二学期で普通科に移動してしまう。
 数万円が旅立つが、そのアイドルの“いた”痕跡はデビュー直後に出るこのグッズだけになることが多いのだ。
 
「あ……あの、音無くんは、だ、だれ、推し……ですか……? あの、一年生だと……」
「えー、悩むな~! みんなそれぞれいいところがあるもんね。人目を引くっていったらやっぱり魁星と日守くんと御上くんだし、ダンスが上手い勢と歌が上手い勢とそれぞれだし、今はまだ特性みたいなのが見えないこれから育って個性が出てくるんだろうな~っていう子ばっかりで……」
「わかります、わかります……! ここからどんなふうに成長していってくれるんだろうって……き、期待がすごくて……! あの、あの、ぼくはもう、デビューライブの時に音無くんが、その、声が全然出ていなくて、苦しそうに歌う姿がハラハラして……でも、IGでものすごく歌が上手くなっててびっくりしたんですけど……あの」
「あ、俺、上半期は声変わりで全然歌が歌えなかったんだ。無理しちゃダメって親からも医者からも先輩達からも言われてたし」
「そ、そうだったんですね……そこからIGでセンターを張りながら一年生専用曲を歌っていて、も、もうすごく感動しちゃいまして……! そ、そ、そ、その……あの……ファンになっちゃって……」
 
 一拍の間。
 一瞬キョトン、となにを言われているんだ? となる。

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