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御上千景(1)
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「綾城先輩、学アイの参加申請通りましたよ」
「学アイ、今年も最後なんだよね。出たいけど……」
「スケジュール合わんの?」
「十月って『聖魔勇祭』の練習が入ってくるんだよね。朝科くんと石動くんと大久保くん、それぞれスケジュール合わせた結果合わせられる日数が去年よりも少なくて」
「ああ~。それもあったなぁ。割と早めに練習始めるんか」
「うん。今年は雛森くんが『オリジナル曲作った~』って一、二、三年分、三曲作ってきてくれたんだって。一年生は変動が激しいから十一月ぐらいに確定らしいけど、三年生は学外の仕事が増えてくる時期だからね」
「ええ……!? 今年はオリジナル曲なんですか!?」
食いつくドルオタ。
基本的トップ4が歌う曲は学院の公式曲が多い。
学院の公式曲――校歌のようなものだが、数年に一度アレンジされて歌い継がれている。
「楽しみすぎるんですけど! 東雲学院芸能科公式チャンネルでMVとか載らないんですか!?」
「『らいじんぐ』の二人がMV作ろうって気合い入れていたよ」
「ああ、そりゃあいつもより時間かかりそうやなぁ」
『らいじんぐ』――お祭りをイメージテーマにした永里魅磊と七宝葉鐘のコンビ。
筋肉量の多い、ムキムキフェチ対応の肉質むっちりアイドル。
それが『らいじんぐ』。
ムキムキなのだが、学院内でMVを作って活動費を稼いでいる、意外に感性が求められる仕事を中心に活動しているグループだ。
「………………父さんと母さんに……」
「「「いやいやいやいや!」」」
淳が急にスン……と冷静に言い出す。
全力で止めに入る綾城と花崗と宇月。
後藤も首を必死に左右に振る。
「なんでですか? 星光騎士団のチャンネルの、新曲MV300万再生突破しましたよ!? 登録者数も五万人超えましたし!」
「それ! それやねん! いくらIG準優勝してるからって、再生回数の回りがエッグすぎんねん! ワイチューブのトップに三週間連続ランクインしとるし!」
「あのねぇ! ナッシーのパパママの実力が凄すぎてあの金額でやってもらったのがものすごく申し訳ないのぉ! あの金額であのクオリティ! 一日で撮影終わったのもすごいしぃ! 他の曲のMVとの落差がさぁ!」
「他のMVの再生回数も上がってるけど、クオリティの差が目立ちすぎてて……! 次の新曲の期待値が大変なんだよね」
「またうちの親に頼めばいいじゃないですか! やってくれますよ、うちの親! 喜んでやりますよ! 星光騎士団箱推しですから!」
「それが申し訳ないんだよぉ!」
むしろ音無家としては、趣味と実益を兼ねている。
何回でも頼んでほしい。音無家両親談。
「あの、そろそろゴミ捨てに行って、ステージの確認に……」
「ほんまや。明日は淳ちゃんの命運が左右される日やからなぁ、準備は念入りにしとって真っ正面から叩き潰さんと」
「音源の確認してきますねぇ」
「じゃあ僕とひまりちゃんでステージの確認に行ってくるね」
「俺は、衣装の確認してきます」
「ゴミ捨て行ってきます!」
当人の淳はまったく気にしていない。
今日は明日に備えてしっかりお休みの周と魁星も、きっと先輩ズと同じ意見だろう。
(俺は正直数年ぶりの『侵略』がライブで観られるのが楽しみなんだけどな~)
と、非常に呑気。
むしろゴミ袋を持ってウキウキ廊下を歩いてエレベーターで一階に降りる。
練習棟の中のゴミ捨て場。
業者を入れて盗難騒動があって以来、練習棟から出たゴミはゴミ捨て場に集められてそのまま巨大なダンボールに入れられ、一度も開封されることなく焼却場にもっていかれるらしい。
なので、ゴミには細心の注意を払うように指導をうける。
ゴミを捨ててからスタジオに戻ろうと振り返った時、バサバサという大量の紙の束が落ちる音がして廊下を少し戻った。
今日は他のグループも、明日の定期ライブの準備のために登校しているところが多い。
練習棟一階は大手グループ以外の弱小から中堅が予約を入れて練習スタジオを借りたりする。
だからてっきり、大手グループ以外のグループの誰かが困っているのかな、と思った。
「あ!」
廊下に落とした紙をかき集める葡萄色の髪の少年と、彼がかき集める紙をわざと踏みつける明るいオレンジの髪の少年。
一年生の中でも飛び抜けて顔のいい三人のうちの二人。
魔王軍の日守風雅と勇士隊の御上千景だ。
二人ともB組で、淳とはクラスが違う。
「チッ! きっもち悪ぃ! こんなオタク野郎やと思わんかったわ!」
「っ……」
そう叫んで日守がエレベーターホールの方へと歩き出す。
ちょうど戻ってきた淳と鉢合わせて、険しかった表情をより憎々しげに歪める。
わざと淳の肩にぶつかってこようとしたので、サッと避けるが通り過ぎる際にものすごい顔で睨みつけられた。
魔王軍の三年生たちに気に入られて、溺愛されている淳がよほど気に食わないのだろう。
淳としてもあんなによくしてもらう義理はないと思っている。
アイドルとファンの距離を、あの人たちは軽々飛び越えてきてドルオタは毎回しんどいぐらいなのだ。
だが、今はそれよりも――
「大丈夫? 手伝うね」
「やめて!」
日守が踏みつけていった紙を拾うのを手伝おうと駆け寄ってしゃがむ。
手を伸ばすと御上が紙に覆い被さり叫ぶ。
思わず手を引っ込めた。
「あ――お……っ……」
「? あ……? これ……楽譜? え? すごい! 御上くんって作曲ができるの!?」
「ぉ、ぉぉおぉおおぉおとなし、じゅ、じゅ、淳……く、ん! ひっ! ほ、ほほほほ本物!?」
「え? う、うん? うん。え? 御上千景くんだよね? 俺の名前覚えてくれてたの? 嬉しい~! クラス違うのに!」
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、あ、っ」
狼狽えまくる御上千景。
あれ、ステージ上の印象と全然違うな、と淳も内心少し困惑した。
しかし、ステージと素の印象が違うもっともたるギャップの権化みたいな先輩が、星光騎士団にはいらっしゃる。
後藤琥太郎先輩という、人格が別なんじゃと思うような先輩が。
*****
知っていると面白いかもしれない裏設定。
三大大手グループは練習難易度がそれぞれ違う。
星光騎士団→初手から鬼畜。一気にレベル上げして、二年生から技術を重点的に磨き上げる。新入生は最初の一週間特に厳しい『地獄の洗礼』を受け、ふるいにかけられる。残った少数精鋭が第二部隊からスタートするため、脱退率が非常に低い。
魔王軍→自主練推奨。練習がゆるすぎてやる気のない者は後々地獄を見る。通称『蟲毒』。実はトレーナーレンタルが他グループよりも格安で、自分でレッスンを予約してプロの指導を受けやすい。
また、15代目のベストメンバーは自力でトレーナー資格を取得している者が多いため先輩にレッスンを見てもらうとトレーナーレッスン料もかからないのでとってもお得。
ボイトレなら檜野先輩、ダンスや筋トレなどなら茅原先輩が指導資格持ちなのでおすすめ。他グループの人も依頼すれば格安で指導してもらえる。
勇士隊→難易度選択式。鬼の石動先輩、なにをさせられるかわからない、基本その日の気分と思いつきの柴先輩、一緒にゆるく練習してくれるぬるま湯の高埜先輩、特撮愛好会に勧誘必須の蓮名先輩、歩く蓮名観察日記で蓮名の話ししかしない苗村先輩――と、誰を選んでもハードモード。
トレーナーさんをレンタルして自主練するのが一番無難。
「学アイ、今年も最後なんだよね。出たいけど……」
「スケジュール合わんの?」
「十月って『聖魔勇祭』の練習が入ってくるんだよね。朝科くんと石動くんと大久保くん、それぞれスケジュール合わせた結果合わせられる日数が去年よりも少なくて」
「ああ~。それもあったなぁ。割と早めに練習始めるんか」
「うん。今年は雛森くんが『オリジナル曲作った~』って一、二、三年分、三曲作ってきてくれたんだって。一年生は変動が激しいから十一月ぐらいに確定らしいけど、三年生は学外の仕事が増えてくる時期だからね」
「ええ……!? 今年はオリジナル曲なんですか!?」
食いつくドルオタ。
基本的トップ4が歌う曲は学院の公式曲が多い。
学院の公式曲――校歌のようなものだが、数年に一度アレンジされて歌い継がれている。
「楽しみすぎるんですけど! 東雲学院芸能科公式チャンネルでMVとか載らないんですか!?」
「『らいじんぐ』の二人がMV作ろうって気合い入れていたよ」
「ああ、そりゃあいつもより時間かかりそうやなぁ」
『らいじんぐ』――お祭りをイメージテーマにした永里魅磊と七宝葉鐘のコンビ。
筋肉量の多い、ムキムキフェチ対応の肉質むっちりアイドル。
それが『らいじんぐ』。
ムキムキなのだが、学院内でMVを作って活動費を稼いでいる、意外に感性が求められる仕事を中心に活動しているグループだ。
「………………父さんと母さんに……」
「「「いやいやいやいや!」」」
淳が急にスン……と冷静に言い出す。
全力で止めに入る綾城と花崗と宇月。
後藤も首を必死に左右に振る。
「なんでですか? 星光騎士団のチャンネルの、新曲MV300万再生突破しましたよ!? 登録者数も五万人超えましたし!」
「それ! それやねん! いくらIG準優勝してるからって、再生回数の回りがエッグすぎんねん! ワイチューブのトップに三週間連続ランクインしとるし!」
「あのねぇ! ナッシーのパパママの実力が凄すぎてあの金額でやってもらったのがものすごく申し訳ないのぉ! あの金額であのクオリティ! 一日で撮影終わったのもすごいしぃ! 他の曲のMVとの落差がさぁ!」
「他のMVの再生回数も上がってるけど、クオリティの差が目立ちすぎてて……! 次の新曲の期待値が大変なんだよね」
「またうちの親に頼めばいいじゃないですか! やってくれますよ、うちの親! 喜んでやりますよ! 星光騎士団箱推しですから!」
「それが申し訳ないんだよぉ!」
むしろ音無家としては、趣味と実益を兼ねている。
何回でも頼んでほしい。音無家両親談。
「あの、そろそろゴミ捨てに行って、ステージの確認に……」
「ほんまや。明日は淳ちゃんの命運が左右される日やからなぁ、準備は念入りにしとって真っ正面から叩き潰さんと」
「音源の確認してきますねぇ」
「じゃあ僕とひまりちゃんでステージの確認に行ってくるね」
「俺は、衣装の確認してきます」
「ゴミ捨て行ってきます!」
当人の淳はまったく気にしていない。
今日は明日に備えてしっかりお休みの周と魁星も、きっと先輩ズと同じ意見だろう。
(俺は正直数年ぶりの『侵略』がライブで観られるのが楽しみなんだけどな~)
と、非常に呑気。
むしろゴミ袋を持ってウキウキ廊下を歩いてエレベーターで一階に降りる。
練習棟の中のゴミ捨て場。
業者を入れて盗難騒動があって以来、練習棟から出たゴミはゴミ捨て場に集められてそのまま巨大なダンボールに入れられ、一度も開封されることなく焼却場にもっていかれるらしい。
なので、ゴミには細心の注意を払うように指導をうける。
ゴミを捨ててからスタジオに戻ろうと振り返った時、バサバサという大量の紙の束が落ちる音がして廊下を少し戻った。
今日は他のグループも、明日の定期ライブの準備のために登校しているところが多い。
練習棟一階は大手グループ以外の弱小から中堅が予約を入れて練習スタジオを借りたりする。
だからてっきり、大手グループ以外のグループの誰かが困っているのかな、と思った。
「あ!」
廊下に落とした紙をかき集める葡萄色の髪の少年と、彼がかき集める紙をわざと踏みつける明るいオレンジの髪の少年。
一年生の中でも飛び抜けて顔のいい三人のうちの二人。
魔王軍の日守風雅と勇士隊の御上千景だ。
二人ともB組で、淳とはクラスが違う。
「チッ! きっもち悪ぃ! こんなオタク野郎やと思わんかったわ!」
「っ……」
そう叫んで日守がエレベーターホールの方へと歩き出す。
ちょうど戻ってきた淳と鉢合わせて、険しかった表情をより憎々しげに歪める。
わざと淳の肩にぶつかってこようとしたので、サッと避けるが通り過ぎる際にものすごい顔で睨みつけられた。
魔王軍の三年生たちに気に入られて、溺愛されている淳がよほど気に食わないのだろう。
淳としてもあんなによくしてもらう義理はないと思っている。
アイドルとファンの距離を、あの人たちは軽々飛び越えてきてドルオタは毎回しんどいぐらいなのだ。
だが、今はそれよりも――
「大丈夫? 手伝うね」
「やめて!」
日守が踏みつけていった紙を拾うのを手伝おうと駆け寄ってしゃがむ。
手を伸ばすと御上が紙に覆い被さり叫ぶ。
思わず手を引っ込めた。
「あ――お……っ……」
「? あ……? これ……楽譜? え? すごい! 御上くんって作曲ができるの!?」
「ぉ、ぉぉおぉおおぉおとなし、じゅ、じゅ、淳……く、ん! ひっ! ほ、ほほほほ本物!?」
「え? う、うん? うん。え? 御上千景くんだよね? 俺の名前覚えてくれてたの? 嬉しい~! クラス違うのに!」
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、あ、っ」
狼狽えまくる御上千景。
あれ、ステージ上の印象と全然違うな、と淳も内心少し困惑した。
しかし、ステージと素の印象が違うもっともたるギャップの権化みたいな先輩が、星光騎士団にはいらっしゃる。
後藤琥太郎先輩という、人格が別なんじゃと思うような先輩が。
*****
知っていると面白いかもしれない裏設定。
三大大手グループは練習難易度がそれぞれ違う。
星光騎士団→初手から鬼畜。一気にレベル上げして、二年生から技術を重点的に磨き上げる。新入生は最初の一週間特に厳しい『地獄の洗礼』を受け、ふるいにかけられる。残った少数精鋭が第二部隊からスタートするため、脱退率が非常に低い。
魔王軍→自主練推奨。練習がゆるすぎてやる気のない者は後々地獄を見る。通称『蟲毒』。実はトレーナーレンタルが他グループよりも格安で、自分でレッスンを予約してプロの指導を受けやすい。
また、15代目のベストメンバーは自力でトレーナー資格を取得している者が多いため先輩にレッスンを見てもらうとトレーナーレッスン料もかからないのでとってもお得。
ボイトレなら檜野先輩、ダンスや筋トレなどなら茅原先輩が指導資格持ちなのでおすすめ。他グループの人も依頼すれば格安で指導してもらえる。
勇士隊→難易度選択式。鬼の石動先輩、なにをさせられるかわからない、基本その日の気分と思いつきの柴先輩、一緒にゆるく練習してくれるぬるま湯の高埜先輩、特撮愛好会に勧誘必須の蓮名先輩、歩く蓮名観察日記で蓮名の話ししかしない苗村先輩――と、誰を選んでもハードモード。
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