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学アイの話(2)

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 盛大に混乱する二人。
 まあ、初見さんだと無理はない。
 最初聞いた時は誰でも「は?」となる。
 賭け金、というのも学生セミプロアイドルにはるなかなかミスマッチな単語だし。
 しかし、それもアイドルとしてやっていくためには必要な“教育”だと考えられている。
 賭けごとはアイドルとは疎遠なものでなければならない。
 だが無知でなんの耐性もないままでは将来苦労する。
 やったことがないと、大人になってハッスルしてしまうから。
 ということでパフォーマンスでお金を稼いだり、他のグループのトーナメント対決でどちらが勝つかを賭けて儲けることもできる。
 学ラブ通貨は他の競技――トーナメント勝負で有利になれるアイテムに課金できるようになるため、知力・体力・時の運に自信がないグループにとっては命綱になりかねない。
 学ラブ通貨がないと自力で勝ち進まなければならないからだ。
 逆にいうと自力で勝ち進む自信があれば、金策はそれほど必要ではない。
 その辺りの匙加減も、学アイトーナメントを勝ち進むのに必要な采配。
 
「えっと、つまり学アイ通貨っていうのがあればあるほどトーナメントで有利になるってこと?」
「そう。一曲で勝ち進むのは難しいけど、最初に手持ちを少し作ってトーナメント戦に賭けで増やしていくこともできる。でも、それだと露出が減ってお客さんに名前を覚えてもらうのはもちろん、他のグループの賭け対象からも外れてしまうからトーナメント戦で勝っても賭け金の配分がしょぼくてあまり……って感じ。もちろん、大穴になりって一攫千金を連続で獲れる自信があるなら……まあ……止めないけど……そういう戦い方をしたグループも、過去に何組もいたし」
「そ、その口ぶりからだと……勝った人いない?」
「俺は見たことないなぁ。そのまま三回戦まで進んだグループならいたけど……後半は学アイ通貨が潤ったグループにフルボッコされて終わったし」
「あ……」
 
 時の運をも覆す、それが学アイ通貨。
 同じく強豪であっても、その特殊ルールに泣かされてなかなか優勝に辿り着けないのが学アイトーナメント。
 その証拠に、東雲学院芸能科で学アイトーナメント優勝経験があるのは十代目勇士隊だけだとか。
 
「星光騎士団や魔王軍も!?」
「うん。今代だと魁星とか花崗先輩とか学力に不安のあるメンバーもいるしね……トーナメントはクイズ形式だから、俺や周もどのくらい答えられるか自信もないし」
「お、おおう……」
「学アイトーナメントって『学生アイドルの魅力を引き出す!』がテーマだから、純粋なアイドルとしての実力重視のアイドルグランプリとは毛色が全然違うんだよ。漫才とか、演技とか、告白された時の断り方とか……そういう項目まであるもん。審査員もお客さんの中からランダムで選出されるからなにが正解なのかもわからない。っていうわけで、一曲で勝負するのはいいと思うけど大変なのは間違いないかな」
「「うへぁ……」」
 
 顔を見合わせる天皚と駿河屋。
 神妙な面持ちになっている二人に、「少なくとも駿河屋くんのところは大丈夫じゃないかな?」とつけ加える。
 問題は一年生だけのグループである天皚のところ。
 あまりズバッとは言わないけれど、天皚のところのグループも、その、あまり頭がよろしいやつがいない。
 天皚の『SAMURAI』メンバーの期末テスト平均順位は下から十位以内だったはず。
 
「お待たせしました。手続きが終わりましたよ、音無くん」
「ありがとうございます、佐岡先生」
「で、他の二人はまだ悩んでいるんですか? あなたたちもIGのあとで疲れがまだ取れていないでしょう。早く帰って休みなさい。まさか練習するつもりはないでしょうね?」
「それはさすがに……。先輩たちも一様に『休め』と言っていましたし……」
 
 書類を一枚、担任にもらって確認する。
 事務所研修生になっていることを学院のホームページに掲載してもらう旨と、他の事務所からスカウトが来た時に学院側からお断りを入れてもらう旨の承認書。
 これは自分の家で、卒業まで保管しておく。
 夏休み中なので電話でもよかったのだが、魁星と周も学院で各事務所の詳細を先生に聞きにきたというので淳もホームページ掲載やスカウトのお断りなどの手続きのために登校した。
 そういえば天皚と駿河屋はなんで登校しているのだろう、と首を傾げると二人とも「部活」とのこと。
 運動部は大変だぁ。
 
「そうでしょうね。ああ、ですが音無くんが登校してきてくれたついでにこれも持ってきたので渡しておきます」
「これは……」
「ファンレターですよ。夏休み明けに渡す予定だったのですが、せっかくですから。一年生でファンレターをもらうのは珍しいですね。一番乗りですよ」
「わ、わあ……ありがとうございます!」
「星光騎士団はIG準優勝ですからね、夏休み明けはもっと増えていると思いますし、花房くんと狗央くんにも届くでしょう。冬の陣ではシード枠ですから、今はしっかり休んで休み明けの定期ライブは気を引き締めて頑張ってくださいね」
「はい! 頑張ります!」
 
 担任の先生が魁星と周に向き直り「早く結論を出してくださいね。結論が出たら職員室まで言いに来てください」と言い残して教室から出ていく。
 受け取ったファンレターは三通。
 こんなに届くなんて思わなくて、封筒とハガキを震える手でなぞる。
 ハガキには『SBOのライブで一目惚れしました! アイドルグランプリ準優勝おめでとうございます! これからも応援しています!』と書いてあった。
 
「うわぁ、マジか。ファンレターって都市伝説じゃなかったのか……」
「スゲェ……」
「うん、嬉しい。舞台に上がることはそれなりに慣れてはいたけど……ファンレターは初めて。嬉しい……ありがたいね」
「こういうのって返事書くの?」
「一応、住所が書いてあったら校則で学院の定型文のメッセージカードをお返しできるんだよ。……え? アイドル学で習ったよね?」
「「………………」」
 
 目を逸らす天皚と駿河屋。
 天皚はともかくお前もか、駿河屋。




*****

知っていると面白いかもしれない裏設定

石動上総いするぎかずさに関する登場人物紹介の時に代仏神教よりぶつしんきょうってなんぞや?って人の方が多いと思うが、この世界に古くからある宗教の一つ。
関西方面に代仏神教を信仰するはるか昔からある大きな家が三つあり、その大きな家が財団を作って維持している。
石動家はそのうちの、いわゆる『御三家の一角』。
その前に『代仏神教』ってどんな宗教?って聞かれると端的に答えて『人類は誰しも神になる資格を有している。人類が神格化するための、確実な方法を探究する』である。
割とお金をかけて非人道的な科学的な方面の研究という名のアプローチもしているので、宗教の皮を被った思想団体と言ったほうがわかりやすいかもしれない。
上総はそのヤバい財団の一角である石動家、宗家の次男。
長男である兄は代仏神教の思想にどっぷり浸かっている人であり、宗家の発言権を取り戻すべく父親に入念な洗脳教育を受けている人物。
逆に放置された上総はほとんどその影響を受けておらず、比較的クソのようなお家の中では常識的かつ現代的な思想を育めた。
そのため兄が家のためによろしくない計画に加担していることを快く思ってはおらず、家の影響が少なく、かつ他の御三家関係者も手が出しづらい方法での妨害を模索している。
代仏神教は『消えた歴史』(※『潜在戦争クライシス ~妖刀の夢と水の王~』『世界の卵と正義の味方~異世界で聖女生活始めます!?~』『BLゲームの悪役令嬢は終わっています!』やカクヨムのサポ限などで掲載している一部設定に登場する『八王戦争』参照)でやらかしており、春日彗かすがすい司藤由しどうゆうから警戒されているのだがその思想の下、またやらかそうとしているという感じ。
今作では触り程度しか触れるつもりはないので別角度から書く機会があったら不思議案件担当の人たちに担当してもらえたらいいなぁ、と思っている。
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