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IG夏の陣、三日目(2)
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歌声が響き渡る。
IG夏の陣、二回戦。
夏の暑さを味方につけた『Blossom』は快進撃を続ける。
三日目二回戦目、最初の戦いはBlossom対魔王軍。
さすがに三日目は強豪同士の戦いが連続する。
知名度ならば魔王軍の方があるにも関わらず、Blossomの勢いを止めることは叶わなかった。
しかし、三日目に駒を進められたこと自体、セミプロの魔王軍では初のこと。
さらに檜野と雛森が『CRYWN』所属の秋野直芸能事務所にスカウトされるという僥倖もあった。
成果としては十分だろうと、満足げに敗退していく。
次に勇士隊が昨年優勝の『applause』と対決。
派手な演出と統一感のない勇士隊特有のめちゃくちゃなライブと、applauseのバンド式ライブは誰も予想だにしないほどに拮抗。
結果は昨年優勝のapplauseが、まさかの敗退。
今まで投票数のなかった中学生以下の票数が、結果をひっくり返した。
大番狂せに特番もとんでもない盛り上がりを見せ、SNSのトレンドの三割を有したいが独占。
その次に登場した星光騎士団は、勇士隊と同じ『東雲学院芸能科』プラス『Blossomの綾城珀が同じくリーダーを務める』プラス『Blossomのツルカミコンビの後輩』と話題性のおかげで同じく昨年の準優勝『愛が世界を終わらせる』を下して三回戦へと駒を進めることとなった。
学生セミプロ組のビッグネーム崩しに会場は、興奮の坩堝と化す。
「――あ」
「石動先輩! 二回戦突破おめでとうございます! applauseに勝つなんて本当に本当にすごいですよ! 快挙です、快挙! 本当にすごいですよ!」
「ジュンジュンの語彙が死んでる……」
「実際すごいことやからね」
廊下で勇士隊のメンバーと遭遇した。
なお、綾城は例によって制汗タオルで全身拭いたあとblossomの新曲衣装に着替えて隣のステージへダッシュ移動。
本当に大忙しである。
勇士隊の方は蓮名以外ローテンション。
ステージのはっちゃけ具合からは想像もつかないテンションの低さに、一人大はしゃぎしているのがさすがに恥ずかしくなってくる淳。
いや、ドルオタはアイドルを讃えてこそのオタクだ。
なにを恥じることがある。
彼らは実際すごいことをやり遂げたのだから、全力で賞賛を送るべきだ。
「そっちも前年準優勝を倒しているじゃん。次にぶつかるのは俺たちみたいだし、このままだと綾城くん、準決勝で星光騎士団とblossomでブッキングするんじゃないの?」
「その可能性出てきてもぅて、わしらもちょっと心配してるんよ。かと言うて負けんのも嫌やしね。勝ちに行かしてもらうわ」
「ハァーーー、棄権しておけばいいものを」
不敵な笑みで煽ってくる石動。
これぞ石動上総、という感じだが、やはりテンションは低い気がする。
花崗も同じことを思ったらしく「そっちはなんや疲れ果ててへん?」と煽りではなく純粋に心配した真顔で聞く。
「んーーー……まあ、正直負けたらそのまま蓮名に君主の座を譲って学校も辞めてどっかに行こうかと思ってたんだけど……」
「「「「え」」」」
ギョッと聞き返す花崗と勇士隊の二、三年。
初めて聞いたんだろう。
淳は昨日聞いていたが、まさか学校まで辞めるつもりだったとは思っていなかったので一緒に驚いてしまった。
「あんなクソ広い客席に、俺の名前の書かれたうちわ見つけたら……なんか、もう少しやってもいいのかなって思えちゃった自分に気がついて、自己嫌悪で情緒が今ぐっちゃぐっちゃであんまり考えごとしたくないっていうか」
「石動ちゃんにもそんなナイーブな一面があったんやね……?」
「家庭の事情もぐちゃぐちゃになってて、色々考えてたんだよ、俺だって」
「あ、ああ、そうなん? なんか意外やったわ。ごめんな?」
「別に~。最近俺がおとなしいから、みんな逆にビクビクしてたじゃん? 俺が辞めなくなってその緊張感が続行になるのに、呑気に声なんてかけてきてバカじゃないの? とは思うよな」
「ああ、それな。……辞めるつもりやったからなんね。でも、辞める気ぃなくなったん? ならええやん。卒業まで半年ちょい、最後まで一緒に東雲学院のアイドルやり遂げよ。んな?」
と、花崗が苗村、柴、高埜を見る。
三人が微妙な表情で互いの顔を見合わせる。
君主の脱退宣言に、なんという薄い反応。
蓮名だけ「えええ、学校辞めちゃうつもりだったんですか!? もう辞めないですよね!? ね!?」と腕に縋る。
それに石動が「うんまあ、とりあえず卒業はするかな」と首を横に振った。
その言葉に安堵する蓮名。
「よかった! 俺のようなやつを拾って俺のやりたいことをやらせてくれた石動センパイを、俺はちゃんと見送りたいんだ!」
「…………」
「んん? センパイ?」
「なんでもないよ。ま、とりあえずどこまでいけるかわからないけど、ここまできたら優勝狙うつもりで次も頑張ろうか。定期ライブみたいに好き放題するのは難しいけど」
「はい! というか、俺は最初からそのつもりですよ!」
ふふーん、と胸を張る蓮名に力なく笑う石動。
ただのドルオタの言葉よりも、やっぱり慕ってくれる後輩の言葉の方が効き目があるらしい。
「なははははははは! 拳ちゃんを素人に毛の生えたアイドルもどき、なーんて馬鹿にしてたくせに、三日目初出場の学生セミプロに負けてるんだもん、もうなんにも言えないよね~~~? 紗・遊・く・ん」
「ぐぎぎぎぎぎっ! ゆ、油断しただけだもん! 油断しなければ勝てたもん!」
「栄治、そのくらいにして移動しましょう。敗者を引き留めて絡む時間はありませんぞ」
「先輩たち、煽り散らかすのやめてくださいね~!」
廊下の角でそんな声が聞こえて、そちらを向くと先ほど勇士隊に負けた『applause』の紗遊と『Blossom』の四人が遭遇したところだった。
生き生きと紗遊を煽る栄治を三人がかりで引き離すBlossom。
まあ、若干一晴も煽りに加担しているように聞こえたけれど。
彼らが見えなくなってから、ふと、石動が不敵に微笑んだ。
「俺も声かけてこようかな~」
「柴ちゃん、止めて!」
「上総、我々も次の出番があるから控室に行くぞ!!」
蓮名と淳以外が本気で焦って石動を止めにかかる。
なお、蓮名と淳は「やっぱ下剋上してる時の石動先輩、輝いてるな!」と謎に頷いた。
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