77 / 430
狂騎士蔵梨柚子
しおりを挟む増えた。なんか。
グイグイ近づいてくる魔王軍の先輩から、花崗が淳を庇うように立つ。
だが、やはり魔王朝科旭、顔がいい。
そんな顔を近づけられたらあわわわわ……となる。
「魔王の名を受け継いだ者がステージの外で侵略を行うのは些かみっともありませんなぁ? 魔王なら魔王らしく、ステージ上で『侵略』してメンバーを揃えてはいかがですかな?」
「あ~、先輩先輩、魔王軍のそのシステム、先輩が卒業してから形骸化しちゃったんっすよぉ~。星光騎士団の『決闘』も主流に定着した代わりにグッズ売り上げと罰ゲームって感じにかなりぬるくなりましたけど。勇士隊の『下剋上』も最近聞かないし、なくなっちゃったんじゃない~?」
「おや、そうなのですか?」
「「ッ、鶴城一晴と蔵梨柚子、先輩!」」
星光騎士団の制服を纏った鶴城一晴と蔵梨柚子の登場に、目を輝かせるドルオタと声優オタ。
来るとは聞いていたけれど、きた瞬間魔王軍の面々が目を細め、剣呑とした空気に変わった。
「卒業した先達が来るとは聞いておりましたが、まさかアイドルデビューした鶴城先輩と『狂騎士』蔵梨先輩とは」
「……私たちが卒業したあと、いったいなにをしたのですかな? 柚子」
「ええ~? 人聞きの悪~い☆ かわゆすでヨワヨワな後輩ちゃんたちを思って魔王軍の『侵略』と勇士隊の『下剋上』を形骸化するまで『決闘』で潰しまくっただけですよぉ。先輩たちってば星光騎士団の知名度爆上げして満足して卒業しちゃったけど、ゲーム脳のおれには全部経験値にしか見えなかったんだもーん。経験値がその辺にゴロゴロしてたらそりゃ狩るっしょ? 定期ライブで決闘を毎月見れて、お客さんも大満足♡ み~んな幸せ♡ んね!」
「はあ……形骸化させた張本人だったわけですか。しかし口ぶりから決闘がゆるくなったのは柚子が卒業してからですかな?」
「そうだと思うよ~。春馬と隼と珀には戦後処理って言われちゃった」
「あれほど栄治に敵を増やすようなことをするなと言い含められていたのに……やったのですか。まあ、栄治もなかなかに喧嘩っ早いところはありますが、柚子はナチュラルに人の神経を逆撫でしますからなぁ」
深々と溜息を吐く一晴。
実際、この男はゲームの中ではネカマプレイで人をおちょくり倒し、時に搾取し、ハードをイージーにするプレイを好む。
それを可能にするプレイヤースキルを持ちながら、楽に生きる術を熟知している実に厄介なタイプの人種。
エイランに心底蔑まれているのもそういうところ。
淳と宇月は「え、そ、そうだったんだ」と驚いた。
お客さんとして通っていた淳たちに、学園の事情はほとんど伝わっていない。
確かに淳もここ二年ほど決闘ライブが減ったとは思っていたけれど。
「それに魔王軍の『侵略』ってメンバーの強制引き抜きじゃん? 未空くんに新入生を二人も持って行かれたの、ちょっとムカついてたんだよねぇ。やられたら倍返しは基本でしょぉ?」
「倍どころではないのでは? 勇士隊は完全にとばっちりですし、それ卒業まで続けていたんですよね? 完全に戦犯ではないですか」
「弱いのが悪いんでしょ~? 芸能界は弱肉強食っすよ~? そんなんだから東雲学院は西雲学園の芸能科に後手後手になるんですよ。学院の中でわちゃわちゃぬくぬくしてても、金の無駄! そんなの養成所ビジネスと同じですぅ~。おれ、あれ嫌なんだよねぇ。お金払って毎日、あるいは毎週授業を受けてるだけで満足して、努力もせずぬくぬくしてる人たち。お金をどぶに捨ててるのと同じじゃん。東雲学院芸能科は西雲学園と違って生徒会は普通科に依存してるし、そういうのも腐敗の原因だと思うんだけどね~。まあ、卒業したあとに外から見たらそう思うって感じだし、一生徒が学院の経営に生意気にも物申すのもどうかと思うけどさぁ」
「確かに我らには学院の経営方針に口を出す権利はないですな。柚子の言いたいこともわかりますが……それと柚子のやったことは関係ないのでは?」
ド正論。
だがそれに対しても、柚子はフンと鼻を鳴らす。
「おれが卒業する年の校内売り上げランキング上位五十五人、全員卒業前に事務所決ったんです~。先輩の時もその前の先輩たちの時も、上位十名程度だったでしょ? やる気がなかったってことが証明されたの~! 日向ちゃん辞めちゃったけどー」
「そんなに多かったのですか!? 日向が辞めた話しか聞いていませんでした」
「そ。先生にも『今年は芸能科始まって以来最多だ』って驚かれたよ。ハングリー精神が足らなかったんだよ」
「うーん、良し悪しですな。まあ、それと現役魔王軍の面々に柚子が嫌われているのはその行いの結果でもあるので、私からはなにもフォローいたしませんが」
「別にいいよぉ。今代の魔王軍も魔王一人しか事務所決ってないんでしょ? おれが卒業したあと結局元のぬるま湯に戻ったってことじゃん? はぁーーーー、汚れ役をやった意味なーい」
「さっき思い切り私怨と趣味だと自白しているので、なにも説得力がありませんな」
「やっぱりぃ? てへぺろ~」
魔王軍の面々の、苦々しい表情。
なるほど、本当に人の神経を逆なでなさるのがお上手である。
70
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

顔だけが取り柄の俺、それさえもひたすら隠し通してみせる!!
彩ノ華
BL
顔だけが取り柄の俺だけど…
…平凡に暮らしたいので隠し通してみせる!!
登場人物×恋には無自覚な主人公
※溺愛
❀気ままに投稿
❀ゆるゆる更新
❀文字数が多い時もあれば少ない時もある、それが人生や。知らんけど。

VR『異世界』より
キリコ
BL
急速な高齢化が進む中、それに急かされるように開発が先行されていた、医療用VR技術の一般転用がされ始め早数年。
大手シェアのゲーム機メーカーが、ライバル社の幾つかと手を組み共同開発したVRゲームが、ついにお披露目されることになった。
その名も『異世界』。
世界中の名だたる頭脳によって作られたゲーム世界の神、AIユグドラシルの主張により、購入予約の権利は脳波測定を併用したテストをクリアした者を優先するとされた。後から公開されたその基準は、悪でもなく過ぎた善でもない者。毒にも薬にもならない、選りすぐりの『普通の人』。
ゲームができると思えば合格したのは嬉しい事なのに、条件に当てはまったと言われると嬉しくない。そんな微妙な気持ちながら、ついにログインできる日が来たのだった。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

BLドラマの主演同士で写真を上げたら匂わせ判定されたけど、断じて俺たちは付き合ってない!
京香
BL
ダンサー×子役上がり俳優
初めてBLドラマに出演することになり張り切っている上渡梨央。ダブル主演の初演技挑戦な三吉修斗とも仲良くなりたいけど、何やら冷たい対応。
そんな中、主演同士で撮った写真や三吉の自宅でのオフショットが匂わせだとファンの間で持ち切りに。
さらに梨央が幼い頃に会った少女だという相馬も現れて──。
しゅうりおがトレンドに上がる平和な世界のハッピー現代BLです。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!
柑橘
BL
王道詰め合わせ。
ジャンルをお確かめの上お進み下さい。
7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです!
※目線が度々変わります。
※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。
※火曜日20:00
金曜日19:00
日曜日17:00更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる