ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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期末テスト

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 七月二十日から一週間は期末テスト。
 土日も関係なく、初日から三日目以降は受けるテストの教科を選択して、終えたら練習に向かう。
 学業に重きを置いているわけではない東雲学院芸能科なので、先にテストを受けた生徒が仕事でテストを後日に回した生徒に問題や範囲を教えることは、禁止していない。
 しかし、初日、と二日目、三日目までにテストを受講した生徒には加点が与えられ、四日目以降にテストを受けた者には合計点数から受講が遅れた日数をマイナスされるスパルタ。
 つまり、初日から三日目までで全教科のテストを終わらせた方が圧倒的に有利。
 
「淳、問3はなににしましたか?」
「俺は三番にしたな。周は?」
「自分も三番でした。ふむ、あとはアイドル学ですね。こちらは淳の方が圧倒的に詳しいので、この辺りを教えてほしいのですが」
「いいよ、どこ? ああ、2000年代IG夏の陣歴代優勝グループ、難しいよね。でも、ここよりファン対応の問題の方が出るんじゃないかな。先生もファン対応と現場マナーはしっかり勉強しておくように言っていたし」
「え? そ、そうでしたか? ぐぬぬ……やはり午前中は意識が飛び飛びで、よく聞いていなかったんですね自分。ありがとうございます。そのあたりを中心に復習してみます」
「周は大丈夫だと思うけど――」
 
 と、言いつつチラリと周囲を見回す。
 仕事でいないクラスメイト以外普通に加点目的でテストを受けている一年生。
 が、その一年教室の九割は屍と化していた。
 国数社の王道教科は倒したが、明日はアイドル学と英語、理科がある。
 心折れた一部生徒はすでに「四日目以降にテスト受けようかな……」と虚空の眼差しでここではないどこかを眺めて呟く。
 正直なんという無駄な足搔きだろうか。
 
「淳ちゃんと狗央はおかしくない!? なんで普通に答え合わせしてるの!? 芸能科に来てる奴なんて顔がよくて頭悪いのが普通なんじゃないの!?」
「天皚はなにを言ってるの……?」
「中学校通ってたらわかる問題しかありませんでしたよ? むしろ明日からのアイドル学が不安で不安で……」
「俺は理科が不安だなぁ。明後日のダンスと音楽、体育は大丈夫だと思うんだけれど」
「そうですね。明日が勝負ですよね。あ、淳、ここを教えてくれませんか? 無断で撮影された場合の対応」
「ああ、これはねぇ――」
 
 教科書を捲って周に教えていると、教室中から向けられる異様な眼差しに気がついて「な、なに?」と聞き返す。
 主に魁星と天皚だが、他にも「マジかこいつら」という信じ難いものを見る目で見られている。
 その視線に、淳と周が横目でアイコンタクトを行った。
 無言で『イースト・ホーム』星光騎士団チャット欄に『バカに授業をつけて十四時頃にレッスンに向かいます』と打ち込んでから席を立つ。
 眼鏡を取り出してかけた周が黒板に立ち、透き通った声で「全員注目!」とクラスメイトに声をかける。
 
「淳、範囲は」
「十四ページから八十八ページ。先生の傾向的に速度・加速度と電場と電位あたりが濃厚かな。あと、物理」
「了解しました。馬鹿ども、理科の教科書と自分のノートを開きなさい。明日の対策を行います」
「「「え」」」
「そのあとはアイドル学をやるけど、用事がある人は帰っていいよ」
 
 にっこり微笑む淳と対照的に、冷たい眼差しで見下す周による理科の授業が開始する。
 最初は前期に学んだざっくりした科学の内容。
 そのあと明日のテストに出題される範囲を厳密に絞った内容を、たったの三十分で非常にわかりやすく噛み砕いて解説。
 淳はとてもためになったのだが、天皚と魁星は口から煙でも出そうな表情。
 ダメだこりゃ。
 
 
 
「っていう感じでしたね」
「わっかるわ~。わしなんて加点目当てで初日から三日間きっちりテスト受けるんやけど、結局順位下から二十番目とかザラやもん」
「ひま先輩のそれはもうやる気がなさすぎでしょぉ。珀先輩はどうでしたぁ?」
「僕も今回は厳しかったなぁ。移動中は栄治先輩に勉強を教えてもらったりもしたんだけれど、歌詞を覚えるのに必死で英語の聞き取りが自信なさすぎる」
「夏の陣前の期末テストって時期がクソすぎんねん。いや、テスト自体がもうクソやねん」
「ですよねぇぇぇぇ!!」
 
 レッスンスタジオではなく、ブリーフィングルームで理科のノートの誤字脱字を周に指摘されていた魁星が半泣きで花崗の言葉に賛同する。
 忘れそうになるが花崗ひまりは進路進学である。大丈夫か。
 ちなみに会話に参加しつつ、綾城は明日のテスト勉強の手を止めることはない。
 後藤もいるが、パソコンでなにかカタカタしている。
 それを時折綾城に見せて確認を行う。
 
「テスト勉強しながら聞いてほしいんだけれど、七月二十五日の四方峰ラジオ局、”歌スタ”への出演は一年生にお願いしていいんだよね?」
「はい、そのようにスケジュールに入っています」
「うん、内容は主にトークだけれど、夏の陣出演と定期ライブの宣伝をお願いしたいな。あと、SNSアカウントとワイチューブチャンネルの登録とか。それで、今月の定期ライブはひまりちゃん誕生月で二十九日にケーキ作りがあるから買い出しも一年生にお願いしたいんだ。どうかな?」
「わかりました。確かベイクドチーズケーキでしたよね」
「いやん、淳ちゃん覚えとってくれたん? 嬉しいわ~」
「で、八月一日のSBOライブなんですが、星光騎士団だけで四時間取ってもらっています。実は僕、この日別件でログインは二十時以降しか無理なので、魔王軍と一晴先輩と柚子先輩に代打をお願いしたら快くオーケー貰ったので主に魔王軍メンバーに事前にゲームアカウントを作ってどのようにライブを行うかなどの指導をしておいてください。一晴先輩と柚子先輩は経験者なので、当日十九時頃行くとのことですので、対応お願いします」
「ゆ……柚子様来るんですか!?」
 
 めちゃくちゃ事務的に話を進める綾城に、宇月が目を輝かせる。
 そういえばガチファンだった、この人。
 
「つまらない飲み会蹴ってゲームで遊びたかったからちょうどいい、と喜んでおられたよ」
 
 と、若干遠い目で綾城が語るのでなにか察した。
 ああ、ライブしてから普通に遊ぶ気なんだな、と。
『井の中』で遭遇した時のプレイを見たあとだと、彼のゲーマーっぷりは本物。
 まあ、プロモーションに携わらせてもらっている身なので全員「よ、よかった?」という感想。
 

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