60 / 260
麻野VS後藤(1)
しおりを挟む「では、ルールの説明も終わりましたし本日の主役――決闘を申し込んだ魔王軍二年、東四天王、麻野ルイと!」
と、大久保が一区切り入れて上手側を手で差す。
堂々BGMを背に登場する魔王軍の衣装をまとった東四天王、麻野ルイ。
一般客席の方から黄色い悲鳴が上がる。
「決闘を申し込まれた側、星光騎士団二年、第一部隊、後藤琥太郎!!」
下手から星光騎士団制服の後藤が現れると、一般客席の方から麻野の時より大きな歓声が上がる。
元々決闘を申し込んだ側が悪役になりやすい。
大久保が麻野に「今回の決闘申し込みの理由。麻野くんの正義をお客さんへ主張してください!」と言われて、堂々と「最初は星光騎士団の団長、綾城珀に決闘を申し込んだんだが今日仕事で休みと聞いたので後藤に受けてもらった!」と胸を張る。
ドヤ顔でそんなことを言う麻野に、大久保が「え? あ、ううん? そうじゃなくてぇ……決闘を申し込んだ理由……」と困ったように追加質問。
あ、と思い出した麻野はまた堂々とドヤ顔になって「我が軍の王、魔王朝科先輩を差し置いてプロデビューしていたのが気に入らなかったので、決闘でコテンパンにしてやろうと思ったんだ!」と言い放った。
残念ながら麻野と後藤だと、後藤のファンの方が多い。
平日の昼間なのでお客さん自体が少ないが、推しうちわのをパッと見た限りもうすでに後藤の名前の方が優勢。
それでなくとも決闘を申し込んだ側が不利なのに。
麻野の浅はかな決闘申し込みに当の魔王軍面々も「え?」という表情。
どうやら彼らもそんな浅はかな理由だったと思わなかったらしい。
「結構しょうもない理由だった~~~! これは始まる前から麻野くんが不利か~!? と、いうことなのですが、いかがですか、後藤くん!」
「バカですね~~~」
にこ、と満面の笑顔で答えた。
アイドルモードの後藤は長い前髪を真ん中で分けており、端正な顔立ちが目立つようになっており、性格も「ザ・アイドル」という爽やかな笑顔と口調に変わる。
ただ三年生ズと宇月に言わせると「長くても一時間しかアイドルモードは保たない。それ以上は反動で夜に体育座りから戻れなくなるしずっと泣いちゃう」とのこと。
三十分くらいだと反動も少なく、恥辱でポロポロ泣くくらい。
つまり、普段の会話ですらSDを抱いていなければ難しい後藤が、アイドルモードで爽やかイケメンとして人前で歌って踊ってMCをこなすのは、”演技”。
その演技も一時間が限界。
SBO内はアバターだったので、ほぼ素の状態だったらしい。宇月談。
それほどまでに宇月、綾城、花崗以外の人間を苦手にしている。
なんでそんなに人前が苦手なのかと言われれば、音楽家一族らしく大勢の人間の前で発表を行う度に激しい叱責と駄目出しをされ続け、親族含めて人間恐怖症になったから、らしい。
しかも後藤の実母と実祖母は発表会で失敗してもしなくても激しく叱責するだけでなく、「女の子がほしかったのよね」「女の子なら発表会の時にドレスを作ってあげたかったのに」「私が現役の時に着ていた着物を着せたかったわ」とネチネチ。
花崗並みに高身長、星光騎士団で一番低い声。
女の子がほしかったと口癖のように言う母と祖母。助けてくれない父。
母と祖母が愛でる”女の子”のSDを抱えていれば、母と祖母はSDに話しかけて最低限の会話ができる。
あまりにも特殊な家庭事情で、ちょっと理解が追いつかないところもあるのだが、ステージ上でアイドルモードになっている後藤を見ているとだんだん心配になってきた。
心配していても仕方ないので後藤の推しうちわと後藤のイメージカラーとサイン入りサムネイルをフルフルする。
「な、なにがバカだ! 確かに綾城先輩もプロとしてやっていけるアイドルだろうけれど、朝科先輩の方がもっと世間に認められるべきだ! 俺がこの決闘で勝利して、それを証明してやる!」
「いや、決闘相手は俺なんですよね」
「本当にそれな~」
麻野の言い分がむちゃくちゃ。
後藤に言い返されて、ムキーと吠える麻野。
中立のはずの大久保にまで「それな~」なんて言われてしまう。
それでなくとも決闘を申し込んでいる方が不利なのに、決闘を申し込もうとしていた相手が綾城で、今日休みだから代わりに後藤が、と言われたらますます振りだろうに。
「大久保先輩! 審判が片棒担がないでくださいよ!?」
「「肩入れかな?」」
「あ、ソレ」
大丈夫か麻野。
「もちろん、MCは中立だよ~☆ それじゃあ早速麻野くんから決闘の曲の紹介からお願いしま~す」
「おうよ! 決闘の曲は魔王軍、『Love and Death』!」
麻野が曲名を叫ぶと前奏が流れ始める。
短い前奏とすぐ歌い出す。
その瞬間、ぞわっと背中に戦慄が走る。
それほどまでに、歌い出しで引き込まれた。
ちょっとおバカだったけれど、やはり最古参三大大手グループ『魔王軍』四天王の一角。
激しいロック調の曲で、がなりや絶叫、ラップとシャウトまで入った曲。
いや、これは麻野の歌い方が激しいのだろう。
なんという喉の強度。
淳は思わず紙袋から『麻野ルイ』『指差して』を振ってしまう。
麻野が最前列近くにいる淳の推しうちわに気づいて、満面の笑みを浮かべで本当に指差してくれた。
「~~~~!」
「……淳ちゃんガチモンやね」
「なんかムカつくんだけど」
「淳、応援するなら後藤先輩でしょう?」
周に怒られたので、ちゃんと後藤の推しうちわとサイン入りサムネイルを見せるが、そういうことじゃない、と頭を軽くチョップされた。
41
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
壁の花令嬢の最高の結婚
晴 菜葉
恋愛
壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。
社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。
ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。
アメリアは自棄になって家出を決行する。
行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。
そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。
助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。
乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。
「俺が出来ることなら何だってする」
そこでアメリアは考える。
暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。
「では、私と契約結婚してください」
R18には※をしています。
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
美形アイドル達の寮母やることになったんだけど皆ヤンデレになっちゃった件
月夜の晩に
BL
美形アイドルグループの寮母係をやることになった平凡受けくん。次々とアイドル攻めくんたちをヤンデレにしてしまう。最後受けくんは監禁から逃れることは出来るのか!?
【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
前話
【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
【R-18】触手婚~触手に襲われていたら憧れの侯爵様に求婚されました!?~
臣桜
恋愛
『絵画を愛する会』の会員エメラインは、写生のために湖畔にいくたび、体を這い回る何かに悩まされていた。想いを寄せる侯爵ハロルドに相談するが……。
※表紙はニジジャーニーで生成しました
愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる