上 下
27 / 311

初パーティプレイ(2)

しおりを挟む

 エイナに『今、リアルの妹や友人と狩りをしているんですが、エイナさんも一緒に遊びませんか?』とメッセージを送る。
 比較的すぐに返事がきて、場所を聞かれた。
 第二の町の近くの森、三又に分かれた道で待ち合わせをすることになる。
 
「SBOってパーティは十人まで組めるんだ? ずいぶん大人数でいけるんだなぁ」
「来月大型レイドバトルのイベントがあるらしいので、それを想定して大人数でパーティを組めるようになっているんじゃないでしょうか」
「へー、レイドイベントがあるんだ! 今度彼女さんも誘ってみようかな~」
 
 シーナが来月のレイドイベントのことをバアルに話しながら、待ち合わせ場所に歩み寄る。
 その時、バアルが告げた人物にチコを始め三人が真顔になった。
 “彼女さん”。
 綾城珀の、恋人!
 
「そ、存在するんですか? ほ、本当に……!?」
「え? うん。実在するけど……え? 僕の彼女さん? 存在を疑われてるってこと?」
「あ、会えるんですか……?」
「ゲームの中なら別にいいよ。リアルは無理だけれど」
 
 その時、チコに緊張が走ったのをお兄ちゃんとカイセイは感じ取った。
 今の最推し、綾城珀のガチ彼女に会える可能性。
 そもそもアイドルに彼女はいるもんじゃない。
 綾城珀はそんな常識を覆す『彼女あり公言のアイドル』。
 そんな綾城珀を推すファンは、彼女の存在も認知した上で推しているものだ。
 けれど、いざ存在を目の前に差し出されたら?
 彼女ありを公言していて、認知しているとしてもさすがに目の前に現れたらファンを続けられるのか?
 
「あ、会ってみたい……珀様の彼女……」
「え? 様?」
「す、すみません、先輩! チコは先輩のファンで……!」
「え!? そ、そうだったの!? それなのに僕の彼女さんに会ってみたいの!? ええ? だ、大丈夫?」
 
 別れろ、とは五十人に一人の割合で詰められるらしい。
 そして「本当にいるのなら紹介すべき」という上から目線のファンも。
 チコのこともその類、と思われたのかもしれない。
 
「会ってみたいです! だって、珀様の命の恩人なんですよね!? お礼を言いたいです! 珀様を現実世界に連れ戻して、アイドルとして会わせてくれてありがとうございます! って!」
 
 けれどチコもシーナと同じ年季の入ったドルオタ。
 その返答は相当に予想外だったのか、バアルがきょとーんとしてしまう。
 
「あ――あはは! そんなこと言われたの初めて!」
「ふええ? そ、そうなんですか?」
「うん。……でも現実世界に連れ戻してくれたのは、彼女さんだけじゃなくて――」
 
 バアルがなにかを言いかけた時、歌声が聴こえた。
 他のパーティが戦っているのだろうか。
 このあたりは魔物があまり出現しないので、おかしいな、と思ったがカイセイの腕が急に吹き飛んだ。
 次にチコの胴が真っ二つになり、体が金色の粒になって消滅――セーブポイントへの強制帰還。
 二人を傷つけた凶刃が、バアルへと振り下ろされる。
 だが、バアルはそれを杖でいなす。
 シーナの体を突き飛ばし、木の根に尻もちをつくとようやくなにが起こっているのか、なにに攻撃されたのかがわかった。
 他のプレイヤーだ。
 
「え、な……!? ビギナー狩り!?」
「魔法使いが生意気だなぁ!!」
「先輩!」
 
 バアルが杖を左手に持ち直す。
 前衛の剣士が二人、後衛の弓士が二人、槍士と魔法使いが一人の六人組。
 剣士がの一人が振り上げた剣を杖で受け止め、そのまま流すとバアルの杖の先で剣士の胴を殴りつける。
 その間に、バアルの唇が新しく覚えたという魔法の歌を口づさむ。
 
「ギャハハ! 初期バフじゃねーか! ちょっとは動けるみてぇだけどビギナーはしょせんそんなもんだろ!」
「淳くんは魁星くんと町に!」
「せ、先輩!」
 
 バアルはフルフェイスマスク型ではなく、歌唱力による追加バフが反映されない。
 彼の歌声で、フルフェイスマスク型を使用すれば間違いなく精密採点で追加バフがかかるはずなのに。
 カイセイが右腕を押さえながら歌唱でバフを行っても、六対一では振りすぎる。
 
(クソ! サービス開始間もないから、プレイヤーキルの罰則がゆるいと思って……!)
 
 プレイヤーキルの旨味は、どのVRMMOに置いても趣旨が対人でもなければ罰則ばかりでたいしたことはない。
 けれど、どのゲームでも必ずこういうビギナー狩りやプレイヤーキラーが現れる。
 ゲーム自体の治安を悪くしたいのか、弱い者を甚振って楽しみたいのか。
 歌バフをバアルが重ねても、相手は六人がかりでバフを盛ってくる。
 言われた通りにカイセイと逃げるべきか、と体を動かそうとしたら、頬を矢が掠めた。
 弓士が弓を引いて、シーナたちを狙っている。
 逃げようと立ち上がったところを狙われるだろう。
 
「た、戦うしかない。カイセイ、歌を」
「わ、わかった」
「くっ!」
「「先輩!」」
 
 相手のバフが、バアルのプレイヤースキルと杖の耐久値を超えた。
 すぐさまバアルが装備変更して長剣を手に持ちかえる。
 だが、迫るもう一人の剣士の剣を避けるのは――

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【魔法学園編 突入☆】

はぴねこ
BL
魔法学園編突入! 学園モノは読みたいけど、そこに辿り着くまでの長い話を読むのは大変という方は、魔法学園編の000話をお読みください。これまでのあらすじをまとめてあります。 美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。 金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。 享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。 見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。 気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。 幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する! リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。 カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。 魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。 オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。 ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。

私の婚約者には、それはそれは大切な幼馴染がいる

下菊みこと
恋愛
絶対に浮気と言えるかは微妙だけど、他者から見てもこれはないわと断言できる婚約者の態度にいい加減決断をしたお話。もちろんざまぁ有り。 ロザリアの婚約者には大切な大切な幼馴染がいる。その幼馴染ばかりを優先する婚約者に、ロザリアはある決心をして証拠を固めていた。 小説家になろう様でも投稿しています。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

婚約者に心変わりされた私は、悪女が巣食う学園から姿を消す事にします──。

Nao*
恋愛
ある役目を終え、学園に戻ったシルビア。 すると友人から、自分が居ない間に婚約者のライオスが別の女に心変わりしたと教えられる。 その相手は元平民のナナリーで、可愛く可憐な彼女はライオスだけでなく友人の婚約者や他の男達をも虜にして居るらしい。 事情を知ったシルビアはライオスに会いに行くが、やがて婚約破棄を言い渡される。 しかしその後、ナナリーのある驚きの行動を目にして──? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei
SF
最新のVRゲームを手に入れた彼は早速プレイを開始した。

防御魔法しか使えない聖女はいらないと勇者パーティーを追放されました~そんな私は優しい人と出会って今は幸せです

土偶の友
ファンタジー
聖女のクロエは歴代最強クラスの防御魔法を使うことが出来た。しかし、その代償として彼女は聖女なのに回復魔法が一切使えない。 「お前、聖女なのに回復魔法使えないってホント?」「付与術師の私でも回復魔法使えるのに、聖女の貴方が使えないってどういうこと?」勇者パーティーではそのことを言われ続け、使えない聖女として扱われる。  そんな彼女には荷物持ち、夜の見張り番、料理当番。そういった雑用全てを押し付けられてきた。彼女の身も心もボロボロになっていく。  それでも懸命に人類の為にとこなしていた彼女だが、ついには役立たずはいらないからと危険な森で1人、勇者パーティーを追放される。 1人彷徨っていたところを真紅の髪の冒険者に助けてもらう。彼は聖女の使う防御魔法を褒めてくれて、命の恩人だとまで言ってくれる。 勇者パーティーから追放された聖女の幸せな旅が始まり、聖女を追放した勇者パーティーは様々な不都合が起きていき、機能しなくなっていく。料理が出来るものはいない。見張りは長時間になり体力の消耗が激しくなる。そして、敵の攻撃が強くなったような気がする。 しかし、そんなことは知ったことかと聖女は身分を隠して自分のやりたいことをやって人々に感謝される。それでも結局彼女は聖女と呼ばれて、周りと幸せになっていく聖女の物語。 小説家になろう様でも投稿しています。あらすじを少し変更しました。 2020.12.25HOTランキングに載ることが出来ました! 最初から読んでくださった方も、新しく読みに来てくださった方も本当にありがとうございます。

「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。 主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...