上 下
5 / 260

初戦

しおりを挟む
 
 ――そうして、淳は知り合ったエイナとともに町を出て街道を歩く。
 エイナが“知り合い”に教わったところによると、SBOは完全なるオープンワールドタイプ。
 メニューからマップを開くと一度到達して開放した転移石のある場所には、一瞬で行くことができる。
 システムはスキルツリー開放型。
 この辺りは比較的ゲームによくあるシステムだ。
 
「で、他のゲームと違うのはゲームタイトル通り“歌”を歌うとバフや敵に対してデバフがかかる点。これが一番の重要要素……なんだって」
「は、はい」
「スキルツリーを開放するとバフの種類とデバフの種類が増えていく。プレイヤー以外に、武器や防具にもスキルツリーが設定してあって、武具のスキルツリーの開放にもプレイヤーのスキルツリー開放度が関係してくる。プレイヤースキルツリー開放度が高ければ、弱い武具のスキルツリー開放は容易って感じらしい」
「なるほど……」
「初期武器のスキルツリーは二つまでだから、二つ開放したあとは武具屋に持って行ってワンランク上位武器と交換できる。ただし、初期武器のスキルツリーが開放状態が条件。なんかそんな感じで武具のスキルツリー開放済みの武器を複数作って、どんどん上位武器と交換させていくらしいよ。新しい武器を買うのにはお金がいるけどね」
「つまり、やっぱりプレイヤーのスキルツリー頼みってことなんですね」
「そーね」
 
 スキルツリー系はスキルポイントが必須。
 レベルを上げなくても、クエストをクリアすればSPが手に入るので、スキルツリーは開放しやすい。
 特に――歌が上手ければ。
 
「歌は精密採点――カラオケよりも精密に採点されて、それに応じたバフ・デバフの数値が変わるんだって。ま、とりあえずそれはやってみるといいよ。ほら、初期モンスターがいるよ」
「っ!」
 
 エイナが指差した先にいたのはヒヨコの姿に似た鳥のモンスター。
 さすが初期モンスター、弱そうだ。
 
「初期武器は剣?」
「はい」
 
 淳が希望している星光騎士団は剣を使う”殺陣”を演出としてよく行われる。
 殺陣の習得は必須事項の一つ。
 だから入団が困難ということなのだが、入団前からできる必要はない。
 それでもどのみちやることになる。
 今からある程度型を覚えておくといい、と思ったので剣を選択した。
 
「――星光騎士団では殺陣習得必須だもんね」
「そうなんです! えっと、じゃあ……」
「うん、初期ソングの一節を歌ってご覧。それで“バフ”がかかる。まあ、最初のモンスターとかそのまま戦っても大丈夫だと思うけど、せっかくだから練習練習」
「はい!」
 
 最初に覚える“歌”は『始まりの歌』というタイトル。
 初期のスキルツリーで使えるバフは、この『始まりの歌』のAメロ部分のみ。
『始まりの歌』Aメロでプレイヤーが得られるバフは『攻撃力上昇』。
 
「~~♪」
 
 Aメロを口ずさむ。
 右の頭上にポコン、と四角いアイコンが現れる。
 ――攻撃力上昇のアイコン。
 これがバフだ。
 アイコンの上には30秒の文字。
 バフの継続時間だ。
 
「い、行きます!」
「うん」
 
 剣を構えて、目の前にいるヒヨコモンスターに駆け寄る。
 近づいてきたプレイヤーに気がつくと、さすがに迎撃態勢を取るようだ。
 間抜けな顔がキリッ! とこちらを向いて、先制攻撃をせんとばかりに突進してくる。
 心が痛むような顔をしているのだが、相手がモンスターである以上仕方ない。
 モンスターらしくヒヨコの姿のくせに無駄にでかいので。
 
「はあああ!」
 
 剣を振り下ろすと、デロローン! と効果音が鳴ってレベルが上がった。
 スキルポイントは5。
 モンスターは斬りつけてすぐに砕けて消えてしまう。
 残ったのはアイテム『ヒヨコの羽根』。
 なにに使うのだろう、と思いながらそれを拾う。
 
「ないすー」
「あ、ありがとうございます! なんとなく遊び方がわかりました!」
「そ? ならよかった。あ、最初は武具のスキルツリーを開けるスキルのレベルを上げるといいらしいよ。武具のスキルを解放して、先に武具のレベルアップを優先させた方が効率いいって有識者が言ってた」
「あ、それでエイナさんは装備がもう違うんですね」
「そう」
 
 装備を変えるのは、お金があまりかからない。
 初期装備は特に、スキル解放を行なったものとの交換と言っていた。
 早速言われた通りに、武具のスキルを解放するスキルツリーを強化していく。
 
「武具のスキルツリーを解放すると、さっきとは戦いが格段に楽になってると思うよ」
「やってみます!」
「じゃあ、俺も歌バフかけるね。バンバン狩ってこー」
「はい! よろしくお願いします!」
 
 エイナが息を吸い込む。
 最初の一つの音が唇から放たれた瞬間、背筋がゾワッと粟立つ。
 
(上手……!?)
 
 ほんの一節。
 Aメロも完成していない最初の一文のような歌詞だけでエイナが歌うまだとわかる。
 出だしだけでこんなに背中がゾワっとするほど上手いなんて。
 頭上に『攻撃力上昇』と『速さ上昇』のアイコンが浮かぶ。
 始まりの歌のAメロのバフは『攻撃力上昇』のみのはずなのに、エイナの歌は採点による追加付与で『速さ上昇』効果が付属した。
 それだけ、エイナの歌が上手いということだ。
 
(この人、すごい……!)
 
 そのバフを受けながら、殺陣の動きを意識しつつモンスターを狩っていく。
 ほんの一時間で、なんと10もレベルアップした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

美形アイドル達の寮母やることになったんだけど皆ヤンデレになっちゃった件

月夜の晩に
BL
美形アイドルグループの寮母係をやることになった平凡受けくん。次々とアイドル攻めくんたちをヤンデレにしてしまう。最後受けくんは監禁から逃れることは出来るのか!?

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R-18】触手婚~触手に襲われていたら憧れの侯爵様に求婚されました!?~

臣桜
恋愛
『絵画を愛する会』の会員エメラインは、写生のために湖畔にいくたび、体を這い回る何かに悩まされていた。想いを寄せる侯爵ハロルドに相談するが……。 ※表紙はニジジャーニーで生成しました

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...