18 / 37
王妃になる覚悟
しおりを挟む「でもその前に! アークにだけ愛称はずるい。私にも愛称呼びを許してくれ。私の事は呼び捨てにしていいから」
「えっ!」
「あ、それはずるいですよミリアム。クリス、なら、僕の事もこれからは呼び捨てにしてください。様は不要です」
「えっ!」
いつの間にかジーン様がエリザ様の隣に移動して、わたくしの横にはアーク様とミリアム様が!
ど、ど、どういう事、どういう状況でしょうか!?
なんですか、これは!
「で、でも……王子殿下お二人を呼び捨てにするなんて……」
「「大丈夫。問題ない」」
「…………」
ちら、と王妃様方にもお伺いを立てておきましょう。
するとお二人ともにこり、と微笑んでくださいました。
……えぇ、いいんですか……?
「……わ、分かりました……そうお呼びするように……」
「今呼んでみてくれないか?」
「今呼んでみて欲しいです」
「えっ、ええっ!?」
今? 今ですか? 今すぐに!?
しかもそんな顔をキラキラさせながら……あああっ……! お二人の整ったお顔が目の前にぃ!
こんなの抗えません~!
「ミ、ミリアム……」
「うん」
「アーク……」
「はい」
「…………っ!」
はわわわわぁぁぁあぁぁああああぁっ!
左右がキラキラ、とんでもなく眩しいんですけど~~~~~!?
ただお名前をお呼びしただけなのに。
お名前ならいつもお呼びしているのに。
なんでそんなに嬉しそうなのですか!
「では、私も愛称で呼んでみてもいいか?」
「へ? は、はい、もちろん」
「…………クリス」
「ひゃっ!」
みっ! 耳元でそんな吐息を吹きかけるようにしながら音を乗せて囁かなくてもよろしいのではないでしょうかー!?
距離を取ろうにも、隣のアーク様にぶつかってしまいま……。
「ずいぶん可愛い声が出ましたね、クリス」
「ひゃあ!」
今度はアーク様に!
アーク様のお声って、首に響くんですよ!
アー!
「や、やめてくださいお二人とも! 意地悪です! お戯れにしても悪質です!」
「ごめん」
「すみません」
「笑顔で謝られても説得力がございませんわ!」
満面の笑みー!
これはまったく一切これっぽっちも反省しておられない顔ー!
もう、とてもひどいです!
お二人にこんな意地悪な面があっただなんて!
「でも、そんな反応をするなんてくすぐったかったのか?」
「とっても可愛い反応で、またしてみたくなりますね」
「や、やめてください~!」
「こほん!」
「「あ」」
ジーン様の咳き込みに、お二人がようやくわたくしから離れてくださいました。
はわわぁ……良かった、死ぬかと思いましたぁ!
「すみません、母上」
「ええ、ここでは自粛なさい。……それよりも、話を戻します」
「は、はい」
話を……なんのお話でしたかしら?
まずいですわ、頭からすっ飛んで行きました。
いえ、悪いのはミリアム様とアーク様……あ、いえ、ミリアムとアークなので!
多分わたくしのせいではないと思いますので!
「クリスティア、王子二人はあなたを正式な婚約者としたい、と言っています。わたくしの息子、アークもこのままあなたを婚約者としていたい。他の女性はもうよいと言っています。実際、王妃教育を受けているのはこの国であなただけ。もちろん自主的に学んで控えている者もいますが、ヴィヴィズ王国次期王妃はあなたでほぼ決まりなのです」
「…………、……身に余る光栄。ありがたく思いますわ」
ジーン様にここまでおっしゃって頂けるなんて……。
そんなにわたくしを認めて頂けていたなんて……!
これからも、もっと頑張らなくてはいけませんわね。ジーン様やエリザ様をがっかりさせたくありません!
「とはいえ学園が始まってからが本番です。味方を増やさなければなりません。そして、息子たちの気持ちも踏まえて……異例ではありますがクリスティアには『二人』の妻になってもらいたいのです」
「……はい。……はい?」
なんと?
さすがに今のは聞き間違い?
思わずルイナを見上げると、にこ、と微笑まれる。
にこ、と微笑み返しますがなるほど~、ルイナもグルなのですね~。
そんな事ありえますか~? えええ~?
「えええええぇっ!? どういう事なんですのーーー!?」
「つまり私とアークの妻という事だ」
「僕とミリアムがクリスを巡って権力闘争を起こさない、素晴らしい提案だと思いませんか? クリスが頷いてくれないと、クリスは傾国の寵妃として国内外にその名が知れ渡ります。それを避けられるのです」
「即座に脅し!?」
「『はい』以外言わせる気がないからな!」
「ミリアム様まで!?」
「様はいらない」
「あううううっ!」
エリザ様……まさかエリザ様まで、こんなむちゃくちゃな提案を了承してはおりませんわよね!
一縷の望み……! エリザ様!
「にこり」
「ですよね!」
ここまできてエリザ様だけ仲間外れなんて事ございませんわよね!
「しかし、そんな事を国王陛下がお許しになられるのですか!」
「ああ、陛下のお許しなら頂いているわよ」
「嘘でございましょう!?」
「本当よ。むしろ『王子たちに妻を共有させる事で、確実に王家の血筋を残せる』と喜んでおられたわ」
「!?」
あっ、いえ、た、確かに、はい、まあ、王族の方の、国王となる方のお役目、王妃のお役目は、はい、そ、そうですわね、はい……。
……お世継ぎを残す事、ですね、はい……。
…………。いえ、でもやっぱりおかしくありませんかっ!
陛下、考えるの放棄してませんか! 大丈夫ですか!
「クリスティアも満更でもなさそうで良かったわ。側室を増やす事は他国でも当たり前だけど、そうして王位争いで滅んできた国も多い。事実ヴィヴィズ王国は、そうしたら国々から生き延びた経緯があります。この国と隣国『ブリニーズ』は血で血を洗う戦争を好んできた。血の気が多いのです。だから決闘の文化が根づいている。……それを避けるためにも、クリスティアが納得してくれると助かるわ」
「…………」
「嫌?」
「ダメ、ですか?」
「嫌じゃないです、ダメじゃないです」
ぐうううぅっ!
ミリアムとアーク、左右からそんな寂しそうな声で覗き込んでくるのはずるいです! 反則です! 卑怯です!
「「「「………………」」」」
「?」
あら?
なぜ、皆様急に黙られたのでしょう?
それからニコリ、とお優しい笑顔……なぜ?
「そろそろおやつの時間だもんな。ルイナ、持ってきてくれ」
「かしこまりました」
「?」
「お茶だけじゃ足りないわよね。うんうん。たんとお食べなさい」
「?」
ミリアムとエリザ様にいわれて、ルイナが席を外す。
なにが起きているのか分かりません。
わたくし、お腹が鳴ってしまったのでしょうか?
だからお腹が空いて……空い……お腹が空いていますね! 自覚したらとてもお腹が空いてきました!
これは鳴っていてもおかしくありませんわ!
「どうぞ」
「まあ! ケーキ!」
「食べながらお聞きなさい、クリスティア」
「は、はい、ジーン様」
ルイナが持ってきたのはホールケーキ。
それを丸ごと頂けるなんて幸せ!
でも、お話はまだ続くようです。
他に一体どんなお話が……?
「二人の王子の妃となる。それを了承してもらえてとても嬉しいです。わたくしにとっても、これであなたは娘となるのですから」
「……ジーン様……」
なんだかそんな風に言って頂けると嬉しいですわ。パク。
恥ずかしくて顔を合わせられませんわ。パク。
たくさん食べちゃいますわ! パクパク!
「ですが、それはそれとして……」
「?」
なんだか急にジーン様の声が低くなりました。
カップをソーサーに置き、にやらな不穏な空気が……え、ええ?
「問題はあなたの実家。ロンディウヘッド侯爵家です」
「!」
ロンディウヘッド侯爵家が、問題!?
さすがにこれには手が止まります。
フォークを置いて、深刻な表情のジーン様とエリザ様を見る。
一体なにが……。
「二人の王子の妃にあなたがなると、その分あなたの実家に権威が集中する事になるのよ」
「……!」
あ……そ、それは……。
「…………」
それは……父が望んでいた事。
わたくしはそのために生まれてきたと言われた。
父と母も姉も兄も、家のためにわたくしが王子妃になる事を願っていたのだ……わたくしが『お二人の』妻になるという事は……その悲願が、最高の形で叶う。
あの家に最大級の権威が集中する。あの父に、母に、姉に、兄に……。
わたくしが愚かでも分かる。
それは絶対に、まずい。
「なので、わたくしは提案します。受け入れるかどうかはあなた次第。でも、この国のためにもきっと必要」
「もちろんクリスティアが嫌なら他の方法を考えるわ。でも、わたくしもジーンもあの家にあなたを置いておく事は……誰のためにもならないと思っている。だから——」
「…………」
お妃お二人からのお話に、わたくしは最初ひどく狼狽しました。
けれどお二人のおっしゃる事はごもっとも。
だからわたくしは、クリスティア・ロンディウヘッドではなく、ヴィヴィズ王国次期王妃として決断する事に致しました。
「ご提案をお受け致します」
弱いままではいられないし、いたくはない。
この国を支える者として、実家と相対する事も厭わない。
そういう人間にならなければならないのです……きっと……王妃とはそういうもの。
0
お気に入りに追加
1,284
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
処刑された人質王女は、自分を殺した国に転生して家族に溺愛される
葵 すみれ
恋愛
人質として嫁がされ、故国が裏切ったことによって処刑された王女ニーナ。
彼女は転生して、今は国王となった、かつての婚約者コーネリアスの娘ロゼッタとなる。
ところが、ロゼッタは側妃の娘で、母は父に相手にされていない。
父の気を引くこともできない役立たずと、ロゼッタは実の母に虐待されている。
あるとき、母から解放されるものの、前世で冷たかったコーネリアスが父なのだ。
この先もずっと自分は愛されないのだと絶望するロゼッタだったが、何故か父も腹違いの兄も溺愛してくる。
さらには正妃からも可愛がられ、やがて前世の真実を知ることになる。
そしてロゼッタは、自分が家族の架け橋となることを決意して──。
愛を求めた少女が愛を得て、やがて愛することを知る物語。
※小説家になろうにも掲載しています
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる