40 / 42
第40話ですわ!
しおりを挟むたくさん二人で泣いたと思います。
気付けば空が赤らんでいて、ハイル様お耳が赤くなっているのが分かりましたから。
わたくしも同じくらい赤くなっているのでしょうか。
泣いているせいなのか、ハイル様のお身体がとても熱いです。
わたくしも、同じように熱くなっているのでしょうか。
ああ、けれど……さすがに泣くのも疲れてきました。
それはハイル様も同じだったのか、少しずつ、わたくしを抱き締めていた手が緩くなっていきます。
わずかに出来た隙間から、ハイル様のお顔を見上げれば……まあ、こんなお顔は初めて見ましたわ。
いつも凛々しいハイル様はどこにもいらっしゃらない……。
「まあ、ハイル様ったら酷いお顔……」
ハンカチを取り出して涙を拭うと「君こそ」と言われてしまいました。
どうやらわたくしもかなり酷い有様のようです。
そんなわたくしの顔をハイル様がハイル様のハンカチで拭いてくださいました。
んっ、本当。
目元が少し痛いですわ。
「…………マスターに頼んでみようか」
「……もう、ストーリーに添いたくない、とですか? そんな事を言ったら、わたくしたちは……」
感情が強くなったNPCなんて、マスターは要らないと仰るでしょう。
ですが、なんとなくハイル様の仰りたい事も分かる気が致します。
だから目を閉じて、自然に笑みがこぼれたのでしょう。
「はい、そうですわね。いつまででもご一緒致しますわ」
「…………」
微笑むハイル様。
ええ、覚悟は出来ました。
わたくしも、運命に抗う事に決めました。
***
「いやぁ、色々あったけどついに卒業かぁ~! 感慨深いものだねぇ! あ、エイランはもう少し学院に残るんだっけ?」
「ああ。まだ取得してないスキルが学院で学べるみたいなんだ。…………エルミーも学院に残れれば学べるんだろうけど……」
「ん? どういう意味?」
「いや……。それよりも…………」
『ハイル・エレメアン殿下とキャロライン・インヴァー様、ご入場です』
アナウンスの後、わたくしとハイル様は卒業パーティーの会場へと入場致します。
盛大な拍手の中、はしのほうに『壊された』NPCのご令嬢を見付けて微笑む。
良かった、一日で直してもらえたのですね。
けれど、わたくしとハイル様の姿に拍手は次第に小さくなり、困惑の表情と声が混じり始める。
まあ、そうでしょうね。
「ほわぁ~! キャリーたん、黒のドレス大人っぽーい!」
「…………黒いタキシードにドレスって……」
エイラン様とエルミー様は真逆の反応。
どうやらエイラン様は周囲の反応からなにか察したようですわね。
その通り、喪服ですわ。
「今日はパーティーを楽しんでくれ。特にエイランは功労者だからな」
「ああ、まあ、そうさせてもらうつもりだけど……君たちその格好……」
「抗う事にしたのですわ」
「……! …………、……そうか」
エイラン様はさすがに分かってらっしゃいますわね。
さて、それはそれとして、一応最後の抵抗と申しますか……NPCとしてのなけなしの矜持! 今ここで果たさせて頂きましょう!
これでダメなら本当にハイル様の案しかございませんからね!
「というわけで! エルミーさん!」
「え! なに? 私!?」
「わたくしからのご褒美です! お受け取りなさい! 赤き炎よ、塊となりて我が敵を討て! ファイヤーキューブ!」
「ほえええええええぇ!」
…………。
顔が、笑顔ですわ!
「ぶぉっ!」
「ええええええぇ!?」
ざわざわする会場。
まあ、普通ざわつきますわよね。
わたくしが初級とはいえ魔法でなんの罪もない(?)ヒロインを攻撃すれば。
しかし、すぐに立ち上がったドレス姿のエルミーさんは…………え、ええと……け、形容し難い……気持ちの悪い笑顔でした。
「ありがとうございます!」
第一声がそれですか。
「もう一回おねがいします!」
「ひっ! ……ご、ご褒美は一回だけですわ!」
「これはお前が我が婚約者、キャロラインを暴漢たちより救出し警護した事へのキャロラインからの褒美だ。どうだ? 嬉しかったか?」
「くううう~! 今までで一番サイッコーーー!」
「……………………」
エイラン様のお顔。
え、ええ、言いたい事はとても良く分かりますわ!
むしろわたくしも同じ事を申し上げたいくらいです!
……気持ち悪いです!
「…………やはりこいつにストーリー通りの展開を期待するのは無理だな」
「は、はい。どう足掻いてもこの方がヒロインではストーリー通りに物事を運ぶ事は無理ですわ……マスター」
『そのようだね』
「「!?」」
エイラン様とエルミーさんが驚いてわたくしたちの頭上を見上げる。
そこにいたのは『運営』の集合体……マスター。
白髪の幼い子どもの姿をした『彼』は、不敵な笑みで二人のプレイヤーを一瞥なさるとわたくしたちに向き直ります。
『そしてなにより君たち自体が『個』を自覚した、か。ふむ、興味深い』
「マスター、俺たちはもうストーリー通りに動くNPCとしてやっていく事は出来ません」
「NPCとして役割を果たせなくなったわたくしたちは、このゲームには不要な存在。それは分かっておりますわ」
「え? え!? なに、それ……ちょっと待ってどういう事なの!?」
「…………っ」
エイラン様は表情を険しくなさる。
意味を理解した生徒NPCたちは、顔を俯けて押し黙りましたわ。
彼らにも、わたくしたちほどではないにしても『心』が宿りつつあるのです。
ですから……『貴族』のストーリーは……間もなく崩壊するのでしょう。
それを防ぐにはNPCのAIを一度リセットするしかない。
ええ、記録の削除。
……心の死。
けれど、ハイル様と一緒ならわたくしは怖くありません。
この方と……この方の想いと共に逝けるのならば……それは幸せな事なのですわ。
『ハハ……いや、むしろナイスタイミング、かもしれないよ』
「?」
「それはどういう……?」
『実はねぇ……まだ公式発表に至っていないけれど『ディスティニー・カルマ・オンライン』はサービス終了が決まったんだ』
「ええええええぇ!?」
…………びっくりしましたわ。
あ、叫んだのはエイラン様です。
いえ、はい、無理ないですわ。
エイラン様の強さは確実に相当の時間を賭してきたものです。
エイラン様の培われたPSはこの先も別なゲームで応用は利くかとは思いますけれど……このゲームで解放し続けてきたスキルツリーは……。
「どどどどどういう事ですか!? このゲームがサービス終了!? じゃあオレは……オレの努力は!」
『まあまあ、話は最後までお聞きよ。このゲームのデータは今度リリース予定の『ファンタジー・オン・エンヴァース・オンライン』に引継ぎ可能。このゲームはサービス終了だけど、システムもほとんどそっちに移植されるし、NPCのデータも引越しさせて再利用の予定だ』
「なっ…………んだぁ…………」
あ、安心して腰を抜かしてしまわれましたわ。
エイラン様、そ、そこまでですの?
ま、まあ、せっかく『魔法付加』と『魔法付与』を覚えたばかりですものね……その努力が報われる前にゲーム終了は確かに血も涙もありませんわ。
しかし……そこまでなさるのであればなぜこのゲームはサービス終了なのでしょう?
見上げるとマスターは無邪気に微笑まれます。
「あの、マスター。差し支えなければサービス終了の理由を教えて頂けませんか?」
『構わないよ。まあ大型アップデートでも良かったんだけど、会議で『名前がダサい』『もっとプレイヤーに厳しくても良くない?』『もっとみんなで遊べるゲームにしてほしいっていう要望多い』『PK横行しすぎててなんとかして欲しい』ナドナド……ユーザー要望含めてあれやこれやいじってたらなんかもう別なゲームとしてリリースした方が早くない? って感じになったんだよねー』
なったんですかー……。
『それにやっぱり仲良くなったNPCを殺すのがネックみたいなんだよねー。そこがこのゲームのウリなのに。酷いよね。まあ、でもそんなわけで『FOEO』はアバター販売やストーリーも自由に遊べる上、難易度は更にクソ上げし、自由度は維持しつつ追加シナリオと『PK』を廃止。ゲーム内の設定も変わるから、君たちはあちらのサーバーに引っ越した後、別な役職に就いてもらう事になるだろう』
「…………では、俺たちは……」
ハイル様と共に息を飲む。
わたくしたちは——……!
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆
白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』
女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。
それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、
愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ!
彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます!
異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆
《完結しました》
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。
【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!
くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。
ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。
マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ!
悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。
少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!!
ほんの少しシリアスもある!かもです。
気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。
月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる