16 / 42
16話
しおりを挟む「中でも特に問題が大きいのは輪廻転生のシステムです。輪廻転生機能がないせいで、魂が転生しません。転生できないと、命は繋がらない。そこで『アレンクォーツアース』は死んだ魂の行き場を用意しました。それが亜人族や獣人族、魔人族です。それらが住むこの国……ドルディアル共和国は、人間が死んだあとに来る死者の国。ここで魂は記憶や罪悪を洗い流され、無垢なものになり、死んで人間に転生するんだそうです。けれど、魂の転生機能はとても不安定で、定期的に入れ物の方を破壊しなければならない。……そこで人間……コバルト王国は、ドルディアル共和国側から戦争を仕掛けられているとして虐殺を行い入れ物から魂を解放してコバルト王国で子どもが産まれるように調整を行うんですよ」
「…………」
片付けの手が止まる。
止まるに決まってる。
瞳が揺れて、体が震え出した。
「……な、ん、ですか……そ、れ……」
信じ難いにも、程があるでしょう。
「驚きますよね。これ、この国では常識なんですよ。……あまりにも歪んでる」
「……ひ、ひどい……! ひどすぎす、そんなの……! だって、そ、それじゃあ……戦争は終わらない……終わらせられないじゃないですか……! コバルト王国はこの国の人を、殺さなきゃいけなくて……この国の人たちはそれを受け入れてるっていうんですか!?」
「ドルディアル共和国の民はとても無垢です。……それが世界に必要なことだと受け入れています。俺も初めて知った時はとてもショックでした」
「……っ!」
もしかしたら、『アレンクォーツアース』にそう思うように、受け入れるように“設定”されているのかもしれない。
この国の人たちは“入れ物”としての役割からか繁殖を行えず、国の中央にある『生命樹』に祈ることで子を得るという。
個体数は士官たちが管理しており、それはコバルト王国側も同じ。
そして、定期的に外から——異世界から魂をもらってきては、数を調整する。
コバルト王国で勇者や聖女、賢者などを異世界から【召喚】するのは、主にその調整が理由なのだという。
多分、私も……『転生者』もその調整のためなのだろう。
なんてこと……。
「だからコバルト王国で生活できないのであれば、この国で生活するのは問題ないです。ただ、結構精神にきます。それを忘れて過ごすのは、相当無神経な人間だと思うので」
「ルイさんは——」
どうしてこの国に、と聞こうとして、止めた。
ワケアリなのだ、彼も、私も。
言葉を呑み込み、工具の片付けと木材の片付けに移る。
それにしても、いったいなにをやっているんだろう、この人は。
木材が散乱してるってことは、木工職人かなにかなのだろうか?
木片も履いて捨てないと——。
「あれ? これ、オルゴールですか? わあ、かわいい!」
「!」
窓際に並ぶ箱。
どれも可愛らしい動物が蓋に彫ってある。
他にもダンスする人形。
動物の列。
そういえば入口をノックする前に音楽が聴こえたっけ。
そうか、オルゴールの音だったんだ。
「鳴らしてみてもいいですか?」
「どうしてそれがオルゴールだって知ってるの」
「え」
口調と声色が変わった。
顔つきも先程の柔らかく同情的なものではなく、無表情で読み取りづらい、冷たい目線。
「この国はもちろんコバルト王国にもオルゴールの文化はない。オルゴールの存在を知っているのは異世界から招かれた者だけだ」
「っ……!?」
「君……もしかして、召喚者?」
ビリビリと、空気が重く尖ったものになる。
まるで怒りに満ちた父と対峙している時のような——いえ、父の比ではない。
息もしづらい。
コルトが怯えて私の後ろに隠れるほど。
「おぎゃあ、あぎゃあ!」
「あ……えっと」
背中で泣き出したリオハルトをあやしながら、どうしたらいいか考える。
召喚者——異世界から来た者へのこの態度。
私もリオハルトも間違いなくそれに近いものに該当する。
で、でも、逆に言うと“オルゴールを作っている”彼もまた……。
「わ、私は、前世が異世界だった、です。あ、あなたこそ……」
「……前世? ……転生者? 異世界から? そんなことがあるの?」
「あ、あるもなにも……」
剣呑な空気はあまり変わらない。
少し不満そうな表情にはなったけれど……。
「あ、あの、少し落ち着いて話を聞いてくれますか?」
「別に……いいけど……」
今の感じで確信したことがある。
——ルイというこの青年、強い。
威圧感、存在感、圧迫感。
どれをとっても今まで会ったどんな人間よりも凄まじい。
椅子に座り、リオハルトを泣き止ませてもコルトはルイんさに近づこうとしないほど。
とにかく、彼を敵に回すのは得策ではない。
仕方なく、私は自分のすべてを彼に話すことにした。
前世でワンオペ育児の結果、自分とこの子を——晴翔を死なせてしまったこと。
転生したあと『異界の子』として処女受胎でこの子を授かったこと。
それにより家に居場所を失い、兄にとても迷惑をかけてしまったこと。
この子を産んだあとのことも、すべて。
12
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
夫に離婚を切り出したら、物語の主人公の継母になりました
魚谷
恋愛
「ギュスターブ様、離婚しましょう!」
8歳の頃に、15歳の夫、伯爵のギュスターブの元に嫁いだ、侯爵家出身のフリーデ。
その結婚生活は悲惨なもの。一度も寝室を同じくしたことがなく、戦争狂と言われる夫は夫婦生活を持とうとせず、戦場を渡り歩いてばかり。
堪忍袋の緒が切れたフリーデはついに離婚を切り出すも、夫は金髪碧眼の美しい少年、ユーリを紹介する。
理解が追いつかず、卒倒するフリーデ。
その瞬間、自分が生きるこの世界が、前世大好きだった『凍月の刃』という物語の世界だということを思い出す。
紹介された少年は隠し子ではなく、物語の主人公。
夫のことはどうでもいいが、ユーリが歩むことになる茨の道を考えれば、見捨てることなんてできない。
フリーデはユーリが成人するまでは彼を育てるために婚姻を継続するが、成人したあかつきには離婚を認めるよう迫り、認めさせることに成功する。
ユーリの悲劇的な未来を、原作知識回避しつつ、離婚後の明るい未来のため、フリーデは邁進する。
『完結』人見知りするけど 異世界で 何 しようかな?
カヨワイさつき
恋愛
51歳の 桜 こころ。人見知りが 激しい為 、独身。
ボランティアの清掃中、車にひかれそうな女の子を
助けようとして、事故死。
その女の子は、神様だったらしく、お詫びに異世界を選べるとの事だけど、どーしよう。
魔法の世界で、色々と不器用な方達のお話。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい
千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。
「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」
「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」
でも、お願いされたら断れない性分の私…。
異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。
※この話は、小説家になろう様へも掲載しています
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる