379 / 385
世界再生編
儀式の前に(3)
しおりを挟む「俺が全部殺すから、お前は手を汚さなくていいって。ギア・フィーネの登録者相手に、バカなこと考えてたもんだと思うわ」
「そんなことないよ」
天井を見上げたファントムに、ジェラルドが間髪入れずに否定する。
珍しくあまりふわふした表情ではない。
「ぼくも同じこと思ってる。ヒューバートには誰も殺してほしくないなって、思ってる」
「っ! ジェラルド……」
「ヒューバートの代わりにぼくが全部殺すから、ヒューバートには綺麗な手のままでいてほしなって。でも、ヒューバートは王子だから、いつか必要があればきっと殺すと思う。そんな日が来なければいいのにって、思ってる」
ジェラルド、そんなふうに、思ってたのか。
思わず顔を背けてしまう。
そんなふうに思っていてくれたのに、俺は——。
「ごめん、ジェラルド。俺はもう人を殺してる」
「……、……うん。なんとなくそんな気はしてた。でも、それでもヒューバートにはあんまり殺してほしくないの。僕がヒューバートの分まで殺すから、お願いって思ってる」
「……俺は……ジェラルドにもあんまり殺してほしくない」
友達だから。きょうだいだから。
驚いた表情をされる。
これから先、今のままではいられないと思うけれど。
「ヒューバート」
「うぇ!? はい!?」
ファントムに名前を呼ばれて肩が跳ねる。
え、ファントムが俺の名前を呼んだ!? え!?
「ギア・フィーネの製造方法のデータは、儀式終了後にすべて抹消する。バックアップにも残さず、全部初期化して元に戻せなくする。お前たちも表には出すなよ」
「え、あ、は、はい」
「でなければ宇宙のやつらは、自分たちのパーツを使って再現しようとするだろう。こんなもんが量産されたら、創世神を作っても世界の終わりだ」
「っ! あ、は、はい!」
ギア・フィーネの量産!?
それは地獄不可避。
たったの五機でも世界の戦禍を拡げたギア・フィーネ。
ファントムが言う『自分たちのパーツ』と言ったのは脳のことだろう。
もちろん脳だけではギア・フィーネの核であるGFエンジンは作れないけれど。
「ただ」
「はい?」
「王苑寺ギアンは、それすら見越して“登録者を神格化”なんて機能をつけたんだろうな。人間が人間であれば絶対に敵わない存在。もしも神と戦うのなら、同じく神にならねばならない。だが、神になれば人間として戦う意味を失う」
「っ」
「まあ、だから争いがなくなる——なんてことはない。今の状態が奇跡的なんだ。長くは保たないだろうけど」
「うん、そうだろうね」
それに関しては、頷かないわけにはいかない。
ギア・フィーネを失ったら、いくら守護神たちが側にいても石晶巨兵を武装させて発起するアホはどうしても出るだろう。
その時に戦う術はファントムの作ったギア・イニーツィオに頼ることになる。
人が増えれば、国が増える。
国が増えれば、それぞれの統治が始まるだろう。
資源なりなんなりを理由に、戦争は遅かれ早かれ再びこの世界に巻き起こる。
ファントムの言う通り、今の状態が奇跡的であり異常なのだ。
それでも、俺の考えに同調して戦争をやめてくれた今の世界には感謝しかない。
「だがお前は——石晶巨兵を作り出し、俺に、戦争のない世界を見せてくれた。本当に」
とても澄んだ声。
隣を見る。
ラウトの凪いだような表情。
「こんな世界、俺は滅びればいいと思っている。今も」
「エッ」
「だが、戦争のない今の世界は美しい。このままずっと戦争のない世界が続くのなら——お前とレナ・ヘムズリーが笑っている世界なら、俺とブレイクナイトゼロが守ってもいいと思う」
「……ラウト」
「面倒臭いやつ」
ふん、と笑いながら、ファントムが三号機の方へと歩き出した。
ジェラルドがそのあとをついていき、一度振り返って手を振ってくる。
それに手を振り返して、三人の語らいが始まるのを少しだけ眺めた。
まあ、あの中に混じって行ったりはしない。
それはさすがに野暮だから。
「あの男にだけは言われたくないな」
「面倒臭いってとこ?」
「ああ」
「それはそうだよねぇ」
クックっと笑い合って、俺も四号機に乗り込んでみた。
でも、正直なにを話せばいいのか意外にも出てこない。
さっきラウトとファントムに、アベルトさんの話を聞いてしまったからだろう。
イノセント・ゼロに乗った最初の登録者。
「アベルトさんはどうしてギア5に到達しなかったんだろう?」
純粋な疑問が浮かび上がってきた。
四号機の登録者、アベルト・ザグレブは最初から異質な登録者だったというではないか。
初めからリリファ・ユン・ルレーンという“歌い手”とともに乗り込み、瞬く間に誰よりもギア・フィーネの同調率を上げて行った。
それなのに、どうしてギア5に到達しなかったのか。
『世界を救うつもりなんか、なかったからだよ』
「え」
俺の疑問にイノセント・ゼロが答えてきた。
世界を救うつもりが、なかった?
『アベルトは、だって近しい人を守れればそれでよかったんだもん。ザードもアレンもそうだよ。でも君は世界を終わりから救おうとしている。その差だよ』
「……そっか」
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
データワールド(DataWorld)
大斗ダイソン
SF
あらすじ
現代日本、高校生の神夜蒼麻は、親友の玄芳暁斗と共に日常を送っていた。しかし、ある日、不可解な現象に遭遇し、二人は突如として仮想世界(データワールド)に転送されてしまう。
その仮想世界は、かつて禁止された「人体粒子化」実験の結果として生まれた場所だった。そこでは、現実世界から転送された人々がNPC化し、記憶を失った状態で存在していた。
一方、霧咲祇那という少女は、長らくNPCとして機能していたが、謎の白髪の男によって記憶を取り戻す。彼女は自分が仮想世界にいることを再認識し、過去の出来事を思い出す。白髪の男は彼女に協力を求めるが、その真意は不明瞭なままだ。
物語は、現実世界での「人体粒子化」実験の真相、仮想世界の本質、そして登場人物たちの過去と未来が絡み合う。神夜と暁斗は新たな環境に適応しながら、この世界の謎を解き明かそうとする。一方、霧咲祇那は復讐の念に駆られながらも、白髪の男の提案に悩む。
仮想世界では200年もの時が流れ、独特の文化や秩序が形成されていた。発光する星空や、現実とは異なる物理法則など、幻想的な要素が日常に溶け込んでいる。
登場人物たちは、自分たちの存在意義や、現実世界との関係性を模索しながら、仮想世界を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。果たして彼らは真実にたどり着き、自由を手に入れることができるのか。そして、現実世界と仮想世界の境界線は、どのように変化していくのか。
この物語は、SFとファンタジーの要素を融合させながら、人間の記憶、感情、そしてアイデンティティの本質に迫る壮大な冒険譚である。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる