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二人の聖女と悪魔の亡霊編

side ジェラルド(2)

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 真っ直ぐに見つめられ、ミレルダには不満げに見つめられる。
 そしてもう一度、軸発電機の方を見た。
 ジェラルド・ミラーという人間は、ヒューバート・ルオートニスとともに生きてきたしこれからも彼の隣で生きていく。
 その覚悟と願いを持つ。
 なにがあっても、彼を独りにはしない。
 王という孤独な道の隣で、どれだけ寄り添えるかはわからないけれど。


 ——登録者になると、死ぬ以外の解除方法はない。

(別にいい。もう、ヒューバートは登録者になっちゃったし)

 ——登録者は不慣れな状態でギア上げをすると体調を崩す。

(いつも見てるだけだったから、ヒューバートのつらさをわかってあげられるのは嬉しい)

 ——登録者は、ギア5に到達すると不老不死の“神”となる。

(ヒューバートの愛した国を一緒に守っていけるのなら、別にいい)


 歯車が向かう先。
 大きいものを一回り小さいものが動かす構造だ。
 それがこの大穴の中を満たしている。
 辿るっていく。
 大きな歯車を動かす、少し小さな歯車を。
 本当にわずかな差。
 中にはミリ単位の僅差の歯車もある。
 なるほど、これは意地が悪い。
 しかしジェラルドには[鑑定]魔法がある。
 瞬きせず、即座に辿ればなにも問題はない。
 魔力量も神々と同レベル。
 魔力切れなど、よほどの魔法を連発しなければなることはない。
 光の線のように視える、その歯車の先。

「あれだ」
「え?」
「重力よ、翼に従え! [飛行]!」

 浮かび上がり、見つけたのは歯車と歯車に隠されるようにあったレバーだ。
 こんなもので、こんな大きな装置がどうやって動くのだろう?
 不思議に思いながらレバーを引いてみると、天井から魔石の連結した台座が逆さまの状態で降りてきた。

「……」

 それを見て、口を開いたまま固まってしまった。
 このシステムを、一人で考えたというのだろうか?
 五つの中型結晶魔石クリステルストーンが連結することで、大型をも容易く超える魔力が“循環”している。
 構造的にはディアスが作った、晶魔獣使役の首輪に似ているだろうか。
 しかし、それよりも密度の濃い魔力を外回り、内回りにして高速で循環させることで、魔力を“生成”しているのだ。
 真ん中の魔石を押し込めば、これは六つの魔石によりほぼ半永久的にこの軸発電機を回し続ける“装置”となる。
 生唾を飲み込んだ。
 この高密度の魔力を、ただの一片も漏らさずに使っているこの装置を覆うガラスのようなもの。
 間違いない、結晶魔石クリステルストーンの“膜”だ。
 それを加工して、ガラスとして使っている。

(すごい……こんなことが可能だなんて……。これが実用化できたら、石晶巨兵クォーツドールにも転用できる。魔樹の皮を使わなくても作れるし、関節に複数の結晶魔石クリステルストーンを使ってコレと同じように連結させることができたら、魔力蓄積も必要ない……)

 思い知る。
 これが本物の“天才”か。
『神の手を持つ悪魔』と呼ばれた男の真価だ。
 心の底から尊敬する。

「——行きます」

 がこん、と中央の魔石を押すと、六つの石の連結が完成する。
 耳に金切音のような高音が響き、歯車が少しずつ回り始めた。
 シャルロットとミレルダのところへと戻り、成り行きを見守ると、歯車はどんどん他の歯車を動かしていく。
 小さな歯車が大きな歯車を。

「こんな……こんなことが……!」

 小さな歯車からこれほど巨大な歯車を動かすに至るとは、千年前の人間はとんでもないことを考える。
 少しずつ発生始めた電力が、コードを通って施設全体に行き渡り始めたのを見届けてからミレルダが肩の力を抜く。

「……あーあ、負けだなぁ」
「ミレルダ嬢……あ、あの……」
「ジェラルド、キミは三号機に乗りたい? 死ぬまで登録者の運命から逃れることはできないけど」
「え~と、うん。ヒューバートの側にずっといるって決めてるから。ミレルダ嬢とシャルロット様が許してくれるなら、ぼくに三号機をください」

 お願いします、と頭を下げる。
 二人が今、どんな顔をしているのかはわからないけど、大きな歯車の音の中に「クス」という小さな笑い声が聞こえた。

「こっちだよ」
「ええ、こちらです」

 ミレルダに左手を、シャルロットに右手を引かれて連れて行かれたのは——さらなる地下。
 シャルロットの角膜を読み込み、上下、次に左右に扉が開く。
 その先にあったのは五機石晶巨兵クォーツドールに似た機体。
 ヒューバートがここにいたならば「ロボットだぁ~!」と目を輝かせることだろう。
 その中の紫紺色の機体が、近づいただけで操縦席のハッチを開く。
 まるで、ジェラルドが来るのを待っていて出迎えてくれたかのように。

「三号機がハッチを開いた……! やっぱりキミは選ばれたみたいだね」
「え?」
「中央で多くのコードに繋がれているのがギア・フィーネシリーズ三号機、アヴァリス。貪欲の名を冠る、かつて最強最悪の登録者が駆りし悪魔・怪物と呼ばれた無敗の狙撃手。何人もその首を刈ることの叶わなかった、我が国に残る最後の守護神」

 二人の聖女が左右に立つ。
 そして、ジェラルドを誘う。
 青いメインカメラが光を灯し、新たな登録者を待ち望む。

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