174 / 385
ハニュレオ編
番外編 過去の亡霊
しおりを挟む——ハニュレオ城、四階、空中庭園。
「ククク……興味深いことになったものだ」
黒い燕尾服。
顔上部を隠す仮面。
長い青髪を靡かせながら、城門の近くにしゃがむ五機の機体を見下ろす男。
記憶がないなど嘘を平然と吐き、まんまと国の中枢を掌握した——千年前の人類の一人、オズ。
無論、それは本名などではないけれど。
(ギア・フィーネ。まさかまた歴史の境目に関わってくるとは。いや、らしいといえばらしい。それでこそギア・フィーネ。それに二号機と五号機。ククク、因果は巡るというやつか? ……登録者はさすがに代わっているだろうが)
口元に笑みを浮かべたまま、白と灰色、そして深緑の期待を見下ろす。
見たところ一号機と三号機は一緒ではないらしい。
ハニュレオなど、ギア・フィーネ一機で事足りるだろうに。
それとも本当にあの王子の言う通り、争うことなど考えておらず、和平を築こうとでも言うのだろうか。
かつて世界を混乱に陥れ、戦禍を加速させ、幾つもの国と命を消滅させた“力の権化”。
それが平和を望む?
笑いを禁じ得ないほどの冗談ではないか。
(さて、どうしたものかな。予定を早めるしかないか——)
せっかくここまでお膳立てして、あとは軽く背中を押してやるだけ。
もうすぐ面白いことになると思っていたのに、まさに余計な茶々を入れられた感じだ。
庭園の端から見下ろしていた機体は懐かしく、もう少し見ていたい気もしたが五号機の方から視線を感じてすぐに身を隠す。
(……まさか?)
登録者が新しくなっているのなら、気づかれるとは思えない。
現代の人類は千年前の人類ほど戦いに慣れた者は多くないからだ。
いくらギア・フィーネの登録者に選ばれたとしても、魔法を使っていたとしても、[隠密]と[隠遁]の魔法で姿を隠したオズを見つけられるはずはない。
もし、それでも勘づかれてれたのだとしたら、それは——。
(……登録者、確認しておくか)
カッカッ、とブーツの底を鳴らしても、[隠密]の魔法で掻き消える。
それに、たとえ勘づかれていたとて千年前の五号機の登録者が“自分”をどうこうすることはないだろう。
そう笑みを深めて、男は明かりのない廊下を進んで消える。
「…………」
「ラウト? どうかしたのか?」
「いや。お前たちには関係ない」
ランディが不思議そうにラウトが見ていた城の一角を見上げる。
気配、姿、音、匂い。
あらゆるものを消す魔法を使っていただろうから、ランディには感じられなかっただろう。
広範囲を[索敵]するヒューバートが特に反応を示していないところを見ると、敵意も殺意も持ち合わせていない相手のようだ。
だが、ラウトには確かに感じ取れた。
あれは醜悪なものの——“心”——魂のようなもの。
先程ヒューバートがジェラルドと共に連れて行ったシズフがこの場にいれば、もう少しなにかわかったかもしれないが、
「あ、ラウトー、そういえばハニュレオのお姫様が千年前の人類を、結晶化した大地から助けたんだってさ。オズって呼ばれてて、記憶がないんだって」
「ふぅん?」
話しかけてきたのはヒューバート。
結晶化した大地から聖女に救い出され、記憶喪失。
まるで助けられたばかりのラウトのよう。
「オズという名は知らないな」
「やっぱりそうか? 顔も半分仮面で隠しててさ」
「はぁ?」
「あ、髪は青かったよ。こうして一括りにして、垂らしてるくらい長くて、さらさらで」
「…………青い髪と、仮面」
「うん、やっぱり心当たりはない?」
しかしヒューバートはこういう方面の勘がいい。
おそらくオズという男が、三号機の登録者ではないか、と疑っているのだろう。
その可能性は高かった。
この国にはエアーフリートが眠っている、最有力候補地。
エアーフリートには、三号機が保管されているはずなのだ。
ならばこの地に三号機の登録者が結晶化した大地に呑まれていても不思議ではない。
それになにより、忌々しいことだが——。
「確かに千年前、三号機の登録者は“ガウディ・エズン”という仮面の将軍としてアスメジスア基国の内部まで潜入していたことがあるが」
「えぇ……なにしてんのぉ……。っていうかどういう状況なのぉ……こわぁ……」
「俺の直属上司だったガーディラが死んだ後釜に収まったんだ。俺がソレイヴ・キーマの話に乗って、反乱を起こすのを手伝うのを事前に察知されたのもこいつのせい……そう、ザード・コアブロシアのせいだな」
とはいえ、それ自体はラウトにはどうでもいいことだった。
それよりも、ザード・コアブロシア——“ガウディ・エズン”の部下として、ラウトを殺すために居場所を探っていた少年の方が印象深い。
彼の存在はラウトに『復讐される側』の気持ちを思い知らされた。
だから三号機の登録者には、恨みがない。
あの少年の当然の権利に手を貸した三号機の登録者は、なにも悪くないのだ。
性格の相性は、絶対悪かったと思うが。
(……しかしガーディラを殺したのもザード・コアブロシアか。因果だな……)
当時のラウトの唯一の味方。
ガーディラを三号機に殺されてから、軍内でのラウトの扱いは『実験体』レベルまで下がり悪くなった。
一応、都市長の庇護は分厚かったと言える。
しかし、そんな上司の仇を討とう、なんて感情は微塵も湧いてこない。
とても良くしてもらったと今でも思うが、あれは“騎士の戦い”だった。
それに敗北したガーディラの敵討ちなど、ガーディラに失礼というもの。
「じゃあ、オズってやっぱり三号機の登録者なのかな?」
「あり得なくはないが、直接会ってみないとなんとも言えないな」
「だよね。明日は技術者との面会だから、ラウトとシズフさんも一緒に来てよ」
「……確かに気にはなる。わかった」
だがなんでシズフまで?
あの体調の悪そうな男を連れて行く意味がわからない。
と、思ったが——。
「シズフさんの吐いた結晶魔石、使い道が多すぎて決められないんだよね……」
「…………」
石吐き待ちする気だ、こいつ。
「顔、ニヤニヤしてるぞ」
「嘘! う、き、気をつける!」
「そうしろ。キモい」
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる