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14歳編
羊の返り血(3)
しおりを挟む「ふざけるな! 貴様のような影がいてたまるか!」
「現在進行形で気配がないのも、怪しいよね~。っていうか、魔力すら感じないのおかしいよ。[魔力遮断]の魔法を使えるなんて影でも普通じゃないし」
ジェラルドが珍しくガチおこだ!
……そういえば[索敵]の魔法にも引っかかってない。
いくら殺意や敵意がなくても、この状況なら二人のような怒気の反応ぐらい感知してもよさそうなものなのに。
「え~、近頃の若い子はそんなことまでわかるの~? おっさん、この国の将来有望ぶりに頭抱えちゃうわ~」
「で、本当に何者なんだ、お前は」
「仕方ないですねぇ。元暗殺者ですよ、オレは。コードネームは“羊の返り血”です」
「元暗殺者!?」
「ええ、ヒューバート殿下のお命も狙ったことがありますよ。もうクビになりましたから、狙う理由はありませんけど」
いけしゃあしゃあとおおぉ!?
「き、貴様っ! 殿下のお命を狙ってきたというのか!」
「だーかーらー、もう契約解除になってるんですよ。ほら、二度も失敗しましたからね」
「二度……?」
割と真剣に首を傾げる。
やだなー、「どれだ?」とか思うの。
「…………。どれ?」
でも気になるから聞いちゃう。
すると、目を丸くして驚かれた。
すぐに「変な子だねぇ」とニヤ、って笑われる。
「お茶会の時に毒蜂で刺したのと、馬の晶魔獣で結晶化した大地に放り出したやつ」
「え、あ? あれーーー!? マジで!?」
俺的暗殺ランキングトップ1、2!
マジで死ぬかと思ったあの件!
そして、俺はずっとあの暗殺者に会いたかった。
「あの魔道具について教えて!」
「「ヒューバート(殿下)!!」」
思わずおっさんに詰め寄って服を掴んでしまう。
だって、アレずっと知りたかったんだよ!
晶魔獣を操る魔道具。
あれがあれば、石晶巨兵よりも安価な結晶化した大地を闊歩できる可能性が手に入る!
「あれ、晶魔獣を操ってるんだろ? そもそもどうやって凶暴な晶魔獣につけるんだ? どういう構造なんだ? 素材は? 命令系統はどうやって書き込んでる? 蜜璃のサイズは? 魔力供給はどうやってる?」
「ちょっちょっちょっ、落ち着いて落ち着いて。さすがに手の内を晒すのはお断りですよ。だいたい、王子殿下はオレとアレに殺されかけてるんですよ? なーんでそんな興味津々なんです?」
「決まってる。あれがあれば結晶化した大地だけじゃなく、晶魔獣についても調べられるじゃないか」
「は?」
なんでわからないって顔をされるのかが、俺にはいまだにわからない。
この世界の人類、黙って滅びを受け入れるつもりなのだろうか?
揃ってこういう顔をするよなぁ?
「結晶化した大地や晶魔獣を調べれば、結晶病についてもわかることがあるかもしれないだろう? 結晶病の治療法がわかれば、土の大地を取り戻せるかもしれない」
「は? オタクさん、土の大地を取り戻せるとか思ってるんですかい?」
「わからないけど、なにもしないままでは死を待つだけだろう? みんなどうして諦めてるんだ? 聖女たちが滅びの時をこれほど長く先延ばしにしてくれたんだから、その時間の中でできることをすべきだろう?」
まあ、俺が死にたくないだけってのもある。
結晶化した大地をなんとかできたら、俺は結晶化して砕けて死ぬ、なんてえぐい死に方しなくて済むんじゃない?
……前世でも、アレ多分頭蓋砕けてご臨終してると思うし。
畳の上で死にたいよ……穏やかにな……。
畳、この世界にないけど。
「…………。は、はは」
「?」
「あっはっはっはっはっ! なーるほどね! あの人が殿下に興味を持つわけですよ! あっはっはっはっ!」
「な、なに」
あの人? だ、誰?
「しかし、タダってわけにゃ参りませんね。こちとら商売道具です。殿下からなにぞ報酬でもいただかないと。それに、この魔道具は借り物なんで、持ち主に聞いてこないといけませんし」
「そうか、光炎でもいいか?」
「は?」
「えっ!?」
「ででででで殿下ぁ!?」
ジェラルドすまない、お前には本当にすまないと思う。
でも俺は晶魔獣を操るあの魔道具が絶対ほしい。
「いやいやいやいや、あれ開発途中でしょう? それに殿下の大切な計画の最初の完成体のはずでしょう? え、オレにくれるっていうんですか?」
「お前というより魔道具の作り主に、だ。あんなものが作れるのだから、光炎を渡せばよりいいものができそうだろう?」
「いやいやいやいや、作れそうですけれども」
作れそうなんじゃん。
「待ってください? いくらなんでもどうかと思いますよ? あれ、オレみたいな何処の馬の骨ともわからないやつに渡していいもんじゃないでしょ。オレ、こう見えてセドルコ帝国にも伝手があるんですよ? あのでかい人型魔道具をセドルコに売るかもしれないとか思わないんですか?」
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