上 下
85 / 385
14歳編

思い出したくないのなら

しおりを挟む
 
「大漁ですね!」
「うん、国内流通半年分になりそうだ。かなりの収穫だな。レナもたくさん拾ってくれてありがとう」
「い、いいえ、そんな!」

 馬車に木箱の中に入れて積み込む結晶魔石クリステルストーンは、近年稀に見ぬ大漁だ。
 中型の結晶魔石クリステルストーンもいくつかあるし、騎士団と魔法騎士団にはボーナスだな。
 おかげさまで聖殿騎士の方からの視線が痛ぇ~。

「ヒューバート様!」
「!」

 背中から感じる痛い視線の方から女の子の声。
 ああ、きっとこれが——。
 ……振り返るのが怖い。
 もしも漫画通りに、浮気してしまったら……。
 いや、俺にはレナだけだ!
 意を決して振り返る。

「あの、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私、マルティアと申します。やっとお会いできましたね」
「あ、ええと、はい。初めまして……」

 オレンジ色の髪と青い瞳の美少女。
 キラキラした眼差しで俺を見つめてくるが、その目の奥には打算が感じられた。
 多分聖殿の方で俺に取り入るよう言われてるんだろうな。
 一見すると清楚そうな見た目だが、胸元が開いていて谷間がよく見える。
 男なのでつい、そこに目がいくのは仕方ない。
 でもすぐレナの方を見る。

「レナが可愛い」
「ひょえ、あ、ヒューバート様!? きゅ、急になんですか!?」
「いや、再確認を……」

 レナの方が可愛いな。うん。ハイ完結。

「っ……ところで、あの遺物すごいですね! 私も乗せてください!」
「わあっ!」
「ヒューバート様っ」

 腕に抱きつかれ、胸を押しつけられる。
 や、やぁらけぇ~~~!
 だが俺は負けない!

「だ、ダメだ! アレはレナを守るために協力してくれてるだけだから」
「レナ様を? なんでですか?」
「それはええと」

 聖女だから、という理由を告げるとマルティアも当てはまる。
 かと言って“歌い手”とやらはよくわからんしな。

「お兄ちゃん!」
「おわぁ!」

 考えていると、反対側からラウトが抱き着いてきた。
 見上げてくる顔がいい。
 顔がいいな。
 え? 顔、良。

「ラウト、危ないだろう」
「ごめんなさーい。ねぇ、それよりもお腹空いた~」
「ああ、昼食にしよう。携帯食で申し訳ないけど……」
「あ、あの、ヒューバート様!」
「ごめんね、お姉さん。ヒューバートお兄ちゃんは僕たちとご飯食べるから!」

 にこ、と微笑むと、マルティアが「あ、はい……」と頬を染めてラウトを見つめる。
 ジェラルドもどんどん美形になり、女生徒たちからこんな眼差しを向けられることが増えたものだが、ラウトの顔面も凄まじい。
 もはや顔面宝具では?

「ねぇねぇ、僕頑張ったの見てた? 魔法はまだ強いの使えないけど、ワイバーンを一匹落とせたんだよ」
「へぇーすごいじゃないか」
「えへへー」

 マルティアが完全にラウトに見惚れて動かなくなったので、その隙にジェラルドとランディに合流する。
 パティがお弁当を持ってきてくれたので、昼食休みだ。

「聖殿の聖女と接触しておられましたが、いかがでしたか?」
「あー、なんか間違いなく『篭絡せよ』って指示もらってそう」
「見抜かれてるの笑う~」

 笑ってやるなジェラルド。
 そんぐらいわかりやすかったんだ。
 14歳の女の子も「男を誑かしてこい」なんて言われても、困るよなぁ。
 それを命じる方がどーなの……。
 ドン引きなんだけど。

「逆に取り込んで聖殿を丸裸にするのも一興かと思いますが」
「ラ、ランディ……」

 なんて悪いことを考えるんだ……!

「ラウトは~? 町から出てみて、なにか思い出した~?」
「えー? うーん、別に」

 次にジェラルドがラウトに話を振る。
 サルヴェイションを見ても、なにも思わなかったってことか?

「アレ見てもなにも思い出さなかったか?」

 気になってサルヴェイションを指差しながら聞いてみる。
 ラウトはサンドイッチを手に取って、もくもく食べながらぼやー、とサルヴェイションを見上げた。

「見たことはある気がするけど………………あんまり思い出したくない、ような……」
「そうか」

 長い沈黙のあと、表情を顰めるラウト。
 サルヴェイションがどこの所属かはわからないけど、敵対関係だった可能性もある、んだよな。
 そのせいかな?
 だとしたらかなりしくじったこと聞いちまったぜ。

「見たことあるといえばジェラルドの顔も見たことある気がする!」
「ぼく!?」
「ジェラルドを!?」

 千年前にジェラルドが!?
 そんなわけあるか!?

「でもなんか違うような?」
「え~、なんか怖い~」
「だ、大丈夫だジェラルド。きっと他人の空似ってやつだろ」

 千年前にジェラルドがいるわけないからな。
 ちょっとビビらせるのやめて~。

「パティも知ってる人のような気がするんだよね」
「あたしも!?」
「そんな馬鹿な!?」

 ミラー家千年前にも存在してたの——あ、もしかして。

「先祖かな?」
「ぼくと姉さんの?」
「かな?」
「あ、なるほどー」

 千年前のラウトの知り合いの子孫。
 そう考えると、なかなか興味深いな。

「……まあ、けど、そもそもなんだけどさ、ラウトは、記憶を思い出したいと思うか?」

 それを聞こうと思ってた。
 ラウトは忘れた記憶を思い出したいのだろうか?

「……思い出したく——ないかなぁ。よくわからないけど、昔のことを思い出そうとするとお腹が切なくなるの」
「お腹が切なくなる……悲しい、ってことか?」
「うーーーーん。わかんない……でも思い出したくない」
「そうか」

 やっぱり思い出したくないのか。
 千年前の戦争は、ろくなもんじゃなかったんだろうな。
 まあ、戦争はなんだってろくでもないだろうけど。

「じゃあ、無理に思い出さなくてもいいのかもな。俺たちもラウトに『なにか思い出したか』って聞くのやめるよ」
「そうですね、思い出したくないのなら、このままでいいと思います」
「そうだね~」
「思い出なら新しく、楽しいのをたくさん作ればいいだろうしな」
「……うん!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

意識転送装置2

廣瀬純一
SF
ワイヤレスイヤホン型の意識を遠隔地に転送できる装置の話

処理中です...