55 / 385
12歳編
国境の要救助者と暗殺者(2)
しおりを挟むで、休日。
出かける前に城のレオナルドへ出した手紙を、城からの使者に届けてもらったが……。
「いかがしましたか?」
部屋に迎えにきてくれたランディが、答えのわかりきった質問をしてくる。
もう何年も、同じ返答しか返ってこない。
「勉強で忙しいってさ。父上の誕生日パーティーも、ここ四年は予算関係で開催されてないからなぁ」
かく言う俺や母上の誕生日パーティーも、経費削減で行われていない。
メリリア妃だけは、実家から援助を受けてパーティーを行ってるけど俺と母上は呼ばれないんだよ。
「最後に会ったのは7歳の時か。レオナルド、元気かな……」
「殿下……」
異母とはいえ、兄弟なのにこんなに会えないなんておかしくない?
前世一人っ子だったから、一人で過ごすのは平気だけどさー。
一人っ子だったからこそ、もっと構い倒したいというか。
っていうか、俺は凡人なので王子教育マジ厳しいって気持ちはわかる。
これ、常人に可能?ってくらい量が多い。
一通りの座学が終わると立ち居振る舞いにまで口を出される。
その上、体の成長に合わせて学ぶことも増えるし。
剣は子ども用から大人用になるし、乗馬、チェス、婚約者への接し方、ダンス、狩り、武器も弓矢や槍の扱いも教わる。
ただ、レオナルドは未だに婚約者がいない。
血筋にこだわりを持つメリリア妃が、レオナルドと新聖女マルティアをレオナルドの婚約者に据えるとも思えないし……来年入学したらレオナルドをお茶会に誘って、そこで婚約者を探してもらうのはありかも。
学院に入れば、メリリア妃の目も届きづらい。
偶然を装って会うこともできるだろう。
……実際のところ、レオナルドは俺をどう思っているのだろうか。
あの母親の思想に染め上げられて、俺のことを敵のように思ってる?
だとしたら悲しい。
俺は仲良くしたいのに。
「せめて元気かどうかを知りたいな」
ということで手紙を出す。
城に住む弟に、手紙で近況を聞くのは何年やっても慣れない。
っていうか、一回くらいレオナルドの直筆の返事をくれてもよくないか?
返事の手紙はいつも、メリリア妃の侍女が代筆で書いている。
文字が同じなので、実質俺は何年もこの侍女と文通している状態だ。
「あ」
そうだ、同じ侍女ならば、あの気性の激しいメリリア妃にずっと仕えている古株ってことだ。
きちんとその人ように、別用紙でレオナルドの近況を教えてもらえないか——せめて元気かどうかだけ教えてもらえないかを頼んでみよう。
挨拶が遅くなり申し訳ない。
いつも私の手紙に返事を書いてくれてありがとう。
あなたの立場を悪くしたくはないので、この手紙は捨ててくれて構わない。
ただ、弟が健やかかどうかだけ、それだけは教えてほしい。
いつも心配している。
よろしく頼む——と。
よし!
「待たせてすまない。これをレオナルドに届けてほしい」
「かしこまりました」
城から手紙を届けてくれる使用人は、俺が月一で来る手紙の返事にすぐ、返事を書くと知っているので待っててくれる。
今回も優しい眼差しで微笑まれた。
どういう意味の笑顔だよあれ。
聖殿派の人なんだろうか。
お前ごときが聖殿派のレオナルド王子に返事をもらえるわけねーだろばーか!
身の程を知れ!
……とか思われてる?
どうも貴族の笑顔の裏ってのはわからん。
「……本当に、殿下はお優しい……」
「ん? ランディ、なにか言ったか?」
「いえ! そろそろ参りましょう」
「そうだな。しっかり稼いでくるとしよう!」
ジェラルドとリーンズ先輩が無駄にした分を、しっかり取り戻さないと。
事前投資だ、と父上に渡された結晶魔石が残り五つは洒落にならん。
絶対怒られる!
父上は普段温厚だけど、母上のご機嫌と無駄遣いには敏感だ。
率先して自分が贅沢を止めるような人なのだから。
……俺ももう少し大きくなったら、なにか商売を始めた方がいいかな。
貴族も流行りを意識して投資とか、起業とかするつていうもん。
俺が売れるもの——うーんなんだろ?
女性向けでよくあるのは石鹸やポーションだろうか?
あいにくこの世界にはどっちもあるんだよなー。
石鹸は、疑問に思ったことないけど、元々の文明レベルを見たあとだと「そりゃあ残ってるよなぁ」としか……。
ポーションも冒険者にありがちな、魔法アイテム。
作り方はリーンズ先輩が知っていることだろう。
冒険者かー。
時間に余裕があれば、登録だけしておきたいかも。
この世界の冒険者は、どっちかっていうと傭兵の意味合いが強い。
こんな時代なので食い扶持を減らすために、冒険者ギルドに子どもが売られるのだ。
ギルドは適正を見ながらギルド登録のパーティに預け、パーティ内でその子を育てる。
騎士団では手が回らない晶魔獣討伐などを請け負い、戦闘が多いため死亡率はそれなりに高い危険な職業。
しかし、魔法が使える貴族が稼ぐために登録したり、学院を卒業後に城や貴族の家に就職できなかった平民がいい稼ぎになると冒険者になったりもする。
学院で魔法を習うから、そういう平民は冒険者ギルドでも重宝されているとか。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
8分間のパピリオ
横田コネクタ
SF
人間の血管内に寄生する謎の有機構造体”ソレウス構造体”により、人類はその尊厳を脅かされていた。
蒲生里大学「ソレウス・キラー操縦研究会」のメンバーは、20マイクロメートルのマイクロマシーンを操りソレウス構造体を倒すことに青春を捧げるーー。
というSFです。
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる