上 下
39 / 385
12歳編

国境の出会い(1)

しおりを挟む
 
 さーて、休日です。
 入学から五日。
 本日は平民たちの護衛と称して結晶化した大地クリステルエリアに面する、西の国境付近にやってきた。
 ぶっちゃけ、国境付近にここまで近づいたのは生まれて初めて。
 結晶化した大地クリステルエリアを、ここまで間近で見たのも初めて。
 ひとたび足を踏み込めば、瞬く間に人体は結晶化して死ぬ。
 まさしく、死の大地。
 と言っても、危なすぎるので百メートルくらい離れた場所にいまーす。

「どうだ? ジェラルド」
「興味深い素材がたくさんあるよー!」

 ホクホクっといつになくいい笑顔のジェラルド。
 結晶化した大地クリステルエリアの辺りには、討伐された晶魔獣の死骸がほうちされている。
 それらは時間が経つと、素体になったモノに戻るらしいのだ。
 で、ギギの話を聞いてもしや、と思っていたがやはりそうだった。
 ジェラルドが集めている金属片は——ロボットの破片だ。
 指先や、武器の一部、今拾ったのはロボじゃなくて戦車の大砲の部分だろうか。
 今ではもう、それがなんなのか誰もわからないんだろう。
 俺は前世の知識があるから、なんとなくそうなんじゃないかなって思うけど。
 現物を見たことはないから、正直自信がないんだが。
 それでも、SF漫画やアニメや映画に出てくる武器とか兵器にそっくりなんだよ!
 ——ギギが言っていたな。
 この世界は、この国があった場所は、戦争をしていた。
 敗戦して、ギギがいた研究塔は停止されていたのだと。
 兵器や武器の残骸は、“タイワ”という国のものか、それとも攻め込んできた敵国のものか……。

「…………」
「ヒューバート様、どうかされましたか?」
「あ、レナ。いや……ちょっとギギが言ってたことを思い出してたんだ」

 平民たちは少しずつ結晶化した大地クリステルエリアに近づき、晶魔獣を探している。
 俺とレナもそれについていき、サポートをする役目。
 まあ、俺らの前、平民たちの後ろには近衛騎士が二名と騎士団から五名の騎士、魔法騎士団からも二人の魔法騎士が派遣されているので危険はない。
 さっきチラッと小さいネズミやヘビの晶魔獣が現れたが、秒殺だった。
 得られた結晶魔石クリステルストーンは、晶魔獣発見者のもの。
 まあ、全然足りないんだよ。
 デカいのが一匹出てくれれば、結晶魔石クリステルストーンを砕いて全員に行き渡らせることもできるけど、あんまり危ないのはねぇ?
 それに、今日倒してもデカい素材が手に入るのは数日後。
 うーん。

「そういえば、ギギはウイルスがどうとか言っていましたよね……」
「うん……」

 それもあるんだよなぁ。
 ギギが言うにはコンピューターウイルスのたぐい
 あの兵器の数々……俺の前世よりも科学技術が進んでいたのも鑑みるに、兵器は当然AIやコンピューター制御に頼っていたはず。
 それがウイルスに冒されていたのだとしたら、どんなにすごい科学力を誇っても、ウイルスに侵食されて乗っ取られたらひとたまりもない。
 戦争していた? なにと?
 もし、そのウイルスをばら撒く“クイーン”とかいうAIだとしたら?
 便利な生活に慣れきった人類が、その技術力を捨てることと滅びることを天秤にかけたなら?
 ……ヤバい、マージでSF映画の世界設定じゃん……。
 けど、それならこの結晶化現象はいったいなんなんだろう?
 “クイーン”とかいうウイルスを封じ込めるための処置?
 いや、どうやって?
 それに、聖女の魔法——歌で結晶化が治ったり阻めたりするんだし、無関係かも……。
 んーーー……、いや、でもまあ、ギギの言うウイルスに気をつければ、過去の兵器素材を再利用するのは別にいい、よな?

「それにしても、ジェラルドのやつ手当たり次第に[空間倉庫]に放り込んでいくな」
「ふふ、楽しそうですね」

 [空間倉庫]は無属性の魔法で、ジェラルドが開発したチート魔法。
 異世界チートモノにありがちな、『なんでもいくらでも入るし時間が止まっていて食べ物を入れても腐らない』アレだ。
 五メートルくらいありそうな鉄塊も、ぬるん、と入ってしまう。
 素材集めが捗っておられる。

「はぁ……けれど、わたしが聖女に認定されていれば、結界の修繕もできたのですが……」
「構わないからやってくるといい。手柄なら聖殿にくれてやればいいんだから」
「! よろしいのですか?」
「だって結界は国のために必要不可欠だし、レナは“王家の聖女”なんだから問題ないよ」
「あ……ありがとうございます! 行ってきますね!」

 事前投資、事前投資~。
 レナが結界のところまで駆けていくのを、手を振って見送る。
 結界が強化されたら強い晶魔獣は襲ってこれなくなるだろうけど、ドラゴンみたいなデカいやつが現れたらシャレにならないし、別にいいだろう。
 俺?
 俺は絶対結界に近づきたくないぜ!
 自分の死因が目の前にあるんだからな!
 死にたくない!
 生き残りたい!

「あれ」

 だが、俺の判断は遅かった。
 レナも結晶化した大地クリステルエリアから聴こえてくる鳴き声に気がついたのだろう、立ち止まる。
 騎士たちが陣形を支持し合い、ジェラルドが[空間倉庫]を閉じて立ち上がった。
 凄まじいスピードで、空から強襲したのは図鑑に載っていたドラゴン種——ワイバーン!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

意識転送装置2

廣瀬純一
SF
ワイヤレスイヤホン型の意識を遠隔地に転送できる装置の話

処理中です...