80 / 83
六章 『転生者』
転生者、二人
しおりを挟む「くっそ! 減らねえぇ! 『ギガント・ハリケーン』!」
その頃シュウヤも頑張って襲ってくる魔物たちを退治していた。
ストーリーでは村が襲われるのだが、妙な仮面の冒険者のせいで森の中で迎撃する事になってしまったのだ。
(アイツ! 転生者……!)
こちらを睨むあの青い瞳。
なぜか強く敵視してくる。首を斬られそうにまでなった。
あいつは、ストーリーを──『ワイルド・ピンキー』の事を知っていたのだ。
(だから主人公に嫉妬してんのか? 逆恨みだろ!)
あの冒険者から様々なスキルはコピーしている。
その中で使えるのは『鑑定』『探索』『身体強化』『浮遊』『飛行』『ギガント・ハリケーン』。
他のスキルはまだコピー出来ていないが、あの男、『鑑定』で見た限りかなりレベルが高い。
『ワイルド・ピンキー』の基準だと、五巻ヒロインの女冒険者ハニエ並みだろうか。
(クッソクッソクッソ! 腹が立つ事ばかりだぜ! 妄想勘違い女に刺されたと思ったら、チーレムラノベの主人公! 俺の時代キター! っと思ってたのに全然いいスキル覚えられねぇし!)
シュウヤ……前世は石田秋矢という名前だった。
自分の名前と同じ主人公が、可愛くて胸の大きな女の子たちにチヤホヤされながら無双する……その爽快な内容にどハマりして原作小説からWEB版まで網羅。
アニメの円盤も揃えて、SNSで複垢まで作り情報収集したり仲間と盛り上がったり、ゲームで同じ名前で遊んだり……まさにどハマり。
だから高校に入学後、秋矢と『付き合っている』と思い込んでいたストーカー女に刺されて死んだ時は本当に冗談だろう、と思った。
確かに、芸能界に関わるようになり、そういう意味での露出が増え、ファンもつき始め、多少は調子に乗っていたかもしれない。
だが『付き合っていた』と勘違いしてつきまとい始めたあの女には、当然の事を言ってやったし当たり前の対処をさせてもらった。
それを逆恨みして、包丁で刺し、どこかへ逃げ去ったのはまったく腹が立つと言ったらない。
あのあとちゃんと警察に捕まったのだろうか?
いや、もうそんな事は関係ない。
今、秋矢はシュウヤとしてこの世界に転生した。
前世では到底不可能なハーレム、戦闘力、権力。
誰もシュウヤには勝てない。
(俺が一番強くて最高なんだ……! この世界は俺の世界!)
『ワイルド・ピンキー』の中では捨てられたり、ハーレムに加わらなかったヒロインたちも、物語を知っている『シュウヤ』ならば手に入れられるかもしれない。
ハーレム要員の四人以外……エルフィー、ハニエ、エマ、レイラ、プリシャ、フェルトをハーレムに加え、十人の美少女、美女、幼女にチヤホヤされながら求められる。
巨乳、美乳、爆乳に囲まれて、柔らかくいい匂いの彼女らに押し潰され奪い合われる……そんな日々を自分ならば手に入れられると確信していた。
そう、ストーリーを知っているのだから、その知識を使って彼女たちを籠絡すればいい。
考えただけで「むふむふ」と鼻の下が伸びる。
「ギイィ!」
「ああもうマジクッソうっぜええええぇ!」
コピーした魔法『ギガント・ハリケーン』を連発する。
その乱立した竜巻が、四つ、五つと増えると次第にお互いの風の流れに巻き込まれ始めて一つの強大な大竜巻と化す。
「! 『オールクラッシュ・ハリケーン』!」
『ギガント・ハリケーン』の上位魔法スキルが習得出来た。
コピーではなく、シュウヤ自身で手に入れたのだ。
それにほんの少し、気分が良くなる。
「お! だいぶ減ったじゃねぇか! これなら……」
帰れる……そう安堵した瞬間だ。
「……げっ……」
グレートボアの上位種、マッスルボアが現れた。
全身が通常のボアよりも遥かに強靭な筋肉で、食用にもならない。
口から生えている牙など、もはや鋭すぎて「どうやってご飯を食べてるんですか?」と聞きたくなるレベル。
いや、もうボアというよりサイでは?
「っ、『オールクラッシュ・ハリケーン』!」
覚えたての魔法をマッスルボアへとぶつける。
凄まじい豪風がマッスルボアを取り囲み、ごうごうと周囲の木々を引っこ抜きながら通り過ぎていく。
残りの雑魚魔物も取り込まれ、残ったのは死体ばかり。
「……マジかよ……」
口端がひくついた。
マッスルボアは、無傷でそこに佇んでいたのだ。
フゴ、フゴと鼻を鳴らしながら前足で地面を蹴り始める。
突進してくる気だ。
(あれを喰らうのは……!)
だが、周りを見てハッとする。
マッスルボアはグレートボア級の大きさでありながら、そのあり得ない筋肉質のせいでグレートボアよりも速いのだ。
今シュウヤが使える攻撃魔法は『ギガント・ハリケーン』と『オールクラッシュ・ハリケーン』のみ。
『突進』はスキルとして覚えられても、魔物相手に使えるものではない。
あの巨体が突進してくれば『浮遊』と『飛行』を使っても、あの仮面の冒険者ほど速く逃げられないだろう。
つまり、『突進』されたらまずい。
「い、いやだ……俺は主人公……」
逃げたい。逃げなければ。
だが、一歩……たった一歩でも動けば突進される。
そうなれば、一秒でこの場所まで来るだろう。
その瞬間ここから離れていなければいけない。
いけるか、と己に聞くが、物語序盤で力の使い方も雑な『シュウヤ』では無理だ。
体は人間離れしたステータス数値を持つが、だから痛くないというわけではないし、あんな鋭い牙が刺されば絶対に怪我をする。
痛いのは嫌だ。
特にあれは『刺す』事に特化した牙。
刺されて死んだシュウヤにとっては丁重にお断りしたい。
体力値を考えても死ぬ事はないだろう。
だが、絶対に、死ぬほど、めちゃくちゃ……痛い。
(冗談じゃねぇ! なんでだよ! これはチートでハーレムな話だろ! チートの主人公が……主人公でいるはずの俺が! 序盤とはいえ大怪我して痛みで転げ回るとか……そんな展開なかった! なんでこんな中盤に出てくる魔物が出てくるんだよ! こんな展開知らねえよ!)
必死に考えを巡らせる。
どうしたら逃げられるのか。
どうしたらこの状況から脱する事が出来るのか。
考えても考えても、上手い方法は浮かばない。
そしてついに、マッスルボアのチャージが終わった。
一瞬だ。
一瞬で間合いは消える。
「っ」
「ブゴオォ!」
……だが、マッスルボアはシュウヤの直前、透明な壁に激突して派手にぶっ飛んだ。
突進を使う魔物にとって、それはひどい屈辱だろう。
だが、その壁の強度はマッスルボアの突進でも砕けないものだったのだ。
吹き飛ばされた瞬間、強固な筋肉の隙間を縫うように双剣が両脚を引き裂く。
「見殺しにするのもアリだと思ったんだけど」
「うおおぉっ!?」
「っていうか見殺しにしたかったんだけど」
「……って、てめぇ……」
真横に現れたのは仮面の転生者。
華麗にマッスルボアを瞬殺して、涼しい顔で着地した。
どうやったのか、見えなかった。
速い。今のシュウヤの動体視力で見えないわけがないはずなのに……それを上回っている。
やはり、この青年相当に強い。
さらにそこからマジックポーションを飲み始める。
とても不味そうに。
「まあ、一応自分の村は守ったようだから、助けてあげるよ。今回だけは」
「…………」
盛大に顔が歪んだと思う。
それを見た仮面の転生者も鋭く睨み返してきた。
それからしばらく睨み合う。
「ふん」
嫌味たらしい男だ。
『ワイルド・ピンキー』の事を知ってるのなら分かるだろう。
(俺は主人公なんだぞ。変な仮面つけた変人め……助けてやるとはずいぶん上からじゃねぇか! チッ!)
実際助けられたのだが、前世からシュウヤは常に人にチヤホヤとされてきた。
容姿が優れ、器用だったので人より出来る事が多かったせいだ。
自分にとても自信がある。
痛くて転げ回りそうだったが、あの程度の魔物に死ぬ事はないと思っていた。
……あの最初の突進をたとえ生き延びられてもそのあとは──……それを考える脳みそは、今のシュウヤにはない。
あの一撃を避けられたとしても二撃目、三撃目の突進で間違いなく死んでいた。
それをシュウヤは自覚しない。
「? なにしてんだ?」
「マッスルボアの筋肉繊維は防具の素材になるから『解体』してアイテムにするんだよ。……『解体』くらいは教えてあげる。生活魔法だしね」
「……」
そう言って、目の前ですらすらとマッスルボアを解体していく。
それを、シュウヤはコピーした。
(……素材ねぇ……)
シュウヤにとっても魔物は『素材』だ。
だが、今回シュウヤが倒したのは周りに散らばる小物の魔物ばかり。
あれを倒したのはあの仮面の転生者だ。
そういえばあの、黒い石に触れておかしくなった腕も治してもらった。
気に食わないが、悪人ではないのだろう。
そう位置づけつつ……やはり気に入らない。
「ふん」
「……フンっ」
解体と収納が終わると、目が合う。
しかしやはりプイとお互い顔を逸らした。
きっとこの男とは、一生仲良く出来ないだろう。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
【短編集】リアル・ラブドールの憂鬱
ジャン・幸田
SF
ラブドールに中の人はいない! はずだが、実は我がキジネコ・サービスが提供するサービスは本物の女の子が入っている。そんな、中の人にされた女の子の苦悩とは?
*小説家になろうのアダルトコンテンツに同名で連載している作品と同じです。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら
Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!?
政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。
十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。
さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。
(───よくも、やってくれたわね?)
親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、
パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。
そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、
(邪魔よっ!)
目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。
しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────……
★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~
『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
【完結】愛する人にはいつだって捨てられる運命だから
SKYTRICK
BL
凶悪自由人豪商攻め×苦労人猫化貧乏受け
※一言でも感想嬉しいです!
孤児のミカはヒルトマン男爵家のローレンツ子息に拾われ彼の使用人として十年を過ごしていた。ローレンツの愛を受け止め、秘密の恋人関係を結んだミカだが、十八歳の誕生日に彼に告げられる。
——「ルイーザと腹の子をお前は殺そうとしたのか?」
ローレンツの新しい恋人であるルイーザは妊娠していた上に、彼女を毒殺しようとした罪まで着せられてしまうミカ。愛した男に裏切られ、屋敷からも追い出されてしまうミカだが、行く当てはない。
ただの人間ではなく、弱ったら黒猫に変化する体質のミカは雪の吹き荒れる冬を駆けていく。狩猟区に迷い込んだ黒猫のミカに、突然矢が放たれる。
——あぁ、ここで死ぬんだ……。
——『黒猫、死ぬのか?』
安堵にも似た諦念に包まれながら意識を失いかけるミカを抱いたのは、凶悪と名高い豪商のライハルトだった。
☆3/10J庭で同人誌にしました。通販しています。
宇宙航海士育成学校日誌
ジャン・幸田
キャラ文芸
第四次世界大戦集結から40年、月周回軌道から出発し一年間の実習航海に出発した一隻の宇宙船があった。
その宇宙船は宇宙航海士を育成するもので、生徒たちは自主的に計画するものであった。
しかも、生徒の中に監視と採点を行うロボットが潜入していた。その事は知らされていたが生徒たちは気づく事は出来なかった。なぜなら生徒全員も宇宙服いやロボットの姿であったためだ。
誰が人間で誰がロボットなのか分からなくなったコミュニティーに起きる珍道中物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる