14 / 83
二章 冒険者『Cランクブロンズ』編
エンジーナの冒険者【中編】
しおりを挟むというわけで、近くにある防具屋へと連れて行ってもらう。
ロイドがオリバーの事情を説明して、仮面の製作を依頼してくれる。
だが、防具屋の店主は難色を示す。
「なるほど、事情は分かったが……それなら山向こうの『アルゲの町』にある『厄石』を使うといいかもしれねぇな」
「『厄石』が出たのか!?」
「……っ! 『厄石』……を、使う……厄呪魔具ですね」
「そうだ。危なくって誰も近づけねぇと連絡が来ていてな、これからギルドに依頼しようと思ってたんだ。ちょうどいいじゃねえか」
そう言って手紙を差し出す。
そこには『アルゲの町』の側に『厄石』が現れた、というもの。
これは放っておくと危険だ。
『厄石』とは、『聖霊石』と対なす魔石。
放置すると周囲に魔物を呼び寄せ……最後はドラゴン級、『Aランクレッド』の魔物の核となる……と言われている。
しかし使い方もある。
魔物討伐の際に魔物の動きを止めるための厄呪魔具だ。
オリバーのようなプラス要素が過ぎる称号持ちが、効果を抑え込むために使用したりもするが、魔物討伐用の方が一般的だろう。
専門家の厄呪魔具師以外には出回らない代物である。
「……確かにこれからますます強力になりそうだもんなぁ、お前の容姿」
「容姿が強力になる、ってなんか変な表現ですよね」
否定は出来ないのだが。
「よし、今回の件が終わったら『厄石』を処理しに行こう! おっさん、俺指定のクエストとしてギルド通しておいてくれ」
「え、あの、厄呪魔具が必要なのは俺なので──!」
「扱った経験は?」
「……ない、ですけど……」
「なら教えてやるよ。その頃には親父も帰ってるはずだしな」
「…………。じゃあ、あの、お願いします」
お願いしつつも、警戒心はまだ残る。
──この人は本当に信頼していい人なのか。
『トーズの町』のギルドで多くの冒険者たちの話を聞いてきた。
他の町のギルドに所属する冒険者と組むと、ろくでもない目に遭う、という話もよく聞く。
(でもロイドさんは、この町のギルドマスターの息子だって言ってたしな……他の冒険者よりは、うん……)
それに、『厄石』の扱い方は話で聞いた事しかない。
学べる機会を自分から棒に振るのは愚かだろう。
なにより、この先もっと遠くに行くのだ。
他の町の冒険者と上手くつき合えるようになっておかなければ、旅など出来ない。
「宿は?」
「取ってあります」
「そう、正解だな」
「? え?」
「自分の泊まってる宿をバラさない。正解だ」
「あ……、……はい、うちの町の冒険者たちに教わりました」
「あー、なるほどな。じゃ、明日またギルドに来てくれ。まだ無茶するなよ」
「あ、はい」
『まだなにもするな』と釘を刺されてしまった。
交差点で別れ、一人ポツンとなる。
(……そういえば仮面になってたんだっけ)
フードをかぶる。
銀髪の仮面少年はいささか恥ずかしい。
フードをかぶれば多少はマシになるだろう。
(あ、そうだ……ギルドで魔物の素材を買い取ってもらおうと思ったんだ。……まあ、明日も行くんだし明日でいいか。夕飯は宿で食べればいいし……)
途端にやる事がなくなる。
まだ昼。日も高い。
(……『アルゲの町』ってどこだろう? 『ウローズ山脈』を越えた麓の町は『ミレオスの町』だったはずだけど……宿に戻って地図を確認してみよう)
時間はまだある。
『ワイルド・ピンキー』で語られたエルフィーがウェルゲムと森に行って怪我を負わせてしまう事件は一年後。
最短ルートで『トーズの町』から『イラード地方』、『マグゲルの町』まで二~三週間程度のはずだ。
そう、ここで多少の遅れが出てもなんにも問題ない。
ゆっくり、実績を重ねてから行くつもりだった。
彼女に会った時、どんな風に話しかけよう? どんな風に交際を申し込み、どんな風に説得して『トーズの町』まで来てもらおう……。
今から考えるのは気が早いかもしれない。
しかし、頭の中は段々進路よりも彼女に出会った時の事に占められてゆく。
なにしろアニメで惚れ込み、コミカライズと原作にまで手を出すきっかけになったヒロインなのだ。
周りに人気がなくっても、作者や主人公に蔑ろにされていても、オリバーの中では前世からただ一人のオンリーワン。
(エルフィーに会ったら……なんで声をかけよう? まずは自己紹介をして……それから、えーと、どんな話をすればいいのかな? 彼女の情報は元々あんまりないし……いや、それなら色々聞いてみればいいのか。で、でも初対面であれこれ聞いたら不審がられるかな? さすがに夢で見て、なんて言ったら怪しいよな? あ、一目惚れしました、っとかどうだろう? あながち間違いではないし)
そわ、そわ。
宿に帰る道すがら、妄想を膨らませる。
彼女に会った時の事。
どんな話をするか。
無駄に磨いた料理のスキルで、なにか作ってあげたい。
『トーズの町』までお嫁に来てください、と言ったら、どんな反応をするだろう?
嫌がられないように、まずはしっかり両想いになりたい。
元々マグゲル家には生きるために身を寄せていたはずだから、ルークトーズ家にお嫁に来るのは問題ないはず。
厄介なのはマグゲル家が彼女を手放すかどうか。
その辺りは行ってみて、マグゲル家の人々の反応を見るしかない。
冒険者としての実績があれば、信用は勝ち取れるだろう。多分。
そしてそのためには、やはり冒険者としてクエストをこなし、実績を重ねる。これだ。
(彼女に会う頃にはBクラスぐらいに……! よーし、頑張るぞー!)
***
翌日、ギルドに行くとロイドがカウンターの前で手を振ってきた。
近づくと受付嬢たちは満面笑顔で集まってくる。
そして始まる謎のジャンケンタイム。
本日は昨日負けたうちの一人がオリバーを担当する事になったようだ。
「仮面つけてるのに……」
「もうこいつらは昨日の時点でお前の面を見てるから無駄だろう」
「んー……」
「本日はどのようなご用件ですか!」
無視!
もう諦めよう、と収納魔法を展開する。
「は?」
「え!」
「魔物の素材の買取をお願いします」
カウンターに載せるのは、牙や皮、爪など。
肉などは生物なので、ここには出せない。
それに、これからの旅で食糧として使いたいので売るつもりはなかった。
「しゅ、収納魔法!? お前収納魔法が使えるのか!?」
「(ラノベあるあるのセリフをまさか自分に浴びせられる日がくるとは……)実は祖父の家に収納魔法が覚えられる『聖霊石』があって……」
「っー! こ、これが『クロッシュ地方』の領主の孫の実力かぁぁ!」
「大袈裟な。ロイドさんだってアイテムボックス持ってたじゃないですか」
「収納魔法の方がすげーだろーがぁ!」
しかし『ワイルド・ピンキー』の主人公シュウヤは『聖霊石』なしで収納魔法を最初から覚えている。
その後もそうだ。
称号【完全コピー能力者】で、一度見てしまえばその魔法も、武器スキルもなんでも覚える。
それこそがシュウヤが転生時に与えられたチート能力……。
(俺もきっと、戦えば勝てない)
だから会いたくない。
シュウヤがエルフィーに出会う前に救い出したい、最大の理由だ。
鉢合わせして、もしも戦う事になれば敵わないだろう。
当然だ、相手は『ワイルド・ピンキー』の主人公。
どんなランクの冒険者も、その称号スキルの前には膝をつく。
本物のチートとはああいう事を言うのだ。
「買取額はいくらになりますか?」
「ひょぉあ! お、お待ちください! えーと……これ、もしかしてモーブの角ですか!?」
「はい。倒した魔物の中では一番マシだと思います」
「は、はぁ!? まさか一人で倒したとか言わないよな? モーブといえばCランクだぞ? しかも角って事は雄だよな? は? 雄のモーブはCランクオレンジだぞ? え? まさか一人で倒したとか言わないよな?」
どれだけ大事な質問なのか。
二回聞いてきたぞ。
「俺のランクなら倒せない敵ではないですから」
「……Cランク、ブロンズ……いや、でもマジか……ここに来るまでに、そんな大物を一人で……」
「でも魔法の方が得意なんですよ? 剣より槍や弓矢の方が好きですし」
「は? 魔法……? それに、え? お前複数武器のスキル持ちなのか!?」
「早く一人前になりたくて、ギルドに来る冒険者たちになりふり構わず教えを乞うていました。剣は今一番苦手なので練習中ですね。魔法は祖父のところでいろんな魔法の『聖霊石』を触らせてもらいました」
「…………」
にっこり。
仮面越しても分かる笑顔に、受付嬢たちが「はあああぁぁーん!」と甲高い声を上げて身悶える。
ロイドは肩を落として、表情を痙攣らせた。
もちろん、魔法は覚えれば終わりではない。
そこから練度を重ねなければ、魔物との実戦には使えないだろう。
なので覚えた魔法は最低限、必ず発動出来る程度には訓練した。
「……お前、下手したら俺より強くねぇ?」
「さすがにそれはどうでしょうね? 少なくとも実戦経験は、ロイドさんの方が上でしょうし」
「ま、まあ、そ、そうだよな?」
咳払いして、ごまかしてはいるが「実戦経験は上」と言われた事に喜んでいるようだ。
それにモーブ以外は小物の魔物ばかり。
「あ、マッドマウスの皮ですね」
「はい、この辺りでは確かロープやマントに加工して、山越えの際に使うんですよね?」
「はい! いくらあっても困らないので助かります。それに、これはロックバルーンの鱗ですね! ……え、ロックバルーン? ……え? た、倒したんですか?」
「? 俺、風魔法が得意なので……?」
「「…………」」
なぜかシーンとなるギルド内。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。
虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました
オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、
【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。
互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、
戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。
そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。
暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、
不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。
凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます
あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。
腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。
お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。
うんうんと頭を悩ませた結果、
この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。
聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。
だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。
早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
―――――――――――――――――――――――――
※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。
※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。
※基本21時更新(50話完結)
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
チートな環境適応型スキルを使って魔王国の辺境でスローライフを ~べっぴんな九尾族の嫁さんをもらった俺が人間やなんてバレへん、バレへん~
桜枕
ファンタジー
不慮の事故で死んでしまった冬弥は外れスキルだけを持って異世界転生を果たすことになった。
転生後、すぐに魔王国へと追放され、絶体絶命の状況下で第二の人生が幕を開ける。
置かれた環境によって種族や能力値が変化するスキルを使って、人間であることを偽り、九尾族やダークエルフ族と交流を深めていく。
魔王国の片田舎でスローライフを送り始めたのに、ハプニング続きでまともに眠れない日々に、
「社畜時代と変わらんやんけ!」
と、嘆きながらも自分らしく自由に生きていく。
※アルファポリスオンリー作品です。
※第4回次世代ファンタジーカップ用
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる