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三角関係勃発! 三角お山の上のトライアングラー‼︎

第9話!

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「ミスズはダンス踊れる?」
「い、一応練習はしてたけど……」

 一ヶ月ほど前、お見合いパーティの件を教わってから最低限のマナーや必要になるであろうダンスは叩き込まれてる。
 で、でもまさか本当に踊る気?
 い、いやぁ、あんな大規模なパーティで見知らぬ誰かと踊るよりは全然マシかもしれないけれど……でも練習相手の先生は女の人だったし、男の人と踊るなんて初めてだから……あわわわわ。

「じゃあ平気かな。はい、お手をどうぞ」
「うっ」

 腰を折り、胸に手をあてがったハクラが手を差し出す。
 知ってたけど、知ってたけどやっぱりイケメン! 顔はイケメン! 中身がこれでなければホンット儚い系美少年!!
 それが柔らかく微笑んで手を差し出してくるなんてあばばばば!
 この状況……無理! 誰か助けてー!
 そういう意味を込めてエルフィやマーファリーを見やると、二人は何を思ったのか拳を握って強く頷く。
 え? なに? あの笑顔の頷きはなに!?

「お姉様! ミスズ様がお一人で踊るのは恥ずかしいそうですわ! カノト様と踊ってはいかがでしょう!?」
「えええ!?」
「そうです、ユスフィーナ様! カノト様! せっかくですから! ハーディバル先生もよろしければお嬢様と!」
「え……。……ああ、なるほど……そういう事なら分かりました。エルファリーフ嬢、私と一曲宜しいでしょうか」
「はい! ありがとうございます!」

 …………………………。
 うおおおおぅん! ち、違うんだけど! 違うんだけどでも確かにチャンスではあるぅぅぅぅ~~!
 何か察しちゃったハーディバルのナイスアシスト!
 カノトさんもそう言われちゃったら「分かりました、ユスフィーナ様を一人で壁の花にさせるわけには参りませんよね」って気ィ遣っちゃうもんねーーー!

「お? 俺たちのお陰でユスフィーナさんチャンス到来っぽくない?」
「そ、そうねっ」

 今更ハクラもそれに気づいた。
 ああ……私も逃げ場がなくなったわ……。
 ええい! ままよ!
 諦めてハクラの手を取る。
 なんつーか、完璧な高貴系美男美女カップルのエルフィとハーディバル。
 初々しい空気と緊張感に満ち満ちているカノトさんとユスフィーナさんもホールの真ん中へと進む。
 使用人の皆さんが楽器を握り直す。
 というか、使用人の人たちって楽器出来たのね!
 すぐにステキで優雅な曲が始まった。

「ふ、踏んだらごめんね」
「うん」

 正直そんなに上手くないのよ、私。
 ダンスに自信がないのを伝えて事前に謝っておいたものの……ハクラが思いの外エスコート上手い!
 ダンスの先生は『本番は男性にリードして貰えばいい』とか言ってたけど……なるほど、本当に身を任せてもいいんだ……。
 と、とはいえやっぱり初めて男性と踊るから緊張する~っ!
 見上げて見れば金色の瞳とかち合う。
 優しく細まる金の瞳。

「結構上手いよ、大丈夫」
「あ、あぁありがと……」

 いつもへらへらしてるハクラの、笑顔がなぜか大人びて見える。
 なにこれなにこれ、ダンスマジック?
 ひええ、なんて恐ろしいの!
 こいつは私より六つも下のお子様よ!
 しっかりするのよ私! 惑わされてはだめよー!

「あんまり考えないで楽しんで」
「うっ、うん」
「せっかくミスズの為に開いたパーティなんだからさ」
「!」

 あ……そ、そうか……そう言えばそうだったわ。
 エルフィとユスフィーナさんが、私のために開いてくれたパーティなんだ。
 そうよね、楽しい思い出づくり、なんだし、楽しまなきゃだめよね。
 うん、意識しないように……意識しないように!

「生まれて初めてのパーティは悲惨な結果だったみたいだけど」
「え? あ、ああ、そうね……」

 始まる前から靴擦れで歩けなくなったり、ハーディバルの毒舌無双だったり、レベル4襲撃だったり、本当に散々だったわ……。

「ハーディバルが気にしてたよ」
「え?」
「生まれて初めてのパーティだったのに、あんまり楽しめてなかったみたいだったって」
「……あいつが?」

 え、意外。
 いや、まぁ、確かに要因の一端は奴だけど……。

「だからエルフィに急遽パーティを準備してもらったんだって」
「……え……ハーディバルが?」
「うん。ミスズに楽しんでもらいたかったんだと思う。内緒にしてって言ってたけどね…………そういう不器用なところも俺は好き」
「…………」

 ああ、なんて輝かしい笑顔。
 こいつ本当は恋愛感情的にハーディバルの事好きなんじゃないの?
 ごちそうさまです!
 …………でも、ふーん……気にして、たのか。
 本当は敬語も苦手で、女の子に優しくするのも苦手で、でも、うん、あいつ、気遣いは上手かったもんなぁ。
 不器用。
 確かに不器用な奴なんだろう。
 ハクラ並みのコミュ力があればきっと生きやすいだろうに……。

「そうね……そう思うと可愛いやつかも」
「でしょー?」

 そうね、毒舌でドSなのはもう間違いないけど、優しいやつなのよね。
 エルフィや私にも『攻撃一回無効化魔法』の入った魔石のペンダントくれたし。
 見て見ぬ振りをしない奴。
 騎士だからなのかもしれないけど、でも、エルフィにあのダサいネックレスをプレゼントしたのは騎士の仕事でじゃないもの。
 困ってる人や危険が迫っている人にもちゃんと手を差し伸べる奴。
 なんだかんだ私の事も、エルフィに丸投げするまでは相手してくれたしね。
 私が生まれて初めてのパーティを、ハーディバルの毒舌無双で全然楽しむどころじゃなかったのは本当だけど……中止に追いやられたのはレベル4のせい。
 私に楽しいパーティを体験させるためにハーディバルがエルフィに提案したのか……。
 急遽って言ってたもの、すごい強行だったんだろうな。
 だって昨日の今日よ?
 ……無茶言うわねぇ……。
 そう思ったら笑えてきた。
 あいつ、ハーディバル……本当に不器用。

「みんな意外と気付かないんだよ。ハーディバルはいい奴なんだってところまでは気付く人もいるんだけど。本当は可愛いよね」
「……まあ、分かりづらいかもね」
「ミスズもハーディバル好き?」
「その質問は答えづらいわ」

 嫌いではないけど、好きかと明確に宣言はできないわ。
 なにしろあの毒舌ドSなんだもの。
 まあ、ハクラの惚気に大体同意出来るくらいには可愛い奴なんだなーって思えるようになったけど。

「心配しなくてもあんたよりハーディバルが好きなやつはまだいないんじゃない? 応援するから頑張って」
「ほんと? わーい」

 美少年×美少年!
 おいしい! ごちそう様です!
 ……さぁて、なんかハクラの話聞いてたらすっかり緊張も解けてきたし……ユフィとエルフィの様子はどうかしら?
 うんうん、エルフィとハーディバルはいかにも社交辞令感半端ないけど、ユフィとカノトさんはなんか……なんか、ユフィが私よりカッチコチで顔真っ赤で可愛い事になってるわね。
 カノトさんが心配そうに顔を覗き込んでしまうからより真っ赤っかだわ!
 可愛い! 可愛いわよユフィ!

「はう!」
「あぶな!」

 なーんてよそ見をしていたからか、足首ぐきってなった! い、痛い!
 や、やば、た、立ってられない……!

「なにしてるの」

 ……私が足を痛めたのはハクラに即バレた。
 椅子の方まで支えられながら歩いて、座らされる。
 お見合いパーティの時よりは低いけど、やっぱりヒールは慣れないわ。
 うう、痛い。

「待って。…………ほい、治ってるよ」
「へ!?」

 ハクラは立ったまま。
 私の方へ手をかざしたと思ったら二秒もしないうちに「治った」?
 ぐきっとやらかした右足首を恐る恐る見るが、確かに痛みは消えてる?
 まだ半信半疑の中、立ち上がるが本当に痛くない。

「お、おおお……」
「ねぇ、昨日も治癒魔法掛けてもらってない? 痕跡あるんだけど」
「……ハーディバルに……。靴擦れしちゃって……」
「えー、気を付けなよ……」
「ご、ごめん。ありがとう……」

 返す言葉もありません。

「あれ?」
「どうしたの?」
「あの子……ナージャだっけ? また深刻そうな顔してる」
「……本当だ」

 壁の隅っこに移動したナージャが俯いて深刻な顔をしている。
 最近何か悩んでるっぽい。
 やっぱり魔法使用禁止が相当応えているのかしら?
 まあ、罰なんだから仕方ない。
 でも、さすがにあそこまで深刻な顔されるとちょっと気になるわね……。

「私、ちょっと声かけてくるわ」
「え? あ、じゃあ俺も……」
「ハクラ、少しいいです?」

 と、そこへダンスを終わらせてきたハーディバルとエルフィが。
 ハーディバルはハクラに用があるみたいだし、エルフィは笑顔で「ではわたくしは少し席を外しますわ」と遠回しにお手洗いへ行くと告げてきた。
 まあ、ユフィの逃げ場を奪う意味もあるのだろう。
 ダンスが終わっても二人きりにさせる作戦である。

「ナージャ、どうしたの?」
「!」

 というわけで、私は少し離れた場所で俯いていたナージャのところへ歩み寄る。
 声をかけるまで私に気付かなかったナージャはそれはもう驚いて顔を上げた。

「え、ど、どうしっ……」
「すっごい死にそうな顔してるわよ?」
「…………。……そ、そんな事、ないです」

 いやいや、そんな事あるから声かけたんだってば。

「最近何か悩んでるみたいだけど」
「……お前には関係ないですぅ~」
「あのねー……」

 べしっとナージャの両頬を叩くように挟む。
 上向かせて、真っ正面からナージャと目を合わせた。
 このこ生意気小娘め。

「今はハクラの聖結界で守られてるけど、思い詰めて魔獣になる事もあるってマーファリーが言ってたわよ。悩みは周りの人に必ず相談する事って! 視野が狭くなって相談もできなくなったら魔獣になりやすくなるんでしょ? この世界は!」
「!」
「私だってあんたの事なんか嫌いだけど、魔獣になったら大変じゃない。いいからお姉さんに話してみなさい。あんたより長生きしてるんだから、何かアドバイスくらい出来るかもしれないでしょ」

 二十四歳も子どもに毛が生えたようなモンだけど、本物の子どもよりは大人なのよ。
 思春期なんか悩み多きお年頃だから、色々あるんだろうけど……私だってそんな時期を乗り越えてこの歳になったんだから。
 そう、多少は歳上ぶれるのよ!

「……、……。……お嬢様に、付いて行くって……明日……」
「え?」
「フェレデニクへ……」

 ああ、明日ご遺体を返しにフェレデニク地方にユフィたちと行くって言っちゃったアレ?

「うん。なに? 一緒についてきたいの?」
「…………」

 真面目な顔で頷くナージャ。
 なんだろう、この神妙な顔と空気。
 いつものナージャじゃないみたい。

「まぁ、いいけど……あんたの悩みってそれじゃないんでしょ?」
「………………。いいの、自分ではどうする事も出来ない事だから……。……ただ見届けたいだけなの……」
「?」

 いつもの舌ったらずな口調じゃない。
 何かを諦めてしまったかのようなナージャの表情。
 どういう事なのかしら?


「………………」


 そんなナージャの様子をハクラの横で眺めていたハーディバル。
 私は気付かなかったけど、ゆっくり目を閉じて口を噤む。
 多分、この時に私の運命は決まったのだろう。
 優しいハーディバルは、なにも言わなかった。


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