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目指せマイナス五キロ。人生初のパーティで恋愛イベントを成功させよ!

第3話!

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「い、いや、そんな事……そ、そうよそんな事ないわよ! メイド長美人なんだもん、まだ貰い手あるわよ! ねぇ二人とも!?」
「エッ!? ……あ、ああうん、そ、そうですよぅ」
「そ、そうです! しっかりしてるし家事は完璧……諦めるには早いですよ」
「安い慰めは結構! 自分でも性格がキツイと分かっているんです! これまでお付き合いされた方にも散々「君は一人で生きて行ける」と言われ続けたのですから! 私は一人で生きていきます!」

 ええええええええーーーー!

「ですがあなたたちはまだ若い……私のように手遅れになる前に、幸せになるのです!」
「そ、そんなメイド長……」
「そんな……酷いわ!」
「えっ、ミ、ミスズお嬢様!?」
「一人で生きていける女なんて、いや、人間なんていないわよ! それを、なんて軽々しく! 常套句だとしても酷すぎるわ! そんな男と別れて正解よレナメイド長!」
「ミスズお嬢様……?」

 ガシッとレナメイド長の手を取る。
 レナメイド長だって一人の女なのに、そんな事も分からない男としか知り合えなかったなんて運がないのよ!
 多少きつめではあるけどレナメイド長だって美人の部類!
 それに厳しいけど、ちゃんと優しいわ!

「男は女子より大人になるのが遅いから、きっとレナメイド長の事を本当に理解する前にそう決め付けたのよ。そんな奴らの言う事は気にしちゃダメ! そうよ、そんな奴らのために、レナメイド長が幸せを諦めて良い理由にはならないわ! 女は何歳になろうが幸せになる権利がある!」
「そ、そうですわ、レナメイド長! ミスズお嬢様の言う通りです! 諦めるのが早すぎます! メイド長、まだ三十一歳じゃないですか!」

 若い!
 私の世界の結婚適齢期は今もっと遅いくらいよ!

「エルフィだって同じ事を言うはずよ。諦めず、みんなで幸せになりましょう」
「ミスズお嬢様……」
「そうですよ!」

 キラキラキラキラ……。
 我々の周りに少女漫画のようなキラキラが散りばめられる。
 この瞬間、エルフィやマーファリー、ユスフィーナさんとはまた別にレナメイド長もヒロイン枠に確定した。
 乙女ゲームヒロインというよりは恋愛漫画やや大人向けのヒロインね。
 これはこれでありだわ!

「まあ、それはそれとしてこのカミル様ってどんな方なんですかぁ? マーファリーさんは知り合いなんですよねぇ?」
「え、あ、ええ。カミルは私と同じグリーブトの村で奴隷だったの。私やカミルはこの国に亡命してきたのが二番目で、とても早く来られた方だから馴染むのも早かった。その中でもカミルはハクラやリゴさんと同じようにすぐに自分のやりたい事を見つけて努力し始めたのよ。そのおかげで今は魔道具研究所にいるの」
「え!? 魔道具研究所って、あのエリートしか働けないっていう!?」
「ええ、リゴさんとカミルは勉学に関心が高くて誰よりも『図書館』に通い詰めて、寝る間も惜しんで勉強していたわ。この国の人でもあんなに勉強しないだろうって、ミュエ先生にも褒められていたの。それで、ミュエ先生とハーディバル先生の勧めで今は二人とも『国光の城壁』の中で働いているのよ」
「マジですかぁ! ちょ、ちょーっ凄い人じゃないですかぁ!?」
「『国光の城壁』って、確か…………」

 えーと、アルバニス王城『カディンギル』の周囲はどでかい湖で囲まれている。
 中心に山があり、その山にお城があるのだが……お城の周りの湖は元々『六つの城壁』により守られていた。
 現在その城壁は空中に浮かぶ島となっており、私の知る意味合いとは違う意味で城を守っている。
 ええ、ぶったまげたわよ、城壁に囲まれた島が六つもお城の周りの空に浮いてるんだもん。
 どうやって浮いてるのか聞けば、これも特殊な魔石で浮いてるらしい。
 いや、まあ、つまりその六つの城壁は国の重要な施設であり城の一部でもある。
 で、その中に『国光の城壁』というものがあった。
 確か、お役所の集まりであり、国の大事な研究所が入っていて一般人は入れない『城壁』の一つ。
 エリートしか働けない、私の国で言うところの霞ヶ関みたいな場所だと思われる。
 ……アバロンの亡命者でそんな凄い場所で働いてる人がいるなんて……。

「そんな人もパーティに参加するのね?」
「そうですね。『国光の城壁』内で働く人は機密も多いから、一般人の参加するお見合いパーティなんて参加しないと思いました」
「今回の開催者を忘れていませんが、ミスズお嬢様、マーファリー」
「「あ」」

 メイド長に言われて思い出した。
 王子様主催のお見合いパーティなんだっけ。

「カミル様は現在フレデリック殿下のお口添えもあり個人の研究施設を魔道具研究所の横に併設して、研究を続けておられるそうです。今後大物になる可能性が高いと見ました。ユスフィアーデ家に入られればお金の心配もなく研究を続けて頂けますし、カミル様が作った魔道具がヒットすればユスフィアーデ家も安泰……フフフ……」
「メイド長……」

 素晴らしい打算だわ、レナメイド長……。
 あのナージャが引くほどに。

「カミルですか……」
「……目が遠いわね、マーファリー」
「……こちらに来てから人がすっかり変わってしまいましたから……」
「そうなの? どんな人なの?」
「……正直、学校を卒業してからたまに話で聞くだけなので今どんな人間に変わったのか分からないのです。ただただ怖いですね」

 マーファリーは真顔だった。

「……ま、まともな人になってるといいわね……」
「はい」

 マーファリーは真顔だった……。
 この人は、ど、どうなのかしら?
 一応攻略キャラ候補って事にでもしておくか。
 当日会ってみてから決めよう、うん。
 さて、予測不能要素が多すぎて心配が尽きないけど……とりあえず……。

「よし、じゃあとりあえず狙い目の人を決めて更に細かい情報を集める事にしましょう。まずはランスロット・エーデファー団長さん、スヴェン・ヴォルガン隊長さん、個人的にハーディバルはやめといたほうがいいと思う」
「ナージャも反対です~」
「ハーディバル先生とエルファリーフお嬢様はお似合いだと思いますけど」
「ええ」

 ここは意見が分かれた。
 BとL疑惑とあのドSな性格を思えばやめといた方が無難だと思うけど……。

「まぁ、二人がそう言うなら」

 攻略対象(仮)って事にしておきましょう。

「それからハイネル・グロウリーさんと、カミル・クレシャルさんね」
「このお二人は一般の騎士さんと研究員さんですからねぇ、情報を集めるのは難しそうです~」
「そうですね。でも、カミルなら他の亡命者仲間に少し探りを入れてみます」
「では私もメイドネットワークを駆使して他のお三方について調べます」
「「「メイドネットワーク……!?」」」

 そんなのあるんだ!?
 私以外にもマーファリーとナージャが驚愕の表情を浮かべた。

「あ! そうだわ、それならもう一人!」

 思い出して、私は再びペンを持つ。
 首を傾げる三人。
 ノートの真っ白なページに私はカノト・カヴァーディルの名前を書き出した。

「カノト様!」
「ええ、調べておいた方がいいでしょ?」
「ええ、そうですね!」

 マーファリーもメイド長も笑顔で賛同してくれた。
 ナージャだけは、少し唇を尖らせる。
 なによぅ。

「どうやって調べるんですかぁ? ほぼ行方不明な人じゃないですかぁ。ナージャたちで調べるのは難しいですよぉ」
「うっ、それはそうなのよね」

 家を出て久しいというカノト氏。
 今どこで何をしているのか、誰も知らないのだ。
 そもそも容姿も分からない。
 どうしたものか……と考えていると、扉を別なメイドさんがノックする。
 部屋へ招くと、フリッツが魔獣討伐を終わらせて帰ってきたという。
 フリッツ……そうよ! フリッツだわ!




「カノトですか?」

 紺色の髪と瞳のナージャくらいの美少年。
 フリッツ・ニーバスという謎の多いこの子は数日前、この町で起こったとある事件で知り合った。
 とんでもなく強く、レベル3の魔獣をたった一人で倒してしまうほど。
 後から聞いた話だとレベル2までは稀に現れるがレベル3の魔獣はここ数十年現れてなかったんだって。
 そしてその数十年前のレベル3の魔獣を倒すのに、当時の騎士団百人近くが挑み、一週間近く戦い続け半分近くが犠牲になりかけたと言う。
 それを一人で倒したと言うんだから、フリッツがおかしいのかこの間の魔獣が実はレベル2かのどっちかだ。多分前者。
 大体その後も領主庁舎を数時間で改革してあっさりユスフィーナさんの支配下に置いてくるし。
 何者なのかを聞いても、家出中だからと教えてくれない。
 そのあたりはもう諦めているんだけどー。

「そう、フリッツはどうにか居場所を探す事とか出来ない?」
「もしやユスフィーナ嬢の事ですか? 居場所を探すにしても、一応彼女の了承は取るべきでは?」
「そんな事言って、ユスフィーナさんが自分から何かするわけないでしょ!」
「……まぁ、確かに。ですが余計なお世話なのでは? 僕もかなり余計なお世話を焼くタイプなので人の事どうこう言えないんですけど」
「なら今更いいじゃない。協力してよ」
「それもそうですね、いいですよ」
「軽!?」

 驚いた声を上げるナージャ。
 確かにあまりの軽さに私も一瞬たじろいだ。
 相変わらずよく分からない。

「僕も彼の居場所は把握しておきたい。ランスロットが是非騎馬騎士隊に欲しいと言ってましたしね」
「!? ……『三剣聖』だから?」
「それもありますが、単純に騎士団が人手不足らしいので……」
「……フリッツ、ランスロット団長とも知り合いなの?」
「知らない仲ではありませんね」

 ガシッ。

「? え?」
「まさか、スヴェン・ヴォルガンさん」
「……まぁ……それなりには?」
「ハイネル・グロウリーさん」
「……ま、まぁ……多少は……」
「カミル・クレシャルさん」
「カミル? ま、まぁ……全然知らない人では――」

 そこまで確認したら、私の背後にレナメイド長他、この屋敷のメイド、使用人一同の目の色が変わる。
 やたらおかしなその空気に今更なにかヤバイスイッチを入れてしまったと気付いたフリッツ。
 残念ながらもう遅い。

「すいません、ちょっと用事を――」
「そう。どんな用事?」

 にっこり。
 微笑んだ私に思いきり目を逸らすフリッツ。
 ズルズル引きずって食堂へ軟禁。
 そこでフリッツの知る情報を洗いざらい喋ってもらった。
 もちろん、攻略に必要な情報よ。
 それによるとランスロット団長は仕事の話ばかりしてしまうため女性と良い仲に発展する事が出来ない。
 力の加減が下手。ストレートに失礼な事を言う……つまり脳筋プラス仕事脳でデリカシーがないのだ。
 なるほど。
 スヴェン隊長は甘いマスクで紳士的、低くて魅力的な声。
 女性がきゃあきゃあ言う為当然女性の扱いはお手の物。
 しかし彼は極度のドラゴン愛を持つ男。
 休日どころか日がな相棒のドラゴン、パル(♂)にべったりで、普通のお世話では飽き足らずドラゴンの寝床(樹の上)で一緒に寝る。
 これにドン引きしない女性は、まあ、いない。
 ついでに彼はレナメイド長たちのタレコミ通り男性の恋人がいるらしいのだ。
 ドラゴン愛の激しい彼を受け入れてくれたそのお相手を本気で愛している……もちろんドラゴン愛とは別の意味だ、恋愛的な意味だ……ので、割り込むのは困難ではないだろうかとの事。
 なので彼のドラゴン愛と、その付き合ったり別れたりを繰り返すお相手への愛の事も込み込みでオーケーな女性が……居ればいいなぁ……と、かなり遠い目で仰っていた。
 なるほど、かなり厳しそう。
 ハイネル・グロウリー。
 彼は名士の次男で、兄が優秀かつ、早々に結婚して子どもをもうけた為家で居場所がない。
 つまりかなり孤独を抱えていた。
 しかしある日その孤独故に魔獣化してしまったのだという。
 そしてその時助けてくれたハーディバルに憧れて騎士を目指し始めたんだって。
 一つの得意属性しかなかった彼は血のにじむ鍛錬でもう一つ属性を扱えるようになり、騎士学校に入学。
 衛騎士隊で二年働いた実力上位者は騎馬騎士隊、魔法騎士隊、天空騎士隊、海竜騎士隊への転属希望が出せる。
 それを利用し、ようやくハーディバルのいる魔法騎士隊に転属した本当に努力の人だった。
 今回初めてお見合いパーティに参加するらしいのだが……。


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