35 / 51
町を守るために 4
しおりを挟む「な、なるほど。なら、その誤解はすぐに解けそうで——」
シシリィがエルンを見る。
が、その横にはラッキーエアリス族の長、クイーンラッキーエアリス。
沈黙が流れる。
「う、うーん」
「ま、まあ、だとしても他人の召喚獣を金儲けのために渡せ、なんつー要求には応えなくていいだろうな!」
「で、ですよねぇー!」
「ですよね!?」
クイーンであるリエマユの角は蘇生効果と言われている。
求める者は後を絶たないだろう。
シシリィの神妙な面持ち。
言いたいことはわかる。
エルンの【限界突破】は世界初でエルンそのものが、金級スキル持ちというレアな存在。
それに加えてクイーンラッキーエアリスを——しかも喋る——テイムして召喚獣にした。
クイーンラッキーエアリスからもたらされる情報の数々は、新事実ばかり。
控えめに言ってここにいていい存在ではない。
それでもここにエルンがいるのは、ギルマスの指示と護衛としてシシリィ、ベリアーヌがいるから。
そしてクイーンラッキーエアリスに強い自我があり、その強さはドラゴン級。
しかし、魔獣大量発生が終わったら、エルンとリエマユの扱いは変わるだろう。
特にリエマユに関しては、魔獣の情報を根掘り葉掘り聞かれることになる。
魔獣たちに意思があり、上位の魔獣には自我と知性もあり、固有スキルまで与えられているという事実は、それだけでこれまでの固定概念を変えてしまう。
「エルン、お前なにやらかしたんだよ?」
「お、俺はなにもやらかしてないよ」
すべては女神の思し召し。
そして、固有スキルが発覚したあとも「使い道のないゴミスキル」「誰が使うんだそんなスキル」と認定して、活用方法を見出せなかったトリニィの町の冒険者ギルドの残念さ。
田舎と孤児ゆえに、自分で調べることも思いつかなかったエルンの無知っぷり。
不運な事柄が重なったがゆえ、である。
多分。
「こほん! ま、ラッキーエアリスの話や騎士団の話は、とりあえず置いておくな。頼れねーもんにグダグダ言ってても仕方ないからな!」
「そうですね。残念ではありますが、目先の危機を乗り越えることが最優先です。近隣の村人が集まり始めたら、万一に備えて彼らにも最低限身を守る術を——」
「た、大変だ! 魔獣の群れが迷宮から出て来たぞ!」
「「「!?」」」
扉を叩き壊さんばかりの勢いで飛び込んできたのは、外壁のさらに外側に柵を作っていた冒険者。
迷宮の入り口を監視していた冒険者が大慌てで戻って来たと、表を指差して叫ぶ。
「思いの外早く動きやがったな……!」
「これは困りましたね。まだ近隣の村人の避難も、隣町からの食糧も、王都からの応援も間に合ってないのですが」
「しゃーねーな。まずは出鼻を挫くしかないな! 第一陣を迎え撃つ! 前衛組はついて来な! シシリィ、第二陣と後衛組の指揮を頼むぜな!」
「はい、了解しました。エルンさんは町長さんに報告して、町の人たちの後方支援をお願いします。戦うことのできない人は、この建物内に避難させてください」
「わ、わかりました!」
ベリアーヌとシシリィの顔つきが一瞬で変わった。
二人は知っている。
魔獣大量発生がどういうものなのかを。
迷宮に潜るのとはわけが違う。
無数の魔獣が広大な“外”に統率の取れた状態で押し寄せる。
昼も夜もなく、倒しても倒しても終わりが見えない。
戦える者も戦えない者も関係ない。
獲物を喰うことしか考えていない獣の大群を、いつ終わるともわからないまま、倒して倒して倒し続けねばならないのだ。
終わりが見えないという精神的疲労。
戦い続けなければ自分自身すら守れない、肉体的疲労。
魔獣大量発生で戦うということは、そういうこと。
「第一陣は柵にすら辿り着かせません。大丈夫です」
トリニィの町に集まっていた冒険者たちも空気が一変。
立ち上がり、ベリアーヌの後ろへついていく。
その空気に及び腰になっているのは、まさかのトリニィの町の冒険者たち。
これから魔獣が大量に押し寄せる場所へ行くことを、躊躇っている。
誰だって命が惜しいのは当たり前だ。
トリニィの町は田舎だし、この町のギルドは銅級。
冒険者も銅級が平均という、平和といえば平和なところ。
一番級が高い冒険者だったデンゴたちが王都にいる今、トリニィの町に残っている冒険者たちは彼ら以下の比較的その日暮らしができればいいという、あまり出世欲がない者たち。
それでも自分たちの町が危険に晒されている。
エルンですら「自分にできることを」と思っているのに、町の冒険者がこれはちょっと情けない。
「ごしゅじん」
「リエマユ?」
「“でばな”をくじくのはさんせいだわ。アタシもあのケモミミチチオンナといっしょに、ゲイゲキしてくる」
「チッ……!」
みんなが思ってても、あえて言わなかったことを。
「まあ、リエマユさんもご一緒してくださるんですか? 心強いですが、リエマユさんにとっては同僚では? よろしいのですか?」
「ヘーキよぉ。もともとランダムであの“めいきゅう”にきてたんやもの。ベヒーモスも一回やられたヤツが“サイタン”したヤツだし? それがエラッソーにアタシにメーレーしてきたのも、ちょっとムカついてたの。ごしゅじんにテイムされたときから、どうほうとたたかうのはかくごのうえだし、よわいヤツにはヤキいれてやるわ」
「そ、そうですか」
やきいれる、は、よくわからないが、なぜかとても怖いと思った。
1
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。
最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。
自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。
そして、その価値観がずれているということも。
これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。
※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。
基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。
さようなら、私の初恋。あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
【本編完結済】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!
O.T.I
ファンタジー
★本編完結しました!
★150万字超の大長編!
何らかの理由により死んでしまったらしい【俺】は、不思議な世界で出会った女神に請われ、生前やり込んでいたゲームに酷似した世界へと転生することになった。
転生先はゲームで使っていたキャラに似た人物との事だったが、しかしそれは【俺】が思い浮かべていた人物ではなく……
結果として転生・転性してしまった彼…改め彼女は、人気旅芸人一座の歌姫、兼冒険者として新たな人生を歩み始めた。
しかし、その暮らしは平穏ばかりではなく……
彼女は自身が転生する原因となった事件をきっかけに、やがて世界中を巻き込む大きな事件に関わることになる。
これは彼女が多くの仲間たちと出会い、共に力を合わせて事件を解決し……やがて英雄に至るまでの物語。
王道展開の異世界TS転生ファンタジー長編!ここに開幕!!
※TS(性転換)転生ものです。精神的なBL要素を含みますので、苦手な方はご注意ください。
後妻を迎えた家の侯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
私はイリス=レイバン、侯爵令嬢で現在22歳よ。お父様と亡くなったお母様との間にはお兄様と私、二人の子供がいる。そんな生活の中、一か月前にお父様の再婚話を聞かされた。
もう私もいい年だし、婚約者も決まっている身。それぐらいならと思って、お兄様と二人で了承したのだけれど……。
やってきたのは、ケイト=エルマン子爵令嬢。御年16歳! 昔からプレイボーイと言われたお父様でも、流石にこれは…。
『家出した伯爵令嬢』で序盤と終盤に登場する令嬢を描いた外伝的作品です。本編には出ない人物で一部設定を使い回した話ですが、独立したお話です。
完結済み!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
大国王女の謀略で婚約破棄され 追放になった小国王子は、 ほのぼのとした日常を望む最強魔法使いでした。
克全
ファンタジー
エステ王国と言う大国の王女・エミネは、世界で1番の美しいことを誇りにしており、毎日魔法の鏡に自分が世界で1番の美しいことを確認していた。ところが、遂に自分以外の人間が美しいと言われる日が来てしまった。しかもそれが女性ではなく男性であったことで、強くプライドを傷つけられ、1番の座を取り戻すべく暗殺を企てたのだ。だが相手、小国とは言え強力な魔術師を揃える国の王子であった為、直ぐに殺すことが出来ず、その美しさで大臣や将軍達を味方につけて、小国の王子を追放するところから始めるのだった。家族で相談した第3王子のルイトポルトは、国民を戦争に巻き込まないために、冤罪と知りながらも追放刑を受けるのだった。だが堅苦しい王宮を離れることは、ルイトポルトの長年の夢であったため、ほのぼのとした日常を求めて自由な旅に出るのだった。だがエミネ王女の謀略で無理矢理婚約を破棄させられた、ベルト王国の公女は、エミネ王女に復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる