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クイーンラッキーエアリス 2
しおりを挟む『魔獣使い見習い』専用スキル、[見習い卒業の試練]。
効果、『魔獣使い』専用スキル[魔声]により反応した強い魔獣を一体だけ従える。
——基本的に『魔獣使い』は魔獣と意思疎通が可能な職業。
しかし、強い魔獣は時折高い知性と自我を有している。
それを超えて強い魔獣を従えられるスキルであり、『魔獣使い見習い』の専用スキルの中で唯一レベルが設定されていない、いわゆるたった一度だけ有効の特殊スキル。
ただ、『魔獣博士』のために図書室で職業についても色々調べたが、『魔獣使い見習い』の取得可能スキル一覧にこんなスキルはなかった。
[魔声]も本来なら『魔獣使い』で取得できる職業スキルである。
だからおそらく、これはエルンが『魔獣使い見習い』のレベル上限を上げたことにより発現した特殊スキル。
けれど、好都合だ。
(ここで使わずいつ使う!)
クイーンラッキーエアリスの周りに光の輪が生まれる。
目を閉じたクイーンは、その光の輪を受け入れた。
「クイーンラッキーエアリス、君は今日から——えーと……」
「リエマユはいかがですか? 現国王陛下の先先代は女王陛下だったのですが、リエマユ様というお名前でした」
「! リエマユだ! あ、ありがとうございます、シシリィさん」
『カカっ! 締まらん男だねぇ!』
ささっと現れたシシリィのおかげで、“名づけ”が無事に終わる。
光の輪っかがクイーンラッキーエアリス改め、リエマユの首に首輪となった。
チリン、と小さな鈴と、赤と白のボーダーのリボン。
茶色い毛並みによく似合っている。
「ほな、よろしゅうたのむわ」
「!? 俺たちにも言葉がわかる!?」
「このくびわのこうか、みたいやね」
「でもなんとなく口調? 訛り? が出てますね……」
この首輪こんな効果があるのか。
それとも上級の魔獣だから、だろうか?
タータも首輪はしているけれど、言葉は話せない。
言ってることは、無駄によくわかるけど。
しかし絶妙な訛りである。
翻訳機能的なものの影響だろうか?
[魔声]で会話した時よりも、癖が強めの訛りが出ている。
「羨ましいです。わたしもタータとお話してみたいですけど……」
「みゅんみゅんみゅーん」
「アタイが通訳してやろうか?」
「みゅんみゅんみゅんみゅーーん」
「ハア? とんだ女好きやね。死ね」
「ミュァッ!」
「「「「「…………」」」」」
人間一同、沈黙。
いったいタータはなにを言われたのだろうか?
よくわからないが、日頃シシリィに小動物よろしくその可愛さを最大限に活かして甘えまくっているのを知っているので、多分ろくなこと言ってないんだろうな、と思う。
「なんにしても、これで六層目制覇ってことだな?」
「そうだな。まさかクイーンラッキーエアリスをテイムして召喚獣にするとぁ……初めて聞いたぜ! エルン、お前やるじゃねーか! ワハハハハハ!」
「うぁっ! ……あ、い、いや、そんな……」
バシバシと背中をギルマスに殴られて、本気で照れた。
嬉しい。
あのギルマスに褒められた。
「いやいや、本当にこれすごいことだぉ! ラッキーエアリスでも珍しいのに、ドラゴンと同等級のクイーンラッキーエアリスをテイムするなんて! 前代未聞だぉ! 歴史に名前が刻まれるぉ!」
「え、ええ? いやいや、そんな……」
「残念だぉ……エルンくんがあと五年早く生まれてたらなぁ……今十六、十七歳くらい? ちょっと年下すぎるんだよなぁ……さすがに十代はちょっと……」
「…………」
見上げてくるアンジェリィの目が、怖い。
ガチトーンすぎる声と、本気すぎる目。
獲物を捉えたそれ。
思わず生唾を飲み込んでしまう。
「ともかく六層目は再調査が必要ですし、今日はもうトリニィの町に戻りましょう。エルンさんがいいご飯処をご存じだそうですし、リエマユの歓迎会も兼ねて今夜は宴会ですね!」
「えんかい? おいしいものを食えるってこと?」
「ああ、そうですね! 幼馴染とその両親がやってる宿なんですけど、オナガトカゲの鍋煮込みが絶品なので——」
ぴょん、ぴょん、と飛び跳ねるリエマユ。
さすがにタータより大きいので、肩には乗ってこない。
ようやく一息ついたため、みんなの緊張が緩んだ。
けれどトリニィの町、宿屋、幼馴染への紹介など考えていたら、ひとつ思い出す。
「それどころじゃない!」
「え?」
「どうした!?」
「リエマユが教えてくれたんです! この迷宮の上にいる魔獣たちが、仲間を集めて迷宮の外へ出ようとしてるって! 魔獣大量発生ですよ、それ!」
「なんだと!?」
この迷宮は、アンジェリィが張った結界が他の迷宮よりも弱い。
通常ボス部屋ごとに転移陣という結界を重ねがけしていくものだが、ボス部屋が二層目にはなかった。
ボス自体は存在していたが、部屋がないので危険地帯が続く。
今後の方針として、ボス部屋のない二層目に安全領域を設置して転移陣と魔獣を外へ出ないようにする結界を重ねがけする作業が必要となる。
それがまだ、行われていない状況。
そんな中で魔獣が大量に集まって外へ出ようとすれば、結界は容易に破られる。
——魔獣大量発生だ。
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