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冒険者のお仕事をしよう!【前編】

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「平原にいるのが、すでにおかしい」
「だろう?」

 [遠視]の魔法で確認したリズが呟くと、間髪入れずにストルスがそう言う。
 やはりプロの目から見ても奇妙なのだろう。
 ボアとは基本的に山に生息する魔物。
 だが、今ボアの群れが群がっているのは平原モーヴという牛型の魔物の死肉だ。
 奴らはモーヴの群れを襲い、数頭を殺して食っている。

「確かにボアは雑食だが、アレはないな。それにいくつか大きな個体がいる。レベルも抜きん出ている」
「やはりか……。ここいらの平均レベルは10から15なんだが、でかいやつだけ40を超えているんだ。あんなん危なくて行商人もおちおち通れねぇ」
「だな……」

 狩るのは簡単だ。
 だが、案じていた『数の増加』『強化』『巨大化』の三つが確認できてしまった。
 まだ特殊個体や突然変異個体は確認できていないが、ここまで揃うと時間の問題だろう。

「なあなあ、リズ! どうやって狩るんだ!?」
「はしゃぐなバカ者。ある程度記録をとってから、囲い込んで一網打尽にする。まずは周辺に他の魔物がいないか確認するぞ」
「頼む」

 フリードリヒを黙らせて、[探索]魔法で二キロ圏内を確認する。
 今のところ小物の魔物は多いが、特筆すべき危険性のある魔物は確認できない。
 空を飛んでいるエアブレインドラゴンは気になるところだが、小鳥を何羽か食って満足すれば巣へ戻りそうだ。
 地中にもそれほど強い魔物はいない。

「…………」

 だが、当のボアの群れの中に様子がおかしいやつが何体か混じっていた。
 体温上昇、興奮状態、周囲がそのボアたちから離れて、様子を伺うようにビクビクとしている。
 特に一番大きく、一番レベルが高いレベル46のボアはずっと「ふご、ふごっ」と興奮して大地を後ろ足で蹴り続け、地面がえぐれていく。

「もしかしたら進化するかもしれない」
「ボアがか?」
「うん、すでに魔物のステータスが【ビッグボア】になっているんだけど、そこからさらに」
「まずいな。そうなる前に仕留めなければ」
「ボアが進化したところで、せいぜいグレートボア程度のものだろうけど、なにぶんレベルが高い。サンプルにでかいのを何体か捕縛して、残りはこっちでもらうけどいい?」
「ああ、構わないぜ。だが、それでボアの繁殖速度が上がってるのが分かるのか?」

 ストルスが首を傾げる。
 鎧姿の大男がするには少し可愛らしい仕草。
 だが、リズは「ふむ」と自分の唇をつまむ。
 個体数の増加……これは、リズの前世では『魔物に囚われた人間』が原因だった。
 魔物に捕縛された人間が、魔物の子を孕まされていたのだ。
 それには、ああいった獣型の魔物も関係ない。

「捕らえるのは興奮してるやつだ。パッと見た感じ、興奮が治らないって感じ。発情期にしては他の個体が普通すぎるのがなんとも不気味だよね」
「俺たちは見えないからな……」
「ああ、そうだった。ごめんね」

 [遠視]魔法でボアの様子が分かるのは、リズだけなのだ。
 しかし[遠視]と[鑑定]を合わせて使ってもあの興奮状態のボアのステータス……『状態』の項目は『興奮状態』。
 個体数を増やすのならば『発情』になっているはずだが、そうではない。
 それが気になる。

「とりあえず捕縛したあと[追跡]の魔法をかけよう。その個体を放して、巣穴でなにをするのかを確認するんだ。あの数が巣穴を持っているとは思えないから、群れの本隊みたいなのが他にある可能性も捨てきれないけど……」
「ふむ……巣穴、か。ボアといえば元々群れる魔物ではないしな」
「そうだね。でも他にも群れない魔物が群れてたりするんでしょ?」
「ああ、シーディンヴェールタイガーだ」
「!?」

 シーディンヴェールタイガー。
 この国独自で進化した特殊個体の魔物である。
 虎型の魔物はどれも単独行動が基本。
 繁殖期ですら群れることはなく、子育ても母虎のみが行う。
 魔物のランクとしてはCランク。
 上から三番目の強さ。
 しかし危険度はレッド。
 積極的に人を襲い、また逃れようと逃げれば執拗に追いかけてくる。

「ど、どの規模で群れてるの?」
「確認した限りで二十はいたな。同じ平原だ」
「まずいね。それも騎士団に報告したのに、動いてくれなかったの?」
「ああ」

 冗談でしょ、と本音が溢れた。
 そこまで無能だと思いたくない。
 だが、それで動かないのであれば無能だということ。
 情報がどこかで止められているのかもしれないが、下がそれでは本当かにまずい。

「まあ、記録は取ってある。まずはボアの討伐だ」
「分かったよ。……フリードリヒ、モナ、そろそろ行くよ。作戦を説明するからよく聞いててね」
「おー! やっとか!」

 作戦はこうだ。
 リズが魔法で群れの周りに大穴を開けていく。
 そこで大型に成長した個体を図体捕縛。
 [追跡]の魔法を仕掛けて野に再び放つ。
 他の個体は穴に落ちて這い出るところを討伐。
 ボアは素材や肉が売れるので、そのまま収入となる。
 収入は全員で山分け。
 本来ならあまり稼ぎにはならないが、ボアの数が多いことと大型の個体は珍しいため多少割高で買い取ってもらえるだろう、とのことだ。

「怪我人が出たらモナが回復をする。できるな? モナ」
「は、はい!」
「よし、行くぞ」

 狩りの開始だ。
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