45 / 45
7章 魔力なし騎士、対峙する
これからの話をしよう
しおりを挟む翌日、マリクや研究者たちが荷物をまとめてくれておいたおかげで俺とエリウス、アウモは一足先に王都に帰郷することになった。
が――
「はあああ……」
「エリウスー、大丈夫かー?」
「大丈夫かー?」
「だ、だいじょぶじゃないいぃぃ……」
俺とエリウスは相乗り馬車の狭い荷台に隣同士に寝かされ、出発する。
さっきから情けのないか細い声がずっと聞こえてくるんだが、どうやらエリウスの持つ自然魔力回復装置の対価は“一時的な長時間魔力切れ”だったらしい。
先天性の魔力なしの俺にはわからないが、魔力切れっていうのは魔力のある人間にとって信じられないほど苦痛に苛まれるものなんだとか。
実際エリウスはさっきからずっとか細い悲鳴を漏らし続けている。
申し訳ないがうるせえ……。
「どんな感じなんだ? 魔力切れ」
「寒い……」
「熱が出てる感じ?」
「暑い……」
「熱があるってこと?」
「体中痛い……」
「熱が出てるんだな?」
「眩暈が、世界が、回ってて……うえ……っ吐きそう……」
「ここで吐くのはやめてほしいんだが」
ずっと真横で布団に包まれ、真っ青な顔でガタガタ震えているエリウスが可哀想すぎる。
申し訳ないが、俺にはどうしてやることもできない。
話しかけて、返事をさせるのもしんどそうだし、しばらくは黙って見守っていようかな?
「ううううう……うううううう……」
「仕方ないのう」
「アウモ、なんとかなるのか?」
「自然魔力回復装置とやらをまずは外す」
「え? 装着したままだったのか?」
俺にはどれがその回復装置ってやつなのかわからん。
って思ったらアウモはエリウスの右腕を持ち上げ、腕輪を外した。
あの腕輪がそうだったんだ?
「ど、どうして外せるの……! 俺の体の魔力回復速度を上昇させるものだから、特別な器具なしでは外せないって父上とマロネスさんに言われたのに……!」
「この程度の魔術具、魔力の流れを変えれば簡単に外せるぞぅ。我、風の妖精竜だからな」
「へえ……」
俺にはわからないが、すごいらしい。
エリウスがフラフラしながら上半身を起こすほど一気に回復した。
すごいなぁ。
「だが、一度空になった魔力は眠らないと戻ってこないから、エリウスは寝るべき」
「だってさ、エリウス」
「う……眩暈がすごくてとても寝られそうにないよ……」
「頑張って寝ろ」
アウモに言われて再び横たわるエリウス。
その弱った表情がちょっとだけ可愛い。
つい「ふふ」と笑ってしまったのを、エリウスにはじとりと睨まれてしまった。
やばいやばい。話を逸らそう。
「なあ、一応さ、えっとつき合うことになったことだし、一緒に住まん?」
「は――え?」
「アウモの成長がその……よくわからなかったから、騒音のこともあるし、見張り塔に引っ越したけどさ、今はもうそんなこともないだろう? アウモ、記憶も取り戻したし、人の姿にも自由になれるようになってるし。だから、帰って元気になったら寮に戻ろうかな、とかちょっと考えてたんだけど……エリウスと、その……結婚前提につき合っていくのなら、一緒に住んだ方が、いいのかなって」
まあ、これは話を逸らす目的ではなく普通に思っていたことだけれど。
でも俺一人で決めることではないし、アウモとエリウスにも相談すべきことだろう?
ちらり、と隣を見たら急に右手が温かい手に包まれた。
エリウスの手。
「うん……うん! 一緒に、住もう! そうだね、どこがいいだろう? お互い、回復したら物件を探しにいくところからだよね。騎士舎に近いところに家族がいる騎士向けの物件がたくさんあったはずだから、その中から探そう。一人一部屋、かな? それとも、寝室は一緒で、アウモは一人部屋とか? 風呂とトイレはやっぱり別がいいよね。南向きで、庭もある方がいい?」
「ああ、そうだな。遠征もあるし、一人一部屋がいいかも。っていうか、エリウス、だいぶ楽になってるな?」
「ああ、そういえば……うん。ありがとう、アウモ」
「ふふん」
ドヤ顔のアウモが可愛い。
ガタン、と大きな石を車輪が踏んだせいで、盛大に体が跳ねる。
ちょっと考えられないぐらい体が浮いた。
ちょ、俺、腹に穴空いてる……!
無理やり塞いでる状態だぞ……!? ヤバ……っ!
「大丈夫?」
「あ……ありがとう……」
背中に腕を入れて、エリウスが俺の体を抱き寄せてクッション代わりになってくれた。
やばい、一気に顔と体が……熱くなってくる。
「なあ、エリウス」
「うん? なに?」
「いや、その……とりあえず元気になってからだけど……元気になったら……ちゃんと、色々したいな」
意味が通じるかはわからないけれど、通じなくてもいい。
隣にアウモがいるし。
でも、伝わったら嬉しいな。
そんなことを思いながら、胸に顔を埋めながら言うとエリウスの心音が派手に跳ねたのが聞こえた。
「そ……そういうこと今言わないでよ……反応しちゃう」
「ご、ごめん」
顔をもう片方の腕で覆い隠しながら言うエリウスの心臓の音がずっとうるさい。
通じてしまうのがまたなんとも恥ずかしい。
ま、まずは家。
一緒に住む、家!
「仲良しだのう~」
「「っ………………」」
終
62
お気に入りに追加
156
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

【完結】試練の塔最上階で待ち構えるの飽きたので下階に降りたら騎士見習いに惚れちゃいました
むらびっと
BL
塔のラスボスであるイミルは毎日自堕落な生活を送ることに飽き飽きしていた。暇つぶしに下階に降りてみるとそこには騎士見習いがいた。騎士見習いのナーシンに取り入るために奮闘するバトルコメディ。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ハチャメチャ可愛くて一気読みさせていただきました…!!
みんな可愛いし優しい世界で癒やされました…もっと続きが読みたかったぁぁあ(ᗒᗩᗕ)
もし筆が乗るようだったら、ぜひこの世界の続きの物語を教えていただけたら嬉しいなと思います。
素敵な作品をありがとうございました!