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7章 魔力なし騎士、対峙する

ゾンビドラゴン討伐後

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「なんで縮んで……?」
「魔力の摂取量を減らすように節約しておる。父、目を覚ましてよかった。だが、治癒魔法では汚染は治らぬからゆっくり浄化しなければならぬな」
「汚染……?」
「“狭間の泥”に浸かってしまったから、溜まっていた泥が霊魂体アストラルについてしまったのだ。我が取り除くが、腹に穴が空いたからそっちの治癒を先にせんと。浄化の際に体力が持たぬ」
「腹に……穴?」
 
 なんかすごく怖いこと言ってない?
 俺、腹に穴空いてたの? え? マジで言ってる?
 プルプル震えるとエリウスが「ふ、塞がってるから」と肩を撫でてくれた。

「飛んできた石が尖っていて、刺さってしまって、穴が開いていたんだよ。でも、今はもうちゃんと塞がっているから。……ただ、完治はしていないよ。治癒系の魔術師もてんやわんやだから、本当に塞いだだけ。無理したら開いてしまいかねないから、絶対安静。とにかく体力を回復して。でないと治癒されても体力が持たず衰弱する」
「わ、わかったよ」

 妖精竜に選ばれし“癒しの聖女”が使う治癒魔法以外は、怪我人や病人の体力を消費して自然治癒力を上昇させ、治るのを早めるもの。
 だから重傷者には通常の医療技術で止血し、体力を回復させ、少しずつ治癒魔法で怪我を癒していく。
 通常の自然治癒よりは早く治るが、体力回復に時間がかかるので体力のない幼児や高齢者はポーションなどの調整が効く自然治癒力を促すものを使う。
 俺は一応騎士なので、体力回復さえすれば治癒魔法で一気に治してもらえる。
 ただ、どうやら俺の魂……その魂を包み込む精神体、霊魂体アストラルに“狭間の泥”がついてしまったらしい。
 つまり、俺は“死”に足を突っ込んだのだ。
 そこからアウモが拾い上げてくれたから、俺は今生きている。
 
「我の古い体が迷惑をかけた」
「古い体……?」
「そう。あのゾンビドラゴンは我の古い体。死んで卵に転生したが、魂を失って“狭間の泥”を啜って動いておったんよ」
「超大型魔物は、もしかして妖精竜の“古い体”なのか?」
「まあ、だいたいはそう」

 ボーッとエリウスとアウモの話を聞いていたが、アウモの違和感がすごい。
 なんだろう? なんだ? あ、そうだ!

「ちょっと待って。……アウモ、もしかして、前世の記憶を取り戻しているのか?」

 えらく流暢に喋るし、こちらが知らないことをペラペラ話してくれるし。
 上半身を起こそうとしたがエリウスと合うも双方に左右から止められて、仕方なく顔だけでアウモを見上げるとにっこり微笑まれた。

「うむ。毎日たくさん風魔法の風魔力を食わせてもらったから、記憶を取り戻すことができたぞい」
「そんな喋り方だったんだ……?」
「うむ。違和感があるやも知れぬが慣れてほしい」
「う……うん」
 
 まあ、それは。仕方ない。
 前世は立派な妖精竜。
 いや、今も立派な妖精竜だけれど。
 世界の風を司る神なのだから、偉そうに話すのは当たり前。

「記憶を取り戻したのなら、アウモは妖精竜としての役目のために……その……」

 いなくなってしまうのだろうか?
 俺はもう、アウモと一緒に生活できなくなる、のか?
 やっと父親になれた気がするのに、こんなにも早くアウモは独立していってしまうのか?

「役目? ……うーん、我ら、別になにか重要な役目をもって生きているわけではないな」
「へぁ?」
「え? そ、そうなのか? 妖精竜様ともあろう方なら、世界のためになにか重要なことがあるのかと……」
「我ら妖精竜は“生きている”ことが役目なのだ。我らが生きているだけで魔力に属性が付与できるようになる。だから我らは死んでも卵で転生する」

 エリウスと顔を見合わせてしまった。
 妖精竜の存在は、まさしく世界の四属性を司っているということなのだ。
 概念……そういうもの。
 改めて、すごい存在だ。

「じゃあ、まだ一緒にいられるのか?」
「うむ。我、もっと父と一緒にいたいぞ。父が元気になったら我から父に“癒しの力”を与えるからな。もう魔力がないとか、無力だからとか、そんなことを気にする必要はないぞ」
「え? なに……へ? 癒しの……え?」
「それって“癒しの聖女”の力のこと? アウモだけで与えられるものなのか?」
「できるぞう。別に我ら全員分の加護など不要。要は魔力を持つか持たぬか。我らの加護は余分なもの……魔力を持っていると与えられぬ。魔力は戦う力。人の神・武神アケレウスの加護。すでに加護を受け取ったものに我ら妖精竜から加護を与えることはできぬ。我らの加護『癒しの力』、あるいは冥府の女神ルラバイの加護『浄化の力』は魔力のない者にしか与えることができぬ力」
「「そうなの!?」」

 また上半身を起こそうとしたが、アウモに止められる。
 はい。安静に寝ています。

「じゃあ、その、フェリツェなら妖精竜の加護を受け取れる、ということ?」
「そう」
「えっと……そういう力……『癒しの聖女』の力って、女性にしか与えられないものなんじゃ……?」
「はて? 知らぬ。我は他者に加護を与えたことはない。他の妖精竜は知らぬ。『癒しの力』を持つ乙女が歴史のどこかにいるのなら、水の妖精竜あたりがばら撒いているのでは?」

 そんな扱いなの?
 ばら撒い……い、いやいや。
 俺みたいな魔力なしがそんなにぽこぽこいてたまるか。

「それって女性でなくてもいいってこと?」
「当然だな。父には我から癒しの加護を与えるから、もう落ち込まないでいいぞ」
「え、ええ?」
「本当は今すぐにでも与えたいが、霊魂体アストラルに汚れがあるからな。それを取ってから、父の望む通り、人の役に立つ騎士になれるように我が加護を与えるぞ」

 そう言って目を瞑り、俺の胸の上に頭を乗せるアウモ。
 その頭を撫でると、それは嬉しそうに微笑む。

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