上 下
37 / 45
6章 王族騎士、遠征で活躍する

止まらない成長

しおりを挟む
 で、実際アウモの食後出発がギリギリになり、最後尾の方に合流。
 やはり「アウモ様の食事が優先」と団長には言われた。
 遠征の一番のしんどいポイントといえば移動距離。
 食事は色々諦めもつくが、距離ばっかりはどうしようもないもんな。
 転移魔法という魔法もあるが合同魔法の一種なので大量の魔力がと人員が必要だし、転移先にも魔法陣を形成しなければならないし、効率がいいとは言えない。
 だから馬や徒歩で、こうして歩いて遠征先に移動する。
 今回の遠征先は前回と同じで、三晩野宿する必要はあるが四日後の夕方には到着できる王都近郊の範囲。
 馬単騎ならば、一日もいらないだろう距離である。
 ソラファナ子爵の領内にある、『アパティールの森』。
 それが今回の遠征先――。
 手前には草原とソラファナ子爵領の生命線ともいうべきラソル川が流れており、アウモの卵が流れてきたのはそのラソル川を源流とするアパティールの森に流れる小川。
 今回フェリツェに内緒で『アウモとゾンビドラゴンの関係性を調査する』という極秘任務があるのは、ゾンビドラゴンが現れたのがアパティールの森であり、アウモの卵が流れてきたのがそのアパティールの森に流れる小川だったから。
 超大型魔物は基本的にすべて『ドラゴン種』なのだ。
 これまでの歴史で現れた超大型魔物はゾンビドラゴン、ウロボロス、カリュブディス、レヴィアタン、カンヘルドラゴン……。
 どれも強力で、硬い鱗を持ち魔法を一部の魔法を無効化する。
 その様子が――アウモに似ていると思われたのだ。
 風の魔法を食らい、無効化するアウモに。
 あれらの超大型魔物は元々ドラゴン種ばかりだったので、妖精竜となにか関係があったのでは……と疑問自体は持たれていたらしい。
 もちろん、明確な関係性があるかどうかは不明。
 調査もゾンビドラゴン討伐に関わることを最優先にされているから、まあ、なにかわかったらいいね、程度のものだけれど。

「ぱ、う♪ ぱ、う♪ ぱぁー♪」
「素晴らしい! 素晴らしい! 妖精竜様はお歌を歌えるのですね!」
「しかし、聴いたことのない歌ですな。フェリツェ殿はなにかご存じですか? もしかして、竜にのみ伝わる歌、とか!」
「ッッッッ~~~……い、いえ、これはその……こ、孤児院で歌われていたお掃除の歌ですね、これは……。俺が部屋の掃除をしている時に口ずさんでいたものを、覚えていたみたいで……っ」
「「「「なんと!」」」
「か! 賢い!」

 相乗り馬車に乗ったアウモとフェリツェ、俺と数人の研究者たち。
 アウモの歌? を絶賛するが、フェリツェは恥ずかしそう。可愛い。
 しかし、フェリツェが口ずさんだだけの歌を覚えて自分でも歌うなんて、確かにかなり賢いな。
 フェリツェが「精神も成長していると思う」と言っていたが、その考えは多分正しい。
 歌なんて、竜の姿の頃は歌ってなかった。
 歌を歌う、という概念を理解して実践している。
 研究者たちが各々メモを取り、絶賛している光景がちょっと気持ち悪い。
 マロネスさんが一部の研究者がフェリツェからなんとかアウモの保護権を奪い通ろうと画策している、と怖い話も聞いていたが……今のところそれらしいやつはいないんだよな。
 俺でもちゃんと盾になっている、ということだろうか?
 それならいいのだけれど。

「あ、そろそろアウモの食事の時間か」
「馬車を止めてもらいましょう」

 ちなみに、同じ時間で出発したが、アウモの食事の時間があるので俺たちは騎士団の到着予定よりも一日あとの予定だ。
 一度馬車を止め、広い場所で合同魔法を唱えなければならない。
 俺は乗り合い馬車には乗らず愛馬と共に単身近場で風属性の魔物を探し、狩る。
 風の魔石と風属性の魔物の肉で、魔術師たちの負担を少しでもらう減らしたい。
 アウモはあまり野菜や肉を好まないけれど、風属性がついている、魔力の豊富に含まれた魔物の肉なら嫌がられないだろう。……多分。

「エリウス殿~」
「はい?」

 そう思って三羽ほどシルフグースを水辺で見つけて狩ってきたが、魔導師の一人が息を切らせながら駆け寄ってきた。
 どうしたのだろう、と思ったら「魔導師が八人倒れました」と息を切らせながら告げられてギョッとする。
 今まで五人から六人の魔導師が合同で使う[サイクロン]だったのに、アウモはそれでは満足しなくなったらしい。
 八人……八人! 想定よりも多い人数になってるんだが……!?

「そんなに大人数の合同魔法になっているんですか?」
「は、はい。実は朝の時点で七人の風魔術師が合同魔法を使っていたので、昼は八人で、という話をしていました。しかし、それでも足りないと言われてしまいまして……。今、フェリツェ殿に抑えていただいているんです」
「は、はあ……!? た、足りない!?」
「はい」

 嘘だろ、と言いかけたが風の魔石を食べ始めた頃からどんどん増え続けている。
 いずれそのぐらいの人数の魔力を必要とするようになるかもしれない、とは思っていたけれど想像以上にものすごいスピードで必要量が増えているな……。
 一日で一人分。
 いや、一食ごとに一人分、増えている?
 純粋な、風の魔力が必要なのはわかるけれど……これが神の成長なのか。

「フェリツェ……!?」

 相乗り馬車のあった場所に戻ると、フェリツェは自分の私服をアウモに着せているところだった。
 今まで上着がワンピースのようだったアウモの着ているものに、ズボンが追加されている。
 上着はまだブカブカだが、ついに裾を捲ったズボンが必要になるほど成長していたのだ。
 ほんの数十分、離れただけなのに。
 四歳くらいから六歳くらいだろうか?

「また大きくなってるの?」
「そ、そうなんだ。昼ご飯を食べたあと、俺のところに降りてきたら丸出しで」

 丸出しかぁ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
魔術学院に通うクーノは小さい頃助けてくれた騎士ザイハムに恋をしている。毎年バレンタインの日にチョコを渡しているものの、ザイハムは「いまだにお礼なんて律儀な子だな」としか思っていない。ザイハムの弟で重度のブラコンでもあるファルスの邪魔を躱しながら、今年は別の想いも胸にチョコを渡そうと考えるクーノだが……。 [名家の騎士×魔術師の卵 / BL]

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが

ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク 王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。 余談だが趣味で小説を書いている。 そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが? 全8話完結

聖女の兄で、すみません! その後の話

たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』の番外編になります。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

処理中です...