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6章 王族騎士、遠征で活躍する
止まらない成長
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で、実際アウモの食後出発がギリギリになり、最後尾の方に合流。
やはり「アウモ様の食事が優先」と団長には言われた。
遠征の一番のしんどいポイントといえば移動距離。
食事は色々諦めもつくが、距離ばっかりはどうしようもないもんな。
転移魔法という魔法もあるが合同魔法の一種なので大量の魔力がと人員が必要だし、転移先にも魔法陣を形成しなければならないし、効率がいいとは言えない。
だから馬や徒歩で、こうして歩いて遠征先に移動する。
今回の遠征先は前回と同じで、三晩野宿する必要はあるが四日後の夕方には到着できる王都近郊の範囲。
馬単騎ならば、一日もいらないだろう距離である。
ソラファナ子爵の領内にある、『アパティールの森』。
それが今回の遠征先――。
手前には草原とソラファナ子爵領の生命線ともいうべきラソル川が流れており、アウモの卵が流れてきたのはそのラソル川を源流とするアパティールの森に流れる小川。
今回フェリツェに内緒で『アウモとゾンビドラゴンの関係性を調査する』という極秘任務があるのは、ゾンビドラゴンが現れたのがアパティールの森であり、アウモの卵が流れてきたのがそのアパティールの森に流れる小川だったから。
超大型魔物は基本的にすべて『ドラゴン種』なのだ。
これまでの歴史で現れた超大型魔物はゾンビドラゴン、ウロボロス、カリュブディス、レヴィアタン、カンヘルドラゴン……。
どれも強力で、硬い鱗を持ち魔法を一部の魔法を無効化する。
その様子が――アウモに似ていると思われたのだ。
風の魔法を食らい、無効化するアウモに。
あれらの超大型魔物は元々ドラゴン種ばかりだったので、妖精竜となにか関係があったのでは……と疑問自体は持たれていたらしい。
もちろん、明確な関係性があるかどうかは不明。
調査もゾンビドラゴン討伐に関わることを最優先にされているから、まあ、なにかわかったらいいね、程度のものだけれど。
「ぱ、う♪ ぱ、う♪ ぱぁー♪」
「素晴らしい! 素晴らしい! 妖精竜様はお歌を歌えるのですね!」
「しかし、聴いたことのない歌ですな。フェリツェ殿はなにかご存じですか? もしかして、竜にのみ伝わる歌、とか!」
「ッッッッ~~~……い、いえ、これはその……こ、孤児院で歌われていたお掃除の歌ですね、これは……。俺が部屋の掃除をしている時に口ずさんでいたものを、覚えていたみたいで……っ」
「「「「なんと!」」」
「か! 賢い!」
相乗り馬車に乗ったアウモとフェリツェ、俺と数人の研究者たち。
アウモの歌? を絶賛するが、フェリツェは恥ずかしそう。可愛い。
しかし、フェリツェが口ずさんだだけの歌を覚えて自分でも歌うなんて、確かにかなり賢いな。
フェリツェが「精神も成長していると思う」と言っていたが、その考えは多分正しい。
歌なんて、竜の姿の頃は歌ってなかった。
歌を歌う、という概念を理解して実践している。
研究者たちが各々メモを取り、絶賛している光景がちょっと気持ち悪い。
マロネスさんが一部の研究者がフェリツェからなんとかアウモの保護権を奪い通ろうと画策している、と怖い話も聞いていたが……今のところそれらしいやつはいないんだよな。
俺でもちゃんと盾になっている、ということだろうか?
それならいいのだけれど。
「あ、そろそろアウモの食事の時間か」
「馬車を止めてもらいましょう」
ちなみに、同じ時間で出発したが、アウモの食事の時間があるので俺たちは騎士団の到着予定よりも一日あとの予定だ。
一度馬車を止め、広い場所で合同魔法を唱えなければならない。
俺は乗り合い馬車には乗らず愛馬と共に単身近場で風属性の魔物を探し、狩る。
風の魔石と風属性の魔物の肉で、魔術師たちの負担を少しでもらう減らしたい。
アウモはあまり野菜や肉を好まないけれど、風属性がついている、魔力の豊富に含まれた魔物の肉なら嫌がられないだろう。……多分。
「エリウス殿~」
「はい?」
そう思って三羽ほどシルフグースを水辺で見つけて狩ってきたが、魔導師の一人が息を切らせながら駆け寄ってきた。
どうしたのだろう、と思ったら「魔導師が八人倒れました」と息を切らせながら告げられてギョッとする。
今まで五人から六人の魔導師が合同で使う[サイクロン]だったのに、アウモはそれでは満足しなくなったらしい。
八人……八人! 想定よりも多い人数になってるんだが……!?
「そんなに大人数の合同魔法になっているんですか?」
「は、はい。実は朝の時点で七人の風魔術師が合同魔法を使っていたので、昼は八人で、という話をしていました。しかし、それでも足りないと言われてしまいまして……。今、フェリツェ殿に抑えていただいているんです」
「は、はあ……!? た、足りない!?」
「はい」
嘘だろ、と言いかけたが風の魔石を食べ始めた頃からどんどん増え続けている。
いずれそのぐらいの人数の魔力を必要とするようになるかもしれない、とは思っていたけれど想像以上にものすごいスピードで必要量が増えているな……。
一日で一人分。
いや、一食ごとに一人分、増えている?
純粋な、風の魔力が必要なのはわかるけれど……これが神の成長なのか。
「フェリツェ……!?」
相乗り馬車のあった場所に戻ると、フェリツェは自分の私服をアウモに着せているところだった。
今まで上着がワンピースのようだったアウモの着ているものに、ズボンが追加されている。
上着はまだブカブカだが、ついに裾を捲ったズボンが必要になるほど成長していたのだ。
ほんの数十分、離れただけなのに。
四歳くらいから六歳くらいだろうか?
「また大きくなってるの?」
「そ、そうなんだ。昼ご飯を食べたあと、俺のところに降りてきたら丸出しで」
丸出しかぁ。
やはり「アウモ様の食事が優先」と団長には言われた。
遠征の一番のしんどいポイントといえば移動距離。
食事は色々諦めもつくが、距離ばっかりはどうしようもないもんな。
転移魔法という魔法もあるが合同魔法の一種なので大量の魔力がと人員が必要だし、転移先にも魔法陣を形成しなければならないし、効率がいいとは言えない。
だから馬や徒歩で、こうして歩いて遠征先に移動する。
今回の遠征先は前回と同じで、三晩野宿する必要はあるが四日後の夕方には到着できる王都近郊の範囲。
馬単騎ならば、一日もいらないだろう距離である。
ソラファナ子爵の領内にある、『アパティールの森』。
それが今回の遠征先――。
手前には草原とソラファナ子爵領の生命線ともいうべきラソル川が流れており、アウモの卵が流れてきたのはそのラソル川を源流とするアパティールの森に流れる小川。
今回フェリツェに内緒で『アウモとゾンビドラゴンの関係性を調査する』という極秘任務があるのは、ゾンビドラゴンが現れたのがアパティールの森であり、アウモの卵が流れてきたのがそのアパティールの森に流れる小川だったから。
超大型魔物は基本的にすべて『ドラゴン種』なのだ。
これまでの歴史で現れた超大型魔物はゾンビドラゴン、ウロボロス、カリュブディス、レヴィアタン、カンヘルドラゴン……。
どれも強力で、硬い鱗を持ち魔法を一部の魔法を無効化する。
その様子が――アウモに似ていると思われたのだ。
風の魔法を食らい、無効化するアウモに。
あれらの超大型魔物は元々ドラゴン種ばかりだったので、妖精竜となにか関係があったのでは……と疑問自体は持たれていたらしい。
もちろん、明確な関係性があるかどうかは不明。
調査もゾンビドラゴン討伐に関わることを最優先にされているから、まあ、なにかわかったらいいね、程度のものだけれど。
「ぱ、う♪ ぱ、う♪ ぱぁー♪」
「素晴らしい! 素晴らしい! 妖精竜様はお歌を歌えるのですね!」
「しかし、聴いたことのない歌ですな。フェリツェ殿はなにかご存じですか? もしかして、竜にのみ伝わる歌、とか!」
「ッッッッ~~~……い、いえ、これはその……こ、孤児院で歌われていたお掃除の歌ですね、これは……。俺が部屋の掃除をしている時に口ずさんでいたものを、覚えていたみたいで……っ」
「「「「なんと!」」」
「か! 賢い!」
相乗り馬車に乗ったアウモとフェリツェ、俺と数人の研究者たち。
アウモの歌? を絶賛するが、フェリツェは恥ずかしそう。可愛い。
しかし、フェリツェが口ずさんだだけの歌を覚えて自分でも歌うなんて、確かにかなり賢いな。
フェリツェが「精神も成長していると思う」と言っていたが、その考えは多分正しい。
歌なんて、竜の姿の頃は歌ってなかった。
歌を歌う、という概念を理解して実践している。
研究者たちが各々メモを取り、絶賛している光景がちょっと気持ち悪い。
マロネスさんが一部の研究者がフェリツェからなんとかアウモの保護権を奪い通ろうと画策している、と怖い話も聞いていたが……今のところそれらしいやつはいないんだよな。
俺でもちゃんと盾になっている、ということだろうか?
それならいいのだけれど。
「あ、そろそろアウモの食事の時間か」
「馬車を止めてもらいましょう」
ちなみに、同じ時間で出発したが、アウモの食事の時間があるので俺たちは騎士団の到着予定よりも一日あとの予定だ。
一度馬車を止め、広い場所で合同魔法を唱えなければならない。
俺は乗り合い馬車には乗らず愛馬と共に単身近場で風属性の魔物を探し、狩る。
風の魔石と風属性の魔物の肉で、魔術師たちの負担を少しでもらう減らしたい。
アウモはあまり野菜や肉を好まないけれど、風属性がついている、魔力の豊富に含まれた魔物の肉なら嫌がられないだろう。……多分。
「エリウス殿~」
「はい?」
そう思って三羽ほどシルフグースを水辺で見つけて狩ってきたが、魔導師の一人が息を切らせながら駆け寄ってきた。
どうしたのだろう、と思ったら「魔導師が八人倒れました」と息を切らせながら告げられてギョッとする。
今まで五人から六人の魔導師が合同で使う[サイクロン]だったのに、アウモはそれでは満足しなくなったらしい。
八人……八人! 想定よりも多い人数になってるんだが……!?
「そんなに大人数の合同魔法になっているんですか?」
「は、はい。実は朝の時点で七人の風魔術師が合同魔法を使っていたので、昼は八人で、という話をしていました。しかし、それでも足りないと言われてしまいまして……。今、フェリツェ殿に抑えていただいているんです」
「は、はあ……!? た、足りない!?」
「はい」
嘘だろ、と言いかけたが風の魔石を食べ始めた頃からどんどん増え続けている。
いずれそのぐらいの人数の魔力を必要とするようになるかもしれない、とは思っていたけれど想像以上にものすごいスピードで必要量が増えているな……。
一日で一人分。
いや、一食ごとに一人分、増えている?
純粋な、風の魔力が必要なのはわかるけれど……これが神の成長なのか。
「フェリツェ……!?」
相乗り馬車のあった場所に戻ると、フェリツェは自分の私服をアウモに着せているところだった。
今まで上着がワンピースのようだったアウモの着ているものに、ズボンが追加されている。
上着はまだブカブカだが、ついに裾を捲ったズボンが必要になるほど成長していたのだ。
ほんの数十分、離れただけなのに。
四歳くらいから六歳くらいだろうか?
「また大きくなってるの?」
「そ、そうなんだ。昼ご飯を食べたあと、俺のところに降りてきたら丸出しで」
丸出しかぁ。
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