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6章 王族騎士、遠征で活躍する
遠征出発(1)
しおりを挟むフェリツェに告白をしてから三日目の朝。
目を覚ますと真横にフェリツェの顔があってヒュッと息が詰まった。
……あ、そ、そうか。
ソファーで寝ようとしたがアウモが夜中に「お腹空いたー」って起きてきたから、指を咥えさせて風属性魔力を与えていたんだ。
そうしたら起きたアウモに気がついて、ベッドにおいでって誘ってくれて……そのまま――。
し、心臓に悪……!
てっきり婚前の既成事実をやらかしたのかと……い、いや、これまで色々、既成事実ギリギリのことを色々やってはいるけれど……!
あれは魔物に襲われた相手を救済する意味の方が大きくて、平常時に相手の同意もなくやってしまうこととはまったくの別物!
フェリツェの意思を無視した婚姻は――そりゃ、できなくもないけれど……!
そんなことをしてしまえば、二度と俺が本当に欲しいもの……フェリツェの心が手に入らない。
くすんだ紫色の髪を一房手に取って、穏やかに眠る寝顔を眺める。
こういう朝を、これからも一生得られたらいいのに。
「ぱううううう……」
「あ」
お腹の音とともにアウモがモゾモゾと上半身を起こす。
その姿に驚く。
昨日の夜は三歳くらいから四歳くらいに成長していたが、今の姿は六歳前後。
他人が見ても明確に成長しているとわかるだろうほどに、大きくなっていた。
髪も伸びて、あちこちぴょんぴょんと寝癖がついている。
それに、フェリツェの服がワンピースのようになっていた。
だから気づかなかったのだろうか?
服の隙間から、トカゲのような尻尾が少しだけ見えた。
こんなの、あった?
「ぱう、ぱう!」
「あ、ああ、朝ご飯ね。でも、その前に顔を洗おうか」
フェリツェが起きる前に俺とアウモが起きたの初めてかも?
まあいいか、アウモのことで最近悩みっぱなしだったもんね。
もう少し休ませてあげよう。
遠征は朝の八の刻だから、まだ余裕はある。
フェリツェの『アウモの食糧調達部隊』は特殊部隊扱いだから、融通が利くし。
「ぱーう」
「うん、綺麗になったよ」
「ぱううう~~~」
濡れたタオルで顔を拭き、髪を梳かしてやると空腹が限界なのか頰を膨らませて見上げられる。
……こんな仕草も今までしなかった。
精神的にも、成長している……?
それにしてはまだ喋れないみたいだけれど、これは……時間の問題かもしれない。
「先にフェリツェ……そろそろパパを起こそう。お寝坊したら落ち込んでしまうかもしれないし」
「ぱう!」
そう提案したら、不満げだったアウモがパァと笑顔になった。
フェリツェと話したい、という気持ちがすごく出ているのが可愛い。
「ぱうぱうー、ぱぁうー」
「う、ううう……んんん? ……え? アウモ? なに、お腹空いたのか……? ん? え?」
「おはよう、フェリツェ。そろそろ起きて準備しよう」
「エリウス――そうだ遠征!」
「まだ大丈夫だよ。でも朝食を早めに食べて集合場所に行こう」
優しく揺り起こすアウモに『あれ? 俺の時は上に乗って全身で揺らしてきたのにフェリツェを起こす時は優しくない?』と思わないでもないが、起き抜けでもアウモの頭を撫でたり「起こしてくれて、ありがとうな」と声をかけたりするフェリツェに“父”らしさを見て胸がギュッと苦しくなった。
そうだよな、あんなふうに優しく接してもらい、生活を支え、人の街で生きていく術を教わっていたら好きになるよな~。
わかる、俺もそうだったから。
小さな頃から自分より一つでも年下の相手を一生懸命育てて無性の愛情を注いでくれる人だった。
変な話、この人に育てられるアウモを羨ましく思うことさえある。
アウモを見る、あの慈愛に満ちた眼差し。
あれを、俺も、欲しい、なんて……。
「あ、ちゃんと顔を拭いてくれたのか? エリウス」
「え? あ、ああ、うん。でもそのくらいしかしてないよ。お腹空いたって言ってたから、少し魔力を食べさせておくね。その間にご飯食べに行こう。昨日運ばれてきた保存食は全部俺の収納魔法で運ぶけどいいよね?」
「うん。なんかごめんな」
「どうせ他にも色々運ぶんだから気にしないで。……あ、それはそれとしてさ、アウモ、また大きくなっているよね?」
気づいているとは思うけれど、改めて聞いてみるとフェリツェも真顔になってコクリ、と頷く。
そして気になっていた、尻尾について聞いてみる。
俺はさっき気づいていたのだが、フェリツェは知っていたのだろうか?
「尻尾? う、うーん、まあ……初めて服を着せた時に『なんだこれ?』とはちょっと思ったけれど……まあでも、竜だしなぁ? とは、思ってた。ただ、成長と同時に尻尾も長くなるんだな?」
「そ、そうだね」
「あ、でも竜の姿の時に角もあったし、もしかしてもっと成長したら角も生えてきたりしてな」
「あはは……」
なるほど? ありえそうで怖い。
そんなの見たらマロネスさんが喜びそうだな~。
とか、考えたが一瞬で『でもその分妖精竜として強くなっているってことだよね? その状態で暴れられたらやばくない?』という現実に立ち戻って血の気が引く。
正直、少しずつ風の魔力を食べる量がますます増えている。
あの合同魔法である[サイクロン]ですら、昨日の夕方食べさせた分は五人から俺含めた七人で行った。
それをぺろりと平らげたのだ、アウモは。
魔術師団の風属性の魔法に特化した魔術師は十三人。
同行する風魔法の使える研究者は五人。
このまま摂取量が増え続ければ、全員で合同魔法を使わなければならなくなるんじゃ――?
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