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5章 魔力なし騎士、考える
アウモの食糧調達部隊(1)
しおりを挟む俺の謎の体質が……魔物に好かれやすい『魔寄せ』のせいで変な目によく遭うところを助けてもらうことが増えて、今はもうすっかり頼りにしてしまって。
体の開放感を重ねるごとにエリウスを恋愛対象として意識していく。
俺はもう、エリウスを恋愛対象として好きになっている。
でも、それと結婚は別物だろう。
アウモという不安要素もある。
友人として生涯を共にする方が、伴侶として生涯を共にするよりもお互いの負担が軽いだろう?
だから、どうしても楽な方を考えてしまう。
俺は今、自分の人生とアウモの人生のことしか考えられない。
ここにエリウスの人生も、となると、ちょっと頭破裂しそう。
俺、そんなに頭よくないし。
でも、エリウスは俺を伴侶として生きていきたいらしい。
……ううん、よく、わからない。
想像がしにくい。
「あ、いた! お疲れ様です!」
「ぱぁぁあーう!」
「お疲れ様。アウモ様が目覚められたのか?」
「はい。また空腹らしくて」
「了解した。すぐに合同魔法に移る」
「アウモ様の食後にお話をしてもいいですか?」
「え? はい」
なんだ? ちょっと怖いんだけど?
でも、先にお腹を鳴らすアウモの食事を優先してもらう。
潤んだ瞳で見上げられるとどうしても「先にお腹いっぱいにおなり!」って気持ちになるのは仕方ないだろう、親として。
その食事方法が……合同魔法[サイクロン]。
一日に何回も見るものではないんだが、アウモの食事はこれが一番効率がいいとわかってしまったからなぁ。
「はあ、はあ……も、もう魔力が……」
「も、申し訳ない、フェリツェ殿。魔術師団で風専門の魔術師は我らを含めて十三人しかいないのだ。夕飯の時の[サイクロン]は複数属性持ちがお手伝いするかと思いますが……」
「ぱぁぁあう!」
「「「え?」」」
魔術師にも事情があるんだな、と座り込む彼らの話を聞いていたら、[サイクロン]を食い尽くしたアウモが降りてくる。
目をキラキラさせて、俺の腕の中に飛び込んできた。
ああ、お腹いっぱいになったんだな?
「よかったな、アウモ。お腹いっぱいになって」
「ぱう!」
「え? なに?」
「ぱうぱう!」
「え……っとおおぉ~~~~……」
気のせいか?
アウモの鳴き声のニュアンスが「おかわり!」の時のそれなのだが……そんなことある?
だが、やはりうるうるとした瞳で「お願い」と言わんばかりの顔で見上げられた。
ぐ……こ、こいつ……もう自分の可愛さを理解しておねだりの仕方もわかってやがる……!
「どうかなされたのか」
「いや、えっと、おかわりを要求していて……」
「「「「「え」」」」」
硬直する魔術師の皆さん。
それは本当にそう。
合同魔法といっても魔力はかなり消費しているはず。
もう一回あれを、というのはきつくな?
俺、魔力がないから余計に魔力で生計立ててる人へ無理強いはできないよ?
見ろよ、彼らの顔。絶望だよ……?
「えっと……他の魔術師に……」
「い、いや。魔力回復薬がある! その、大きな魔法でなくともよいのなら」
「えっと、はい! それでもいいです……! な、アウモ!」
「ぱぁう!」
嬉しそうに顔を上げたアウモが、翼を広げて魔術師の方に行く。
魔力切れの彼らになにかお礼を、と思って見張り塔に戻ると、配送屋が食糧を運び込んでおいてくれた。
おそらく騎士団の方から依頼され、アウモ用に運び込んでくれていたのだろう。
どれも保存食ばかりなので、遠征も前提とされている。
その中から乾燥した干し肉を使って、野菜を孤児院の院長が教えてくれた“ミソ”で煮込む。
エルフの森で穫れる安い豆を数時間煮込み、穀物を発酵させて作った麹を混ぜて寝かせて作ったもの。
これでスープを煮込むと独特の優しい甘味と塩味が出た野菜スープができるんだよなぁ。
なんでも――数百年前に異世界から転生してきた勇者がエルフの国に伝えたものなんだとか。
院長の出身の国、エルフの国にはこのミソを使った様々な料理があるらしい。
保存も長く利くし、栄養価も高いし、ということで孤児院では具なしミソスープが毎食出た。
俺とエリウスにとっても慣れ親しんだ懐かしい味。
ミソの残量が少ないから新しく作らないといけないんだけど、遠征から帰ってきてからでいいかな?
……そうだ……エリウスにも久しぶりにミソを使ったスープを作って飲ませてやろうかな?
遠征前に飲むと、頑張ろうって気持ちになるって前に言っていたし。
アウモにも……思えばまだ飲ませてあげたことがなかった。
貧乏性なので残量が減ってしまうと作るのケチっちゃうんだよな。
「すみません、スープを作ったんですが、もしよろしければ――」
「すこし……休んでから……いただき……ます……」
「は、はい」
草原の方にスープ鍋を持って戻ると、五人の魔術師が倒れていた。
その横でアウモが草原に吹く風を大口を開けて……食べている……?
魔力だけでは飽き足らず、自然の風を食べるようになったのか?
それとも、あの風も魔法の残滓なのだろうか?
魔力のない俺には全くわからない。
「あ、あの……明日の話、なのですが……」
「え? はい」
明日? 遠征の話?
ずる、ずる、と魔術師の一人が這いずりながら近づいてきた。
俺はスープ鍋を平な場所に置き、石を並べて固定する。
で、魔術師さんの話によると、明日アウモの食事を作り出すために風の魔術師十三人が同行したい、とのこと。
これは魔術師団の方の意向とのこと。
「そんな……いいんですか?」
「研究所の方からも風の魔法を使える者が五人ほど同行するそうで……我らがアウモ様の食糧確保係りを務めたいのですが……保護者兼部隊長として許可をいただいてもよろしいですか?」
「部隊長!? 俺!?」
「そうです」
俺、部隊長になったの!?
曰く、アウモの食料調達係部隊――というめちゃくちゃ特殊部隊扱い。
「それは、もちろん」
「よかった……では、その、動けるようになったら……スープをいただいて……一度魔術師団に戻って……報告させていただきます……」
「だ、大丈夫ですか?」
「は、い……」
本当か?
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