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5章 魔力なし騎士、考える
変らないものも与えたい
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いまだエリウスの指にちうちう吸いついているアウモの頭を撫でる。
すると、アウモはエリウスの指から顔を離してまで俺の手に頭を擦りつけて「もっと撫でて」と意思表示してきた。
可愛い。
「あ、ぱぁーあ!」
「ん? なに?」
「ぱぁーう!」
頭を撫でて、髪を撫でていたらアウモが不意に空を見上げ、指差す。
俺とエリウスでアウモの指差した方を見上げると、太陽がゆっくりと雲の中を昇っていく様が見えた。
眩しくて、綺麗だ。
新しい朝が来た。
そんなアウモの指に朝トンボが止まる。
トンボの羽が朝日でキラキラしていて、アウモはどうやらそれに興味があったのではないだろうか。
細くて小さな指先で、トンボの羽をツンツンと突く。
お腹はいっぱいになっていないだろうが、他のことに興味を向けられる程度には満足したのだろうか?
蜻蛉はすぐにアウモの指先から飛んでいき、俺たちも上昇していくトンボを目で追ってしまう。
「ぱあーーう」
「……アウモはお喋りに興味ない?」
「ぱぁう?」
そんな可愛いアウモを見ていたら、この子ともっと話をしたいと思った。
朝焼けで少し肌寒かった気温も緩やかに上昇していく。
昇り行く太陽にキラキラ輝く銀緑の髪が、そよ風に揺られて眩しい。
神々しい、と思う。
本当に、神様なのだろうな、と。
こんなに近くにいるのに、俺は魔力もない人間で、この子は神様……妖精竜。
話もできないなんて切なくて。
「アウモとお話ししてみたいなって、思ったんだ。アウモは今、トンボが指にとまってなにを考えてたのかなぁって、気になった」
「ぱぁーう?」
「トンボ、可愛かった? 綺麗だった?」
「あーーー……」
首を傾げられる。
うぅん……俺はこの子に――
「フェリツェ?」
エリウスからアウモを俺の方に抱き上げる。
こんなふうに、瞬く間に成長して重くなったアウモの、心の成長も考えてあげなきゃ、と思う。
なにを感じて、なにがつらくてなにが不満なのか、とか。
それでなくとも人と竜と、種族の壁があるのだ。
「このまま話ができないより、話ができた方がいいと思うんだ。その方が、アウモの望みをより明確に理解することができるだろ? 叶えられるかは……まあ、別としてさ」
「それは……確かに。でも……」
「俺たちに近い――人の姿を取ってくれたのもきっとアウモも心のどこかで俺たちと話をしたいって思っててくれたんじゃないかな……なんて」
頰を撫でるとアウモが嬉しそうに笑う。
俺がそう思うように、アウモもそう思ってくれていたらいい。
完全に俺の独りよがりだけど、エリウスのこともアウモのことも対話を重ねていけば最良がわかるような気がする。
いや、エリウスのことは……俺も、エリウスと同じ気持ちだけれど。
それでもアウモのことがあるから、やっぱり簡単には決められない。
エリウスは『頼ってほしい』というけれど、アウモのことはマジで人生をどれほど変えるかわからないからな。
慎重に決めていきたい。
「うーん、そうだね。確かに……。人の手ならペンを掴んで文字も書けるようになるだろうし……食欲の問題が解決するようならそれもアリだろうけれど……少なくとも今は無理なんじゃない?」
「いやいや、文字の読み書きじゃなくて」
「えっと、言葉を教えるってこと?」
「そう!」
人間なら赤子の頃から話しかけてだんだんと覚えるもの。
アウモは卵から孵って一ヶ月程度。
生後一ヶ月程度と思うと、アウモが話せないのはまあ、わかる。
しかし、体の大きさ、姿から見て喋ること自体はできるはずなんだ。
だからたくさん話しかければ、話ができるようになるんじゃないかなーと期待している。
「うーん……まあ、言葉を教えるのはいいと思うけど……」
「じゃあアウモ、俺とお話しできるようにお喋りの練習しようか」
「ぱあ? ぱあーう!」
エリウスは首を傾げているが、俺としてはできるだけ“日常”を大切にしたい。
アウモの日常。
一緒にご飯を食べて、一緒に騎士団の備品や装備の確認をしに行ったり訓練所でみんなと訓練したり。
この子が生まれて経験してきた“日常”を……崩したくない。
そして、正しく成長してほしい。
孤児院で拗ねて落ちぶれる子が、いないわけではなかった。
あんなふうにではなく、俺のように――なんて言えないけど、せめて院長みたいに。
「まあ、アウモもやる気になっているみたいだからいいけど」
「ぱぁうー」
「ヤバァ……もうお腹空いたのか?」
「ぱうぱうー」
アウモからまたもグーっと音が聞こえてきた。
再びエリウスにバトンタッチして、エリウスが微風の魔法をアウモに食べさせる。
だが食べさせながらもお腹はぐうぐう、音を立てていた。
「あ! おおい! エリウス! フェリツェ!」
「マリク! おはようー!」
騎士舎に入ると、マリクが手を振りながら駆け寄ってきた。
どこか少し慌てているようだが、アウモがエリウスの指を吸っているのを見て若干気色悪いものを見る目でエリウスを見る。
まあ、客観的に見ると確かにちょっと怪しい、のかもしれない。
「どうかした?」
「あ、ああ。魔術師団の風使いが訓練所に集まっている! アウモの様子はどうだ?」
「本当か? ありがたい……!」
昨日魔術師団の方でアウモが風魔法を食べてしまったことで、風使いの魔術師は総じて魔力切れを起こした。
エリウス曰く「魔力は寝れば回復するよ」らしい。
つまり、魔力全快の魔術師がアウモに風魔法を食べさせるべく集まってくれた、ってこと……!?
「俺が朝食を取っている間、頼んでもいいかな?」
「お腹鳴ってんな……よし、任せろ。フェリツェは? お前は飯食ったの?」
「ま、まだ」
「お前ら両方飯食ってこい。ほら、アウモ。訓練所でご飯食べような」
「ぱぁぁぁう!」
すると、アウモはエリウスの指から顔を離してまで俺の手に頭を擦りつけて「もっと撫でて」と意思表示してきた。
可愛い。
「あ、ぱぁーあ!」
「ん? なに?」
「ぱぁーう!」
頭を撫でて、髪を撫でていたらアウモが不意に空を見上げ、指差す。
俺とエリウスでアウモの指差した方を見上げると、太陽がゆっくりと雲の中を昇っていく様が見えた。
眩しくて、綺麗だ。
新しい朝が来た。
そんなアウモの指に朝トンボが止まる。
トンボの羽が朝日でキラキラしていて、アウモはどうやらそれに興味があったのではないだろうか。
細くて小さな指先で、トンボの羽をツンツンと突く。
お腹はいっぱいになっていないだろうが、他のことに興味を向けられる程度には満足したのだろうか?
蜻蛉はすぐにアウモの指先から飛んでいき、俺たちも上昇していくトンボを目で追ってしまう。
「ぱあーーう」
「……アウモはお喋りに興味ない?」
「ぱぁう?」
そんな可愛いアウモを見ていたら、この子ともっと話をしたいと思った。
朝焼けで少し肌寒かった気温も緩やかに上昇していく。
昇り行く太陽にキラキラ輝く銀緑の髪が、そよ風に揺られて眩しい。
神々しい、と思う。
本当に、神様なのだろうな、と。
こんなに近くにいるのに、俺は魔力もない人間で、この子は神様……妖精竜。
話もできないなんて切なくて。
「アウモとお話ししてみたいなって、思ったんだ。アウモは今、トンボが指にとまってなにを考えてたのかなぁって、気になった」
「ぱぁーう?」
「トンボ、可愛かった? 綺麗だった?」
「あーーー……」
首を傾げられる。
うぅん……俺はこの子に――
「フェリツェ?」
エリウスからアウモを俺の方に抱き上げる。
こんなふうに、瞬く間に成長して重くなったアウモの、心の成長も考えてあげなきゃ、と思う。
なにを感じて、なにがつらくてなにが不満なのか、とか。
それでなくとも人と竜と、種族の壁があるのだ。
「このまま話ができないより、話ができた方がいいと思うんだ。その方が、アウモの望みをより明確に理解することができるだろ? 叶えられるかは……まあ、別としてさ」
「それは……確かに。でも……」
「俺たちに近い――人の姿を取ってくれたのもきっとアウモも心のどこかで俺たちと話をしたいって思っててくれたんじゃないかな……なんて」
頰を撫でるとアウモが嬉しそうに笑う。
俺がそう思うように、アウモもそう思ってくれていたらいい。
完全に俺の独りよがりだけど、エリウスのこともアウモのことも対話を重ねていけば最良がわかるような気がする。
いや、エリウスのことは……俺も、エリウスと同じ気持ちだけれど。
それでもアウモのことがあるから、やっぱり簡単には決められない。
エリウスは『頼ってほしい』というけれど、アウモのことはマジで人生をどれほど変えるかわからないからな。
慎重に決めていきたい。
「うーん、そうだね。確かに……。人の手ならペンを掴んで文字も書けるようになるだろうし……食欲の問題が解決するようならそれもアリだろうけれど……少なくとも今は無理なんじゃない?」
「いやいや、文字の読み書きじゃなくて」
「えっと、言葉を教えるってこと?」
「そう!」
人間なら赤子の頃から話しかけてだんだんと覚えるもの。
アウモは卵から孵って一ヶ月程度。
生後一ヶ月程度と思うと、アウモが話せないのはまあ、わかる。
しかし、体の大きさ、姿から見て喋ること自体はできるはずなんだ。
だからたくさん話しかければ、話ができるようになるんじゃないかなーと期待している。
「うーん……まあ、言葉を教えるのはいいと思うけど……」
「じゃあアウモ、俺とお話しできるようにお喋りの練習しようか」
「ぱあ? ぱあーう!」
エリウスは首を傾げているが、俺としてはできるだけ“日常”を大切にしたい。
アウモの日常。
一緒にご飯を食べて、一緒に騎士団の備品や装備の確認をしに行ったり訓練所でみんなと訓練したり。
この子が生まれて経験してきた“日常”を……崩したくない。
そして、正しく成長してほしい。
孤児院で拗ねて落ちぶれる子が、いないわけではなかった。
あんなふうにではなく、俺のように――なんて言えないけど、せめて院長みたいに。
「まあ、アウモもやる気になっているみたいだからいいけど」
「ぱぁうー」
「ヤバァ……もうお腹空いたのか?」
「ぱうぱうー」
アウモからまたもグーっと音が聞こえてきた。
再びエリウスにバトンタッチして、エリウスが微風の魔法をアウモに食べさせる。
だが食べさせながらもお腹はぐうぐう、音を立てていた。
「あ! おおい! エリウス! フェリツェ!」
「マリク! おはようー!」
騎士舎に入ると、マリクが手を振りながら駆け寄ってきた。
どこか少し慌てているようだが、アウモがエリウスの指を吸っているのを見て若干気色悪いものを見る目でエリウスを見る。
まあ、客観的に見ると確かにちょっと怪しい、のかもしれない。
「どうかした?」
「あ、ああ。魔術師団の風使いが訓練所に集まっている! アウモの様子はどうだ?」
「本当か? ありがたい……!」
昨日魔術師団の方でアウモが風魔法を食べてしまったことで、風使いの魔術師は総じて魔力切れを起こした。
エリウス曰く「魔力は寝れば回復するよ」らしい。
つまり、魔力全快の魔術師がアウモに風魔法を食べさせるべく集まってくれた、ってこと……!?
「俺が朝食を取っている間、頼んでもいいかな?」
「お腹鳴ってんな……よし、任せろ。フェリツェは? お前は飯食ったの?」
「ま、まだ」
「お前ら両方飯食ってこい。ほら、アウモ。訓練所でご飯食べような」
「ぱぁぁぁう!」
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