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4章 王族騎士、一緒に成長を誓う

アウモの変化(2)

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 信じられない。
 人間の食事を、取った!
 最初あんなに果物を拒んで吐き捨てたりもしていたのに、ちゃんと咀嚼してごくんと嚥下した。
 
「ぱーう!」
「美味しいって!」
「そ、そう……人の食べ物を受けつけるようになったんだね?」
「そう、だね。野菜も食べられる?」
「あぱぁ!」
 
 フェリツェが葉物野菜をちぎって口に運ぶと、アウモはそれも嬉しそうに口に入れた。
 そして、ちゃんと咀嚼。
 ごっくん、と飲み込んだ。
 俺とフェリツェがそんなアウモを凝視。

「ぱーぁう!」
「お、おお……た、食べた……」
「食べた、ね」

 顔を見合わせて再びアウモを見る。
 舌で口の周りをペロリと舐めて、次に手のひらも舐めて、テーブルを舐めようとしたところでフェリツェが頭を掴んで止める。

「こ、こら! ダメだ、そんなことしたら!」
「あぅぽううううー!」
「ダメ! そんなことしたら体の具合が悪くなっちゃうだろ! っていうか、見ててみっともないからやっちゃダメ!」

 とか言いながらテーブルから頭を引き離し、濡れたフキンでテーブルの上を拭き拭きする。
 さすがフェリツェ……!

「食事が足りなかったのかな? はい、フェリツェの分」
「ありがとう、エリウス。風の魔石、食べさせる?」
「そうだね?」

 と、いうわけで簡易キッチンの上にある棚にしまってあった、風の魔石を取り出す。
 体が変化したことで食事が必要になったのだろうか?
 魔力が必要ってこと?
 ゴソゴソしていると、俺の腕を小さな手が掴む。
 フェリツェの悲鳴じみた「アウモ!?」という声。
 振り返ると、妖精翼を生やしたアウモがニコニコしながら棚の中へと手を伸ばしていた。
 狙いは――風の魔石が入った袋!

「ちょっ……!」
「コラ! アウモ!」
「ぱぁー」

 問答無用で風の魔石の入った袋を取り上げ、今日に袋を開けて床に魔石を散らばらせる。
 俺とフェリツェが拾い集めようとする中、その床に散らばった風の魔石をアウモはパクパクと食べていく。
 やはり物足りなかったってことなのか?
 いや、それはそれとして……床に散らばったものを食べるのはお行儀も悪いし汚い!

「ぱぅー、ぱうぅー」
「ぐっ……まさか足りないの?」
「ぱぁーう!」

 とりあえず拾えるだけ拾ったが、俺たちが取り漏らした魔石を食べ終わったアウモは物乞いのように俺とフェリツェの腰の裾を引っ張る。
 またも、俺とフェリツェは顔を見合わせた。
 こんなこと想定外だ。
 そもそも風の魔石はそれなりにいいお値段であり、今ある量とアウモの食べる量を計算して「次に買いに行くのは二週間後かな」と思っていた。
 今朝、フェリツェは今までと同じ量を与えていたはずなのに、どうやら足りないらしい。

「とりあえず……食べたい分だけ食べさせよう。マロネスさんに城の研究所にある風の魔石を提供してもらうから。それで足りなければ俺が町に走る」
「わ、わかった。とりあえず、それで」

 と、いうわけでアウモに食べたいだけ風の魔石を食べさせた。
 なにが怖いって全部食べた。
 二週間分……昨日まで一食につき五個くらいしか食べていなかったのに、百個近くあった風の魔石を、全部……!
 本日何度目かの顔を見合わせののち、げぷぅ、とゲップを吐き出したアウモを抱き抱えたフェリツェがちょっと泣きそうになりながら「どうしよう……どうしよう……」と呟くので、ともかく落ち着かせる。
 さすがは神様。
 人間の想像なんて軽やかに超えていく。

「フェリツェ、とにかくみんなのところに連れて行こう。日常を変えるよりはいつも通りに過ごした方がいいはずだ。その間にマロネスさんと城の風の魔石をかき集めてくる」
「エリウス……ご、ごめん。そうだな。しっかりしないとな、うん! 最悪、風属性の魔物を狩りに行きゃいいもんな!」
「う、うん、まあ」

 風属性の魔物は鳥や空を飛ぶ昆虫などの魔物が多いので、魔力のないフェリツェが挑むのは結構危険なのだがそこはさすが騎士歴七年のフェリツェ。
 それにその時は俺も一緒に行くから、狩りまくってやればいいか。
 アウモの口元をフキンで拭いてやり、抱っこをせがむアウモのご要望にお応えし抱き抱え、出勤。
 訓練所に向かうと案の定、道行く騎士たちは「誰?」という顔。

「副団長か、騎士団長知らない?」
「今日は遠征予算の会議で城に行っている。ところでその幼児、どうしたんだ? アウモは?」
「これがアウモなんだよ」
「ぱぉーあ!」
「は――はああああぁ!?」

 まあ、俺と同じ反応しか返ってこないよなぁ。
 だが、あまりの変化にアウモが人型になったことは瞬く間に騎士団内に駆け巡る。
 ついでに早朝からアウモを観察しにきた研究者や魔術師団員たちにも、ものすごい速度で広まっていく。

「エリウスさーん!」
「呼び出す手間が省けたな。おはようございます、マロネスさん」
「おはようございます! アウモ様が人の形を取られたとお聞きしました!」
「そうなんです。そしてものすごく魔石を食べて、先日購入した風の魔石がすべてなくなってしまいました。アウモが今後食べる魔石を、なんとか確保できないでしょうか」
「ええ……!? 百個くらいありましたよね!? それ、全部食べたんですか!?」
「そ……そうなんです……」

 申し訳ない感じに項垂れると、マロネスさんはぱああ、と表情を明るく変えて「すぐに城の備蓄を取ってきますねぇー!」と駆け抜けていった。
 判断が早い。

「……えっと……マロネス様ってあんなにテンション高い人だったっけ……?」
「えーと……うん、まあ、そうね。なんかパワフルだったね。うん……魔術の研究者のはずなんだけど……」
「魔石はもらえそうで助かるけれど、借りを作るのがなんか怖いな」

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