19 / 45
4章 王族騎士、一緒に成長を誓う
向き合う覚悟
しおりを挟む「はあ……」
漏れた溜息にハッとして口を覆ってしまう。
フェリツェと二人きりで買い物に出かけられたのに、ちっとも距離を縮めることができなかった。
いや、その代わり“父として”という部分で自信を持てずにいたフェリツェは、翼竜に進化したアウモがフェリツェをしっかり“親”として認識していたことに安堵してすっかり自信を持って父親業をやっている。
渡り廊下から訓練所を見ていると、アウモが飛ぶ練習につき合うフェリツェが見えた。
とはいえ、アウモは飛ぶのが上手い。
妖精の翼は風を自在に操れるのか、クルクルとフェリツェの指示通りの場所に下りたり遠くに置いてあるアポウの実を取りに行き、フェリツェの手に持ってくるなどのことが一通りできるようになった。
実に賢い。
完全に人間の言っていることを理解している。
訓練所を囲うように、魔術師団の術師や城の魔術研究所職員がその様子を見て「素晴らしい」「もう完全に人間の言っていることを理解しているな」「進化が早すぎるような気もするが……」等々、漏れ聞こえてきた。
どんどん注目度が上がっているな。
アウモが妖精竜というのは――もはや疑いようもないことだ。
この世界の神の一体が、この国で人間に育てられている。
魔物という脅威があるから、この世界では国同士の争いというものはもうほぼない。
昔はあったらしいが、人の死が増えればその分魔物が増え、強くなる。
どんどん凶暴化して、すべての種族が力を合わせて対応しなければ絶滅の危機に至ったという。
それがおよそ二千年前の話。
すべての種族が一丸となり、世界を滅ぼす規模のスタンピードを収めるきっかけ――四体の妖精竜と、妖精竜の協力を取りつけて“人類”を率いたのが人の神・武神アケレウス。
それゆえに未だ神々には信仰が捧げられるのだ。
その神々の一体が、あのアウモ。
だがこのままアウモがこの国につくと、勢力のバランスが崩れるんだよね。
けれど――。
「いいぞー! アウモー! よーし、次は旋回だ!」
『プォーン』
「上手ーい! さすが妖精竜! 体がもっと大きく成長したら、フェリツェを乗せて訓練ができそうだな」
「なんか今更だけど、俺ってマジでアウモを騎竜にして竜騎士になっていいのかな」
「うーーーーーーーん……さあ?」
セラフを教官に迎え、少しずつアウモを騎乗する竜として教育を開始している。
が、フェリツェは最近妖精竜がどのくらい大きくなるのか、とかさすがに成長したら人間の言うことなんて聞かなくなるんじゃ、とかそもそも神様を乗り物として扱っていいものか、とか……新しい問題、悩みを抱き始めているようだ。
確かになぁ、とそれは周囲も思い始めた。
特に、一番最後。
声は相変わらず大きいが、翼が生えただけでアウモのサイズは変化していない。
その妖精翼も地面に降りると消えてしまう。
どうやら妖精翼は収納ができるらしい。
そんなところも普通の竜とは違うので、学者たちは歓喜した。
神様を育てているのだから、普通とは違う悩みが次から次へと溢れてくる。
『パゥオ!』
「お腹空いた? じゃあ、今日はそろそろ帰ろうか」
『パゥ! パフゥ!』
ただ、アウモは間違いなくフェリツェを“親”として認識して懐いている。
意思の疎通もどんどんできるようになっているし、自らフェリツェに抱っこをせがんできたり頭を擦りつけたりと甘える頻度が増えていく。
その姿を羨ましく思ってしまう。
「やっぱ告白しかないんじゃない?」
「ぐぅ……ディック……」
肩に腕を置いて、ニヨニヨ笑いながら耳打ちしてきたのはディック。
こいつ、完全に俺の気持ちをわかっていて……!
「告白って……」
「愛の告白。つーか、そこをすっ飛ばして関係を進められるわけがないだろう?」
「そ、それは……っ」
確かに。それは……その通り。
唇を結び、視線を背ける。
告白……愛の告白か。
当たり前のことなのに、そこに思い至らなかった。
「いや、でも……今のフェリツェは、アウモの親として頑張っていて……そんな余裕は……。そ、それに、俺が自分の気持ちを押しつけるようなことをしたら、ますます悩ませてしまう。これ以上悩ませたら、フェリツェがハゲそう」
「あっはっはっ! それはそう!」
それはそうって思ってんじゃん!
悩み多き今の状態で、アウモ以外のことで悩ませたら……フェリツェが可哀想。
だが、ディックはそう思っていないらしい。
俺の後頭部を思い切り掴み、指を突き立てられた。
「痛い痛い痛い!」
「お前なぁ、くっだらねぇ言い訳にフェリツェの名前を使うんじゃねぇよ。注目が集まってるってことは、だ。……わかんだろ? お前だって貴族として育てられたんなら、さぁ」
「……っ!?」
ディックは辺境に近い子爵家の六男。
股間のアレが大きければ当主になることもできたはずだが、残念ながら三男に全員が負けたらしい。
いや、その話はともかく……貴族として育てられたなら、とはとんでもない話をぶち込んできたものだ。
そうか、今まで全然考えたことなかった……なんて抜けていたんだろう……!
「アウモを手に入れるために――フェリツェが狙われる……!」
「そう。なんなら、この国の人間以外にも望まれるだろうさ。まあ、人間だけの国は男女婚だから、女が派遣されてくるかもしれないけれどな。この国では男性妻を娶るのが一般的だろう?」
「っ……」
バシッと背中を強めに叩かれる。
ああ、本当に……そうだ、その通りだ。
「他の男に横から掠め取られる前に捕まえておけよ。守る意味でも。……お前の地位ならそれができるだろう?」
「……うん、そうだった。ありがとう、ディック」
76
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

【完結】試練の塔最上階で待ち構えるの飽きたので下階に降りたら騎士見習いに惚れちゃいました
むらびっと
BL
塔のラスボスであるイミルは毎日自堕落な生活を送ることに飽き飽きしていた。暇つぶしに下階に降りてみるとそこには騎士見習いがいた。騎士見習いのナーシンに取り入るために奮闘するバトルコメディ。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる