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2章 王族騎士、子育てお手伝い

リンファドール家にお泊り(3)

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 食事を済ませてから自室に戻り、風呂。
 廊下を挟んで反対側の部屋にフェリツェがいる……と思うと、変に興奮している。
 アウモもいるけど。
 わかってる、アウモがいるのはわかっているけれど――。

「……様子見に行ってみよう」

 我慢できなくなって、自室を出る。
 ほんの数メートルなのに、自宅に彼がいるという事実になんとも言えない緊張感も抱きつつ、ゲストルームの扉を軽く叩く。
 声をかけるとすぐに応じる声が聞こえてきたので、ありがたく扉を開いた。

「お邪魔します。調子はどう? 環境が変わって暴れたりして……」

 ない? と続けようとしたらカーテンにしがみつくアウモを引っぺがそうとしていたフェリツェと目が合う。
 え、ええと……?

「ご、ごめん、急にカーテンに飛びついて……」
『パーウ!』

 アウモがカーテンから下りて、今度は俺に飛びついてきた。
 そのまま服を握ってよじ登ろうとするので、抱き上げる。
 環境が違うから暴れるかと思ったけれど、いつも通り……だな?

「ごめん、急に走り出して。はあ……」
「昼寝したから眠くないのかもね」
「うん。でもさすがにもう寝るよ。明日は買い物に行かなきゃいけないし」
「そうだな」
『プゥァアアアーウ』
「うるさっ……!」

 忘れてたけど、アウモはとにかく声がでかい。
 顔の近くて叫ばれて、俺の耳も一瞬キーーーンと耳鳴りで聴こえなくなった。
 確かにこの声で騒がれたら寮にはいられない。
 そんなことより、質のよいシルク生地の寝間着を着ているフェリツェ……エロいな……。
 健康的な肌に、白い光沢のある生地のコントラストと寝苦しくないよう胸元までゆったりと開いたデザインのかげで鎖骨から鍛えられた胸筋が微妙に見えて非常に眼福。
 小さな頃は気にならなかったけれど、魔物に襲われて痴態を何度も見たせいでやっぱりもう……そういう目でしか見られない。

「ほら、アウモ。そろそろ寝よう。エリウスもせっかく自宅なのにゆっくりできないだろう」
『パウウゥー』
「アウモっ」

 俺が抱くアウモに手を伸ばし、胴を掴んで引き剥がそうとしていた。
 だが俺の寝間着に爪を立てて穴を開けてでも拒否。
 穴の空いた寝間着を見て「ぎょえええ!?」と目を剥いて叫ぶフェリツェ。
 夜、夜だから、と宥めるが「ごめん、ごめん、弁償する……!」と言われるがそんなことしなくて大丈夫だからとまた宥めた。
 可愛い。

「もしかしてまだ眠くないのかな。でも、もう寝る時間だよ、アウモ」
『パウパウウー』
「ああ、もう……!」

 貫通している爪を引き剥がそうとするフェリツェの頭が顎の下に……!
 近い! いい匂いがする……! 俺と同じ石鹸使っているはずなのに!
 堪らなくなって、アウモごとフェリツェを抱き締めてしまう。
 驚くフェリツェがまた、可愛い。

「え、あ? エリウス?」
「えっと……どうせなら、このまま三人で、寝る? ほら、その……孤児院にいた頃みたいに……? どう?」
「――いいよ」

 ダメ元で聞いてみたら、まさかの了承!
 本当にいいの、と思いながらドギマギしつつその状態のままベッドに横たわった。

「ところでなんで離れないわけ?」
「は、離れなきゃダメ?」
「いや……別に……いいけど……」

 さっきリーセンディールに「がんばる」と言ったばかりだ。
 だから、がんばる。
 フェリツェに自分を選んでもらえるように――弟的な存在からしっかり脱却し、生涯を共に生きる伴侶として見てもらえるように。
 アウモがしがみついて動きづらいのを察して、フェリツェがシーツを肩までかけてくれてた。
 フェリツェはトドメに俺の肩をトントン、と軽く叩く。
 幼児にするかのように。
 ……これ、俺やっぱり弟扱いされてる?

「アウモはエリウスが好きなんだな」
「え」
「俺……やっぱりこの子を育てる資格ないのかな……」
「なっ……」

 聞いたこともないような小声で、力のない声色。
 驚いて肩を掴み、「そんなことないよ」と断言する。
 まだ一週間くらいだけれど、アウモを育てるために試行錯誤して頑張っているじゃないか。
 寮から引っ越して、あの古ぼけた見張り塔でよくわからない“本物の竜”を育てようと頑張っている。
 孤児院で一緒に過ごした十年間で、責任を持って子育てをする人だと知っていたから。
 人間の子育てとは違うと最初からわかった上で、竜騎士セラフに色々質問して竜を育てる覚悟もしていた。
 ただ、それがまさかこの世界の神だったとは誰も予想していなかっただけで。

「でも……俺、アウモが食べるものもわかってやれなかった」

 食事を嫌がっている様子なのは、わかっていた。
 俺よりもアウモに食事をあげる機会のあるフェリツェなら、余計にわかっていたはずだ。
 今日、マロネスさんが魔石を与えて妖精竜が魔石を好んで食べると発覚したのは――でもそれは、誰にもわかるわけがない。
 誰が魔石を食べるなんて思う?
 むしろ魔石を皿に盛ってきたマロネスさんの頭がおかし……それは言い過ぎだけど、普通思わない。

「そもそも……妖精竜を育てる資格なんて誰も持ってないよ。でも卵を見つけて拾って、卵が孵るまでずっと背負って側にいたのはフェリツェじゃないか。あのまま川を流れ続けていたら卵から孵ることもできなかったかもしれないし、卵を割って食べようとする魔物に襲われていたかもしれない。フェリツェは間違いなく、アウモのお父さんだよ」
「エリウス……」
「俺も……騎士団の人たちもアウモを育てるのを手伝う。だから本当に、気軽に頼って。というか、妖精竜を育てるなんて国家規模で挑んでいくべき重大事案だよ。むしろどんどん頼むべき。フェリツェが頑張っているのは俺も知っているし、アウモだってちゃんとフェリツェの頑張りはわかっているよ。ね」
「そう、かな」
「うん!」

 力強く頷くと、クスッとフェリツェが笑ってくれた。

「うん。そっか……じゃあ、明日もアウモと一緒に寝るベッド、しっかり選んでこなきゃな」
「そうだね」

 間もなく安堵した寝息が一人と一頭分、聞こえてくる。
 ところで今気づいたんだけど――めちゃくちゃ生殺しでは?
 ……迂闊……!

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