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2章 王族騎士、子育てお手伝い

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「ベッドがぶっ壊れたぁ!?」
「そう……アウモが飛び跳ねてたらバキッと。元々古かったからさ、どうにかしなきゃとは思ってたんだけど。目下問題は今夜どこで寝ようってところ」
 
 と、言われてマリスとディックと顔を見合わせる。
 アウモは訓練所を走り回り、剣を振り回す騎士たちを見て飛び跳ねては奇声をあげていた。
 それを見守りながら、目の下のクマが日に日に濃くなっているフェリツェに相談された内容はなかなか緊急性が高い。
 見張り塔の管理人室寝室ベッドは、あの塔が建設されて以降手入れがほとんどされていなかった。
 さらに使用回数もおそらく片手の数。
 野晒しではないが、放置年数もそれなり。
 シーツも埃まみれでとても使えたものではなかったから、寮で使っていたものを持ち込んだという。
 が、それでも本体の方はすでに相当傷んでいて、アウモの飛び跳ねた衝撃でトドメを刺した、と。
 
「買いに行ったらどうだ? 副団長もそれなら許可くれると思うぜ」
「でもベッドだろう? 南の見張り塔って町とそれなりに近いけど、家具の中でも大物だしその日のうちに持ち帰れるもんでもないじゃないか」
「運送屋の手が空いていればいいけど……最近王子殿下が聖女様と結婚が決まって色々物入りで大忙しって話だぜ。難しいんじゃないか?」
「「聖女様?」」
 
 なにそれ、と俺とフェリツェが聞き返すと、マリスが「えぇ~」と呆れられる。なぜ?
「噂だぜ?」と前置きのあとにマリスが城の門番をした時に聞いた話をしてくれたところによると、昨年冥府の女神の魂のかけらを植えつけられた少女が女神の力に覚醒した。
 死んだ生き物が地上と冥府の狭間で魂の穢れや記憶を剥ぎ取られ、魔物となり、冥府で魂をゆっくりと休め、次の生のために眠りにつく。
 その冥府を守る女神、ルラバイの魂のかけらを得たという少女は死んだあとに剥がされるはずの魂の穢れを、生きている間に剥ぎ取り地上と冥府の狭間に沈める力を持つという。
 それをされることで、なにか得があるのか?
 死んだあと、自動的に剥がされる魂の穢れを生きている間に剥がされて、それでなにかいいことがあるのだろうか?
 それに対してマリスはまた呆れながら「なんか魂が磨かれて、死後の魂の格が上がるそうだ」と説明してくれた。
 
「「はーーーん……?」」
「あまりにも興味がねぇなこの二人」
「だって魂の格? が上がってなんかなんの? 来世で友達がたくさんできるようになるとか?」
「違う違う。神の眷属になれる、とか妖精になれる、とか……なんかそういう、上位存在に格上げされるんだってさ」
「「ふーーーーん?」」
「なにも響いてないな」
 
 再度フェリツェと顔を見合わせるが、やはり俺たちにはピンとこない。
 だが、城務めの貴族や兄――国王や、甥――王子はそれらをありがたく思っているのか。
 俺があまりにも王侯貴族の世界に拒否感があるためか、父上は俺をあまり社交界に関わらせないよう気を遣ってくれていたからそんなことになっているとは知らなかった。
 帰ったら夕飯時に聞いてみようかな。
 いや、興味ないから別にいいか。
 騎士団に関係ないだろう。
 
「俺たちに特に関係のあることとも思えないけれど、まあ、とりあえず運送屋は忙しいってことかだな」
「うんまあそうそう」
「じゃあ、俺たちで運ぶのを手伝ってやろう。軍馬と荷馬車の貸し出しと半休、副団長に頼んでこいよ」
「いいの? ありがとう!」
「エリウスもついてってやれば? この貧乏性、安物買いの銭失いしそう。ベッドなんて長く使うものなんだから、エリウスにいいものを選んでもらえよ」
「ぐっ」
 
 ディックが半目でフェリツェの額を突く。
 孤児院出身で贅沢とは無縁の生活をしていたフェリツェは、基準が安いものをめちゃくちゃ長く使う、が身に染みている。
 俺もそこを矯正されたが、未だに贅沢を好まない。
 だが貴族にとって贅沢は平民の生活を支え、職人の腕を鍛え上げ価値を向上させ、文化を維持するのが役割。
 意識していかねばならないことだ、と教わり意識もそれなりに変わった。
 だが実際安いものは壊れやすいからな……。
 
「でも……」
「見張り塔の管理人室のベッドなら騎士団の経費で落ちるだろう。ほら、早く行かないと半休もらえないぞ」
「今日の寝床がかかっているんだから迷っている時間がもったいないぞ」
「わ、わかった。そうだよな。あ、でもエリウスは――」
「大丈夫。急ぎの任務はないし、騎士団全体で妖精竜生育の方が重要だって言ってたからアウモの寝るベッドを買いに行くって言えば暇をくれるよ」
「そ、そう?」
 
 まあ、実際は有力伯爵家や侯爵家のご令嬢から専属護衛になってくれ、とかの名指し依頼やお見合いの話がひっきりなしにきているんだけれど、父上の権威で全部お断りしてくれている。
 貴族なら婚約者を作り、とうに結婚している年齢だから。
 周りがなんとかして縁を取りまとめようとしてくるんだよなぁ。
 俺はもうフェリツェしか目に入らない。
 父上にもバレているし、「まあ、お世継ぎはリレイザ第一王子マーリス第二王子コリン第三王子がいるから」と言ってもらって、俺が同性婚をするのは問題ないと暗に了承ももらった。
 この国は人間と亜人が共生する、様々な価値観が溢れる国。
 王侯貴族は跡取りが必要な者は後継ぎを産む女性妻と、家を維持、発展させるため仕事のサポートを任せる男性妻を娶ることが普通。
 父上にも複数人の世継ぎのための女性妻と、政を仕切るための男性妻を囲っていた。
 男性妻もしっかり開発すると、裏切ることがなくなるんだそうな。
 まあ、王家に嫁ぐ妻にはそもそも契約魔法で情報漏洩や裏切りや貞操義務を縛るそうだけれど。
 ……あと、王侯貴族はそういう理由から後継ぎは男児。
 兄弟がいれば末の子が15歳になった時に全員同時に一物イチモツの勃起時のサイズを鑑定。 
 もっともサイズが大きかった者を世継ぎに定めるそうだ。
 男女それぞれの妻を満足させなければならない――裏切らせないために――ので、閨技術も教養として学ぶ。
 むしろ必須。
 よその国はわからないが、我が国はそういう風習。
 平民にも男女妻は推奨されているが、養うお金の関係で男女の夫婦が一般的。
 
「ありがとう。じゃあ、副団長捜して頼んでくる!」
「うん」
 
 駆けていくフェリツェに「アウモは俺たちで見ておくから安心しろよ」とマリクが声をかけてくれた。
 手を振りながら駆けて行く後ろ姿を目で追っていると、ディックがこそりと「せっかくお膳立てしたんだから、デート頑張ってこいよ」と耳打ちしてくる。
 あ……。
 
「うん、がんばる」
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