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大武闘大会編

きなコちゃん、束の間の祭りにはしゃぎ遊び悲しむようですよ。(前編)

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 一回戦と同時に行われた二回戦もあっさりと勝ち進んだ俺は、アズールの試合を見に来ていた。


「龍殺しは伊達じゃないんでね。」


「なんで当たらねぇ!!【ブレス・キャノン】!!!」


「肉体が最も幻想種に近い竜人族、バルトフェル・トール!!触ったら最後のドラゴンさながらのブレスが効果なし!」


 おかしい。本当に純粋なヒューマンか?


 さっきは動揺してレベルを推し量れなかった。
 今も本気を隠しているようでわからない。


 だが、相手の竜人族はレベル325ほどだぞ。
 純粋な運動能力で種族的に絶対に勝てないはずだが。


「切り裂き攻撃を右に左に体裁たいさばきのみで避けていく!」


「よっ!よっ!っと。」


「くそッ!なら、正面から!」


「いやいや、悪手だよ。それ。」


 振り込んできた曲刀を避けて、持っていた手にかかと落としを放つ。


「あがぁ!?」


「ちゃんとエモノは持たないと。」


 武器を落としたバルトフェルは奇声を上げるも、すぐに素手で殴りかかる。


 が。


「いい拳だ。歴戦の戦士なんだろう。おじさんよくわかる。」


 岩をも砕く竜人族の一撃をそのまま拳で受ける。


「てめぇ!?」 


「でも、あまりに真っ直ぐ過ぎるかな。」


 アズールは拳を開き相手の手首をつかみ、片腕で後ろに放る。


 そして、振り返りざまに回し蹴りを相手の顔面に叩き込む。


 蹴られたのと壁に叩きつけられたのがほとんど同時に観客には見えたろう。
 それほど速くて鋭い強烈な一撃だった。


「決着!!!!これこそ帝国の最強の地位に座す男の実力。この回もまた手にもつ槍が使われることなく試合終了。」


 アズールは周りを見渡している。そして、


 ん?あいつこっち見てないか?


「おっと。アズール選手、観客席のルージュ選手に向けて手を振っている。麗しき師弟愛です!!!」


「うわ、いつの間に。」「気が付かなかった。」「隣にいつの間に?サインもらえますか!」


 化け物だな。俺は【気配同化】で隣の奴ですら、気がつかないようにしてたのに。
 この距離からも見破るかよ。


「ルージュ選手も振り返します!!ふたりとも順調に進めば決勝戦でぶつかることになります!この大会、一瞬たりとも見逃せない!本日はここまで!明日は三回......!」





「おつかれさまなんよ!そして、おめでとうなんよ!クリムちゃん。」


「ありがとう。そして感謝のもふもふーーー!!!!」


「あ、ちょっと!まってぇぇなんよぉ。あ、あぁ。」


 選手用の出口で待っていてくれたアンコちゃんをモフモフする!!


「よっぽどお盛んで。おおやけが見えへんようで。」


「「うわっ!」」


 忍ぶ者かよ。


「きなコちゃん!唐突に出て来て。びっくりさせないでよ。」


「堪忍してくれやす!!!最初からおりました!!うちを無視してけったいなこと始めたのはそっちやす!!」


 お、気持ちいいツッコミ。


「あれ?そうだっけ。」


「そうどす。昨日もえらいえげつないことをあないに......。」


 白い頬が赤く染まる。


「思い出すだけで赤くなるの可愛いな。ほれ、うさ耳触るからゆるしてくれー!」


「また、許可なく触って!.....ぁう。」


「ほれほれ、こうかこうか!」


「キナちゃん、かわいい.....。」


 普段はくるりと垂れている耳を、指でなぞったりさわさわと触ったり焦らす


 だんだんと、ピンとなってきたうさ耳を指で弾く


「ぁぁあ.....。」


 甘美の声を上げるきなコを更に責めようと耳に顔を近づける。が。


「何やってるんですか?」


 頭にチョップが飛んでくる。


 げ、その声は


「金髪説教エルフのチョロイン!」


「だれがチョロインですか!解雇しますよ!!!」


 それは困る。俺はミルフィーに頭を下げる。


「ほれたへはふるして~!!(それだけは許して~!!)」


「胸の中に顔を突っ込みながらいわないでください!!」


 ナイス拳骨。お前なら世界を狙えるぜ.....グハッ!





「今日はこの街の観光しますよ。どうやら、お祭りもやってるみたいです!」


「へぇ、賑やかだな。」


 やはり大都市だけあって人通りがとても多い。


「そうどすな。年に1回の大武闘大会で盛り上がってます。それに、噂では帝はんが明日からきなはるとか。」


 一同はぎょっとする。(ラミアを除く)


「ほんとか?」


「知りまへん。」


「ま、まぁ街が賑わうですからいいことじゃないですか!」


「そうだな。」


 そんな会話を無視してそわそわしていたラミア


「お姉様!ここはすごいです!鮮血ほどではありませんが美味しそうな匂いが。あ、あれも!」


 ラミアは人ごみの中を勝手に進み消えてしまった。。


「ラミア、ちゃんと終わったら帰って来いよ!」


 返事として、人ごみの中から手が見える。


「じゃ、俺らもいくか。」


「そうですね。こんな大人数で歩くのも大変ですし二つに別れますか。」


「わかった。私は約束通りアンコちゃんとお菓子巡りをするよ。」


「なんよ。」


「わかりました。わたしは、やっぱりラミアさんが不安なので。」


「わかった、きなコちゃんは?」


「決まってるさかい。アルちゃんがいる方どす。」


「わかった、一緒にいこう。集合場所は?」


「この通りの終わりに大きな鐘がついた時計台がおわします。そこでよろし?」


「いいですね。では!」


「じゃ、またあとで。」


「あ、二人とだけだからって変なことしちゃだめですからね。」


「しねぇわ!」





「リンゴ飴。これどう食べるんだ?」


「そのままいただけれるよ。」


「はぅ.....。ん!甘くて美味しいんよ!」


「ほんとだ。飴だから固いのかと思ったらあったかくて美味しい。」


「そうやね。ん、アルちゃん。頬に飴がついとるよ。こぼしてお服を汚したら大目玉をくらってまうよ。」


「ありがとうなんよ。」


 ほほえましい。なんだか姉妹みたいだな。


 リンゴ飴をかじりながら通りを歩く。


「あそこの時計台は、今はつかってへん。戦時中に敵襲の時に使いはったって話。」


「へー。今も残してるんだな。戦争してないのに。」


「せやね。でも、観光としてお金とれはりますから。」


「そんなにビターな回答されるとは思わなかったよ。」


 ホントは、魔族との戦争があり得ることと考えて残しているからという、
 もっとビターい理由をわかっていて、冗談で済ませた。。


 そんな気配りができる、きなコはいい女だ。


「ねぇ、二人とも。あそこにわたあめってのがあるんよ!」


「お、いいね。いこうか。」


「そうやね。」


 幸せな時間を三人で過ごす。


 すごく平和だ。


 いい時間だな。


 でもやっぱり、そんな時間は一瞬で。


 まだ気がつかない。黒い影が俺らを覆っていた。
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