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序章
群青
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男の馬が大きく嘶き止まった。男が降りると少女もまた手綱を引いて地に降り立つ。群青の外套を揺らす長身の若い男は、髪を一つに緩く束ねている。風が吹く河岸には、二人の姿以外なかった。
「フィーネ様!」
「バリス。」
走り寄る男は、明らかに眉間にしわを寄せ、呆れが半分、怒りが半分が同居しているかのようだった。
「何度申し上げたらいいのですか。あれほどお一人で国境に来てはならないと、先日も王より釘を刺されておいでなのに。」
「ごめん、ごめん。でも考え事するには一番なんだよ。それにバリスならこうしてすぐに、いつも来てくれるでしょ?」
フィーネは、愛くるしく澄んだ青い瞳をこちらに向けた。肩まで伸びた茶色い髪は外套とともに揺れ、屈託のない笑顔を見せた。バリスはあからさまに溜め息をついた。フィーネに懲りた様子は見られない。
「万が一ということもあるでしょう。ここは国境なんです。」
時々、バリスはフィーネの行動力と周囲の人間に対する信頼を、微笑ましく嬉しく感じ、ある意味では危険だと思っていた。フィーネは青き国の姫君。次の王となるべき人。そんなフィーネを守る責務についてから、こんなことは日常茶飯事だ。年端の行かぬ少女が、いつか傷つくこともあるのではないかと危惧するのだ。フィーネが背負う国というものが、いつかフィーネを苦しませるのかもしれないと思った。
「バリスに相談したら、絶対止めるじゃない。あれも駄目、これも駄目では息が詰まるもの。」
フィーネは対岸の赤銅色の大地に眼をやり、遠くを見た。幼さがまだ残る表情の中に、次の王としての思いが伺える。大人びたそれは、とても美しいとバリスは思った。
「フィーネ様!」
「バリス。」
走り寄る男は、明らかに眉間にしわを寄せ、呆れが半分、怒りが半分が同居しているかのようだった。
「何度申し上げたらいいのですか。あれほどお一人で国境に来てはならないと、先日も王より釘を刺されておいでなのに。」
「ごめん、ごめん。でも考え事するには一番なんだよ。それにバリスならこうしてすぐに、いつも来てくれるでしょ?」
フィーネは、愛くるしく澄んだ青い瞳をこちらに向けた。肩まで伸びた茶色い髪は外套とともに揺れ、屈託のない笑顔を見せた。バリスはあからさまに溜め息をついた。フィーネに懲りた様子は見られない。
「万が一ということもあるでしょう。ここは国境なんです。」
時々、バリスはフィーネの行動力と周囲の人間に対する信頼を、微笑ましく嬉しく感じ、ある意味では危険だと思っていた。フィーネは青き国の姫君。次の王となるべき人。そんなフィーネを守る責務についてから、こんなことは日常茶飯事だ。年端の行かぬ少女が、いつか傷つくこともあるのではないかと危惧するのだ。フィーネが背負う国というものが、いつかフィーネを苦しませるのかもしれないと思った。
「バリスに相談したら、絶対止めるじゃない。あれも駄目、これも駄目では息が詰まるもの。」
フィーネは対岸の赤銅色の大地に眼をやり、遠くを見た。幼さがまだ残る表情の中に、次の王としての思いが伺える。大人びたそれは、とても美しいとバリスは思った。
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