Collarに光の花の降る

夕凪

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 それは柚木がなにかに気を取られているときに、顕著に表れた。
 デートで泊まったホテルの夜景に見惚れていたとき。
 キスでとろとろになっているとき。
 三隅に抱かれている最中。

 そういう、なにかに夢中になっているときに三隅がCommand命令を発しても、柚木は反応しない。もしくは反応が遅れる。

 それを八代に話したとき、彼は怪訝な表情を浮かべ、
「そんな話は聞いたことがない」
 と言った。

 それは八代が高ランクのDomだからだ、と三隅は思った。

 同じDomでもランクが低ければ、SubはCommand命令に従わない、ということも有り得る。八代ほどの男であれば、どのSubも喜んでCommand命令を受け入れるのだろう。

 しかし八代は首を捻って、
「というかそもそも、UsualのCommand命令でSubが満たされるかどうかが疑問だ。おまえの話を聞く限り、柚木は本当にSubなのか?」
 と、続けた。

 思ってもみない問いかけに、三隅は目を丸くした。

 柚木がUsualなら良かった、と考えたことは一度や二度じゃない。だが、柚木に嘘をつく理由がない。Subと偽ることで彼にメリットがあるとは思えないからだ。
 それを八代へと告げると、八代は顎を撫でながら唇の端に意地の悪い笑みを浮かべた。

「まぁそれを確かめたいなら、俺のところへ連れて来い。Command命令の反応を見ればすぐにわかる」
「嫌だよ。おまえに会わせて、やっぱり本物のDomがいいとか言われたら洒落にならない。できればDomだろうがUsualだろうが、誰にも会わせずに閉じ込めておきたいぐらいなのに」
「束縛男は嫌われるぞ」

 他愛のないやりとりをしつつも、八代の方でも三隅のことは気にしてくれていたようで、柚木をDomに合わせる気がないならおまえがSubに会ったらどうだ、と誘ってくれた。

 SubがUsualのCommand命令にどう反応するのか。
 本物のDomとSubのプレイはどのように行われているのか。

 Dom倶楽部の秘密保持契約書への署名と引き換えに、特別にプレイルームへ立ち入る許可を八代が得てくれた。

 三隅は八代同伴でなんどか倶楽部へ足を運び、数名のSubと会った。
 そして、八代のお気に入りだというSub、澤良木せつとも八代立ち合いの下でプレイを行った。

 澤良木は三隅のCommand命令には僅かも反応しなかった。

 これがふつうの反応だ、と八代には言われたが、三隅にとっては澤良木のSubのランクが高いのではないかと思えた。

 仮に柚木が澤良木よりもランクが下であれば、UsualのCommand命令に反応する可能性も、ゼロではないだろう。

 三隅の持論は八代には鼻で笑い飛ばされたが、三隅にしてみれば柚木はSubだろうという認識が頭から離れなかった。

 期待をしたくなかったのだ。

 本当はUsualかも、と期待をして……やはりSubだということがわかったとき、自分が負うダメージは果てしないだろうから。

 傷つきたくなくて、真実を確かめる勇気がなかったのだ……。





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